没落少女、シャーマンに会う
そうして家の中に引っ張り込まれたグレイスであったが……思わず「うわあ」と感動の声をあげてしまう。シャーマンの家の中はジャスリードの家と違い所狭しと本棚が並んでいて、その中には本がギッシリと詰まっていた。
しかもあちこちに価値の高い希少本と思われるものが混ざっているし、限られた人間しか触れることも出来ないような本すらあった。
「私はバルバ。ベルギア氏族のシャーマンよ。貴方は? お嬢さん」
「わ、私はグレイスですわ」
「そ、よろしくねグレイス」
バルバが手を離すと、そこはどうやら居間のようで他と比べると大分片付いている……というかベルギア刀も飾ってある。そういうところは、やはりベルギアの氏族の一員なのだとグレイスには感じられて。その視線をバルバは追い「あはは」と笑う。
「シャーマンがベルギア刀を持ってるのが不思議?」
「い、いえ。皆戦士だと伺っておりますわ。何も不思議は……」
「いーのよ、疑問を隠さなくても。よっと」
バルバはベルギア刀を壁から外すと「ついてきて」と言って居間から繋がる扉へと歩いていく。
そうすると、そこには中庭らしき場所があり……何本もの丸太も転がっていた。
「ちょっとまってねー」
「え、手伝いま……ええ?」
なんとバルバはその丸太の一本をヒョイと抱えると、中庭の中央に「よっこいしょー!」と一発で深々と突き刺したのだ。驚きの腕力である……明らかに見た目から想像できる力を超えている。
「じゃ、見ててね?」
微笑みながらバルバはベルギア刀を抜き……一刀の下に丸太を横薙ぎに斬り飛ばす。
そして次の瞬間、斬り飛ばされた丸太の欠片に向かい手を突き出す。
「火よ!」
手の平から放たれた火の弾が丸太の欠片に命中し、一瞬で焼き尽くす。焦げた炭のようなものが地面に落ちるのを見届けて、バルバは振り返る。
「どう?」
「ど、どうと言われましても……凄まじい、としか」
「そうじゃなくてえ。オーラは感じた? マナはどう?」
「あっ」
そう、確かに両方をグレイスは感じた。ということは、バルバは。
「確信したみたいだけど? その前に確認。マナとオーラってなーんだ?」
「マナは魔法使いの力の根源。オーラはオーラ使いの力の根源ですわ」
「はい、半分正解」
「えっ」
「そこを勘違いしてると今後辛いわよー?」
そう言うと、バルバは部屋の中に戻って何かを持ってくる。それはどうやら説明用のボードのようで、何やら可愛らしいイラストがついていた。
「まず理解してほしいのは、マナとオーラは発現方法が違うだけで同じものなの」
生き物が空気を肺へと吸い込むように、全てのものにはそれを取り込むべき場所というものが存在する。仮にマナを取り込む場所を「コア」と名付けるとしよう。
「魔法使いはこのコアをマナで満たしていくけれど、取り込める量には限界がある……これがいわゆる才能の差というものね」
そしてオーラ。これは取り込んだマナをコアで変換し身体強化など別の力に変えるものだ。より身体に適した形に変換し続けるようにコアは変化していき、やがて取り込んだマナをその場でオーラに変えるようになっていく。こうなると、オーラ使いは自然とオーラの力を蓄えるようになっていく。
「不思議でしょー? 元は同じものなのに、使い方でコアも変化する……でも多くの人はそこまで考えないから、全く違うものであるように扱われてるの」
「で、ですが。マナとオーラを同時に使う魔法戦士もいますわ。それこそがマナとオーラは違うという証では?」
「違うわよー。だって、私もそうだから分かるもの」
言われてグレイスは絶句する。そうだ、バルバは戦士であり魔法も使う。しかしグレイスには感じ取れないがオーラの力も持っているのだろうか。そう考えるグレイスの目の前で、バルバはベルギア刀にオーラの力を纏わせ輝かせる。
「オ、オーラブレイド……?」
「ね?」
オーラを纏ったベルギア刀を振るうと、先程を遥かに超える切れ味で丸太が微塵にされる。
「オーラコアとマナコアは両立する……というか、分裂するみたいなの。その分、限界値も低くなるみたいなんだけどね」
そこでベルギア刀を鞘に仕舞い、バルバはグレイスへと微笑みかける。
「シャーマンである以上、マナを扱うのは必須。でも此処はベルギア。戦士としても一流でなくてはならないの」
「で、では。ベルギアの戦士……というより蛮族は生まれながらにしてオーラの達人というわけですの?」
「え、違うわよ。アレは単純に身体能力がアホみたいに凄くて、それを鍛え上げてるから化け物じみてきて、そのついでにオーラにも目覚めてるだけ」
「つ、ついで……あらゆる戦士の人生の目標が、ついで……?」
オーラを扱うために日々訓練を積んでいる戦士たちが聞いたら号泣しそうだが、恐らくそれが事実なのだろう。確かにグレイスはジャスリードが此処までオーラブレイドを使った場面など見たことがない。
「ベルギア氏族もそうだけどね。基本的に蛮族は頼れるものは自分の身体って感じの考え方だから。オーラの使い方も独特で健康な肉体の維持に使われてるのよ。ベルギア流オーラ術って感じ。だからほら、みーんな若々しい」
言われてグレイスはハッとする。そういえばバルバも若々しいが、もしかして。
「し、失礼ですがバルバさまは」
「72」
「えっ」
「72歳。でも若い頃から肉体に変化なし♪」
「うわあ」
なんかもう常識を遥かに超えすぎている。理解を諦めようとし始めたグレイスの腕を、バルバは笑顔で掴む。
「大丈夫よ。私の後を継ぐ以上、貴方も同じくらいは出来るようになるから」
ジャスリードと同じこと言ってる。なるほど確かにバルバもベルギア氏族の一員なのだと。バルバの指導による筋トレ兼マナの扱い方の授業を受けながら、グレイスは痛感していた。
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