蛮族、お屋敷に招待される

「無事か? 奪われたものは?」

「いえ、ありませんわ……」

「そうか。王都の法では、こういう時にどうしたらいい?」

「王都の法というか……貴方のところでは、こういう場合にどうなさるんですの?」

「俺のところ? そうだな……」


 少し考えて、ジャスリードはそれを思い出す。


「男でなくなってもらう。それが一番軽い罰だ」

「男でなくなる……そんな魔法があるんですの?」

「いや、物理的手段だ」

「はあ……よく分かりませんわ」

「そうか」


 たぶん世の男が聞けば股間を庇いたくなるような処刑方法であるが、知らないならばそのままで良いだろう。やがて理解を諦めたらしい少女は、ジャスリードを隅から隅まで見回す。


「ずいぶんと、その……個性的なファッションですのね」

「ベルギアの戦士としては問題のない装いだ」

「ベルギア……? 知りませんわね」

「人族の中で暮らしているなら知るまい。俺は蛮族だ」

「蛮族⁉」


 その言葉に少女は立ち上がり、興奮したような表情になる。


「うわあ! 本でしか読んだことありませんわ! 実在したんですわね!」

「俺が此処に居るだろう」

「だって普通の人族にしか見えませんもの!」

「そうか」

「あ、申し遅れました。私はカロリア伯爵の娘、グレイス・カロリアですわ。勇敢にして勇壮なる蛮族のお方、お名前を聞かせて頂けますか?」

「丁寧な挨拶に感謝する。俺はベルギアの戦士、ジャスリード。伯爵……というのは貴族のことで間違いなかっただろうか?」


 ジャスリードの自信なさそうな問いかけにグレイスは小さく笑い「そうですわ」と答える。


「伯爵は貴族か、と聞かれたのは生まれて初めてですわ」

「無知を謝罪する。しかしそうなると、お前……いや、貴方は「青い血」というわけだ……ですね」

「その言い方はあまり好きではありませんが……そうなりますわね」

「では、勇者候補というわけですね」

「へ?」

「青い血の者が勇者候補であると聞きました」

「え……いえ、その。その言い方……まさか、裏事情を知っていらっしゃるんですの?」

「平民は『勇者』にはならないと」

「口の軽い方もいますのね……!」


 大きく溜息をついて、グレイスは周囲を見回し……ついでに暴漢達が気絶しているのを確かめてから、暴漢達がグレイスを縛ろうとしていたロープを見つける。


「まずは、この悪党どもを衛兵に突き出してからですわね。このロープで全員縛ってくださいます?」

「はい」

「それと……そのとってつけたような敬語も必要ありませんわ」

「しかし……」

「私が許します。私相手だけであれば宜しいですわ」


 ちょっとだけ悩み、ジャスリードは「そうか」と答える。


「なら気にしないことにする」


 言いながらテキパキと暴漢達を縛り上げ、軽く蹴りを入れて起こす。


「う、うう……あっ、てめえ!」

「貴様らは衛兵とやらに突き出されるそうだ」

「特に厳しい処罰を与えるように進言しておきますわ。覚悟なさい」

「ち、ちくしょう……!」

「ジャスリード様、その男どもをもう1度気絶させてくださる?」

「了解した」


 ジャスリードの蹴りが男たちを一撃で気絶させ……それを見てグレイスは満足そうに頷く。


「さて、と……ではジャスリード様? その『勇者』の件も含め、お話がありますの。こいつらを引き渡したら、屋敷にご招待させていただいてもよろしいかしら?」

「問題ない」


 どうせ用事もない。ジャスリードは頷き……それに、グレイスは満足そうな笑みを浮かべてみせた。

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