第二話

 ダンジョンに潜り、生活の糧を得る者を総称して「探索者」、探索者の中でも攻略の様子を様々なSNSを利用して世界へと発信する者達を「ダンジョン配信者」と呼ぶ。


「それで、ルベルゼさんはどうして下層に居たんですか?」


 ダンジョン配信者のアイナは銀髪の少女、ルベルゼと共にダンジョンの出口を目指し二人並んで歩いていた。


「そもそも、その下層やら上層やらという単語も初めて聞くのだが」


「え、そうなんですか?」


「そりゃあやつがれはお前が居たあの場よりずっと深い場所で生まれ、このアギトと共に生きてきたのだ。人間など今日初めて見たぞ」


 ルベルゼがなんともなしに吐いた言葉に、アイナは絶句する。


「ん?何だ、そのアホ面は」


 大口を開けて唖然とするアイナにくっくっと笑いながら言う。


「えっと……今の話は本当ですか?」


やつがれが嘘を吐いて何の意味がある」


「ダンジョンは文字通りの人外魔境ですよ!?そんな所で産まれるだなんて……お、親御さんは一体……?」


「さっきも言ったが、やつがれが会った人間はお前が初めてだ、アイナよ」


「そ、そんな事が……」


「そもそも、やつがれは本当に人間なのかねぇ?」


「へ……?」


「"人間に極めて類似する高度な知能を持った魔物"かもしれんぞ?」


 その言葉に再びアイナは絶句した。

 確かにその可能性は全くのゼロではない。

 明らかな違いはあるもののゴブリンやオーガ等、人型の魔物は少なからず存在する。

 彼らは人間には遠く及ばぬものの犬猫等の動物よりは圧倒的に高い知能を持つ。

 集落を作り、小さな社会を形成することもあるし戦闘時には人間顔負けの連携を見せることもある。


「リベルゼさんは魔物…なんですか……?」


やつがれが知るわけないだろう」


「そ、そうですよね……」


「しかし……さっきから鬱陶しいな、この羽付き鼠共」


 リベルゼはそう言うと二人の頭上を飛び回るコウモリ型の魔物を睨み付けた。


「あぁ、あれはバット系の魔物達ですね」


「アレの名などどうでもいい、やつがれの上を飛ぶとは……不愉快だ、アギト」


『承知した』


 翼蛇はそう答えると何やら魔法を発動しようと魔力を練り上げる。

 アイナは急激に膨れ上がる魔力に驚きその場で頭を抑え蹲った。


斬餉ザンゲ


 その瞬間、コウモリ達の鳴き声が途絶えた。


「へ……?」


 瞬前までの騒々しさはどこへやら、しん…と静まり返った異様な光景にアイナは唖然とした。


「ふん、やっと静かになったか」


 周囲に散らばる真っ二つに切り裂かれたコウモリの死骸を一瞥してリベルゼは呟く。

 彼女は依然呆けたままのアイナを見て可笑しそうに笑う。


「なんという顔をしているのだアイナよ」


「な、何をしたんですか……?」


「何って……喰ったんだよ」


 アイナはリベルゼの言葉を胸の内で咀嚼しようとするも結局諦め、疑問を湛えた顔でリベルゼを仰いだ。


「ん?どうした」


「食ったっていうのは……」


「そのままの意味だ、この羽付き鼠共はやつがれの糧となった。そんな事より早く進むぞ、さっさと外に出たいのでな」


 そう言って彼女は歩き始めてしまった。


「あ、待って下さい!」


 アイナは急いで彼女を追った。

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暴喰ノ蛮顎 Some/How @Somehow

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