26話 テスト終わりの小話

 昼休み。俺と昇と碧、それに月見里さんに篠崎さん、他のクラスの大紀も加わっ手の大人数で昼食を食べる事となった。

 相変わらず注目の視線を浴びるが、気にしないでおこう。


「青春活動部の皆も加わって、大きいグループになったなぁ」


「リーダーのユウの人望じゃない? よっ、リーダー!」


 俺がボソッと呟くと、碧が俺の事を持ち上げる。

 おい、俺を勝手にリーダーにするな。


 それに、碧と話すのはまだどこか緊張する。気にしないようにしていても、体育祭の一件をどうしても思い出してしまう。


「そういえば、野球部も順調に勝っているわよね。私はあまり野球に詳しくないから、深くはわからないけれど」


 月見里さんがそう言って、話題は野球部に移り変わった。

 平日で応援できない時もあるが、昇たちは順調にトーナメントを勝ち上がっていた。県内でも、快進撃について大きな話題になっている。


「おう。準々決勝からさらにきつい戦いになるだろうけど、目指すぜ甲子園」


「村山君は、プロを目指しているの?」


「それはどうかな……実力が認められたら、挑戦してみたいけどな」


 昇も、この大会で大きく知名度を上げた。高校野球ファンからも、期待の選手として取り上げられている。

 このままもっと実力をつければ、プロも目指せるかもしれない。


「将来かぁ……全然分からないよね。昇はさ、明確な目標があっていいけどさ」


「常盤さんは、何か目標とかないのかしら?」


「私はそうだなぁ……お嫁さんにはなりたいかな」


「んぐぅっ!?」


 月見里さんの質問に対して、予想外の回答をする碧に、俺は思わずむせてしまう。


「ご、ごめん。ちょっと食べていたご飯が変な所に入って」


 皆が少し変な顔をするなか、碧だけが少し笑っていた。

 最近、親友が小悪魔すぎて辛いんだが。


「……常盤さんは、好きな人とかいるの?」


「うん、いるよ」


(んんんんん……我慢我慢)


 今度は何とか、むせずに平静を保つことができた。碧の奴……俺が耐性ないからって、悪戯するのにハマってるな。


「月見里さんは、好きな人とかいるの?」


「いるわよ。もしかしたら常盤さんとライバルになるかもしれないわね」


 その月見里さんの答えに、俺はドキっとしてしまう。


(好きな人がいる、っていうだけで、俺のことじゃないよな……)


 何自意識過剰になっているんだ俺は。

 ちょっと前の部活で、篠崎さんにも好きな人がいることはわかっているし、皆好きな人がいるのぁ……と思うと、少し自分が悲しい。

 恋愛については、本当にダメダメである。


「大紀は、恋愛とかそこのところどうなんだ?」


 自分の負の感情を考えないようにしようとして、俺は大紀に質問する。

 

「俺も恋愛は全然だな。良いな、って思う子がいるぐらいだ」


 その話を聞いて、俺は少しホッとする。

 何だかみんなが真っ直ぐな分、恋愛について全然の大紀がいてくれて、少し安心だ。



◇◇◇



 期末考査も終われば、いよいよ夏休みという雰囲気になる。

 夏祭りなどのイベントの予定もあって、非常に楽しみだ。


 色々な先生から、一学期最後の授業という事で夏休みの課題を説明される。

 毎日やればなんてことないんだろうが、あいにく俺に計画性はない。


 また、ホームルームでも夏休みの話になる。こういった流れは、小学生の時から変わっていない。

 人に迷惑をかけるな、とかちゃんと勉強しろ、とか当たり前の話ばかりだ。


 そんな夏休みに向けてのホームルームが行われている時に、後ろから肩を叩かれる。

 少し前に席替えがあり、俺の後ろの席は碧がいるため、時々話しかけてくるのだ。


「夏休み、楽しみだね」


「ああ、そうだな」


「まぁ甲子園行けたら、ほぼほぼ野球になっちゃうけど」


「幸せじゃん。それに、7月の終わりには夏祭りもあるしな」


 去年の夏休みは、勉強やら野球部の事で何も楽しめなかった。

 碧だって、今年は楽しみたいだろう。


「あのさ、ユウ。もし時間があったら、また二人で出かけたい」


 碧に後ろから小声で言われて、心拍数が上がる。ホームルームどころではなかった。

 いつも一緒に遊んでいたけど、これからは違う。


「え、それって」


「うん、デート。私の気持ちを伝えた上で、ユウと二人で遊びたい」


「……どこか行きたいところとかあるか?」


「えへへ。なんか彼氏みたいで、ドキドキする」


(ねぇ、俺の親友ってこんなに可愛かったの……篠崎さんや月見里さんを見た時も可愛いと思ったけどさ。まさか身近にいた碧もこんなに可愛いなんて……大馬鹿すぎるだろ、俺)


 一度気にしてしまうと、人間という生き物はそれからずっと考えてしまう不器用な生き物なのだ。

 それに見方が変わると、全然違う景色になるし。


「あれ? もしかして照れてる? ユウってば、可愛いなぁ」


「……いじるのはやめてくれよ。そ! れ! で! どこか行きたいところはないのか?」

 

 心の中で可愛いのはお前だ、とツッコみつつ、改めて碧に行きたい場所がないか問いかける。


「じゃあさ、私たちの通っていた中学校に行かない? 監督もまだいるみたいだし」


「碧は大丈夫なのか?」


「あの事があってから、部室とかは少しトラウマになっていたけどね。でも、今なら大丈夫かなって。過去と決別したことだし、過去の魂を拾いに行こうよ」


「魂って。でも、それはいい案だな。俺も久しぶりに、監督に会ってみたいし」


 中学時代の監督は、俺が信頼できる数少ない年上の人だ。

 俺たちの事件があって、野球部も空中分解して活動停止になった今、何をしているのだろうか。


「じゃあ、決まりだね」


 夏休みの予定に、また一つ楽しみな事が追加された。

 


 

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【年末年始は不定期投稿になります】俺たち青春活動部! 向井 夢士(むかい ゆめと) @takushi710

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