25話 期末テスト

 色々な運動部が夏の大会を頑張る中、俺はというと、珍しく部室で勉強していた。


「あ、相棒!? どうしちまったんだよっ!」


 そんな俺の様子を見て、大紀は血相を変える。なんだか中間テストの時も、こういったことがあったような気がする。


「昇も碧も頑張っているから、ちょっと感化されただけだよ」


 二人の様子を見て、俺も何か頑張ろうという気持ちが少し生まれた。それに、勉強を頑張るのにはもう一つ理由がある。


「ほら、学期末だから面談があるだろ?」


 これが、俺のもう一つの理由だ。お母さんとお父さんが忙しいのに、俺がだらけて成績が悪いようなものなら……どうなるか分かったもんじゃない。


 俺の話を聞いて、大紀と月見里さん、柚葉先輩の三人が嫌そうな顔をする。


「俺も、また親に色々と文句言われるのか……」

「私も、また何か色々言われそうだわ。私の両親は、私の成績だけ気にしているし」

「今年も、地獄の面談がまたやってくるのかぁ……去年は散々だったし」


 三人とも色々なバックボーンが見えて、それぞれ辛そうだなと思う。気にしていない晴馬先輩と篠崎さんが、凄く羨ましい。


「そういや、雄哉はどうするんだ?」


「俺は特例。別に参加するには参加できたけど、まだ一年生の最初だしな。体力的な面とかもあるし」


 ただ特例だからといっても、安心できない。

 この学校には、ゆいねぇがいる。成績が悪すぎると、ゆいねぇから俺の両親に成績の連絡が行くシステムになっているのだ。

 あの人、成績見放題だから楽しい! とか絶対言っちゃいけないこと言ってたし。何なら、俺の面談に参加しようとまでしたからな。コワイ。


 ふとゆいねぇを見ると、俺の思っていることが分かったのか、少しニヤッとする。いかにも性格が悪そうな笑い方だ。

 そしてすぐに、ゆいねぇはまた携帯を触り出す。最近は、部室でソーシャルゲームの周回をすることにハマっているらしい。いや何してんねん。


 俺の親が来ない事を知って、また三人は羨ましそうな顔をする。

 月見里さんについてはある程度聞いたし、柚葉先輩も何となく察しがつく。


「大紀の親も、色々とうるさいんだな。もっと寛容なのかと思ってた」


 見た目が完全にアウトだし、大紀の両親は口うるさく言わないのかと思っていた。


「そんな事ねぇよ……俺の親はどっちも教師で、俺も教師になれとか言われるし」


「そうなのか? じゃあ、もしかしてその見た目も」


「その通り。親に反抗した姿だよ」


 大紀がヤンキーになったのには、そういう事があったからなのか。

 思った以上に深い理由があって、俺は驚く。


「じゃあ、何も言われないように努力したらいいじゃない」


 月見里さんが一言、重い空間を切り裂くようにそうつぶやいた。

 それは、いかにも月見里さんらしい回答だ、


「俺は勉強できねぇし。それに、どうせ色々言われるんじゃねぇ?」


「少なくとも、私はそんな事はないわ。成績しか見ていない、っていうのもあるでしょうけど、成績が良い分にはまだ何も言われていない」


 月見里さんが大紀に向けて、少し強い口調で言う。

 これまで一人で頑張ってきたからこその、強い意志なのだろう。


「俺なんかが、勉強で頑張れると思うか?」


「それは分からないわ。でも、頑張らないで逃げてても何も始まらないでしょう?」


 すると大紀は観念したのか、やれやれ……といったポーズをする。


「降参だ。そこまで言われちゃ、しょうがねぇ。勉強を頑張って、俺は自由を掴む!」


 こうして、大紀も必死に勉強に取り組むこととなった。



◇◇◇



 それから大紀は、見違えるように勉強に取り組んだ。

 月見里さんも言った責任を感じているのか、大紀の勉強をずっと手伝っていた。


「大紀はさ、将来したい事とかあるのか?」


 俺はその頑張る姿を見て、大紀に問いかける。そこまでして、頑張るのはなぜだろうか。


「別にないんだけど、何だろうな……親の言いなりになるのが、嫌なだけかもな」


「月見里さんみたいなことか?」


「そうかもな。この前、月見里に俺たち似ているな、とか言ったら殴られた。やっぱ、女子ってこえーな」


「はは。でも実際、月見里さんにも思うところはあるんじゃないかな」


 現実に向き合ったり、たまには逃げたり。色々な苦労をしてきた仲間だからこそ、思うところもきっとあるはずだ。


「俺も人のこと言えねぇよな。結局、俺もこうして逃げてるんだし」


「俺でもどうにかなったんだ。きっと、大紀も大丈夫さ」


 

 それから大紀の影響も受けて、俺も必死に勉強に取り組んだ。

 篠崎さんや月見里さん、ゆいねぇと色々な人の力も借りた。ゆいねぇは、テストの問題を教えようとしていたけど、あれ冗談だよな?


 そんな猛勉強のおかげもあって、俺と大紀は珍しく高得点を取った。

 スポーツと同じように、猛勉強することで自ずと色々な知識が身についていった。

 あっ、ここ勉強会でやった奴! という感覚は最高だったな。



 テストが返された後、昼休みに大紀がやってきて、改めて月見里さんに感謝を伝える。

 青春活動部、という特異点から繋がった俺たち。最初はどうなる事かと思ったけど、今こうして助け合って、仲良くしている。

 そんなつながりが、とてもいいなと感じた。


「春風君? 何か用かしら?」


 大紀と月見里さんの様子を見ていると、視線に気づいたのか、月見里さんが俺に話しかけてくる。


「いや、こうして繋がりができて本当に良かったなって」


「……そうね」



 俺は青春活動部という居場所を、ずっと大事にしていこうと強く思った――

 


 

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