第5話

日本で考えられてる物語だったり漫画・アニメは、所々に変な『日本臭さ』が出てきてしまうのは仕方のない事かもしれない。

畳やこたつが登場したり、美容と健康推しで温泉掘り当てて一大温泉地にしたり、銭湯を経営したりとかね。

それって何処でも地面を掘れば大抵水(冷泉・湧き水)が出てくる日本っていう土地が稀なだけだからね?


そもそも日本人皆が『お風呂大好き~♡』な民だと思わないでほしい。


知ってる?お風呂って疲れるのよ?

お風呂に入った後眠くなるのは体が温まるのもあるけれど、お風呂に入る事で途轍もなく体が疲れるからなの。


温浴効果なるものもあるのかもしれない、でも入る事で疲れるならプラマイゼロじゃない?

寧ろ温泉の効果というものが私が鈍いだけかもしれないけれど少々実感し難いものである以上、マイナスの方が大きいのではないだろうか?と考えてしまう。

前世で温泉好きの友だちがよく『温泉行こ~♪』と誘ってきたので付き合いで行ってはいたけれど、何故わざわざ疲れに行かなければならないのか!?


リフレッシュとリラックスは別物でしょう?

旅行でリフレッシュ、これはまぁ解る。

でも温泉でリラックスは私に限った話で言えば全く無かったね。

だって温泉に限らず、お風呂に入った後ってガッツリ疲れてるのを実感するんだもの。

だから私はシャワーで済むならそれで全然構わな――――――。


「御託は良いからさっさとお風呂行くよ。私もユニも粉塗れになっちゃったんだから」






という訳でリタに連れられて大衆浴場へ。

何が「という訳で」で何故二人揃って粉塗れかというとヤム粉(小麦粉だと思ってくれて大丈夫)を保管してる倉庫にリート(ネズミっぽい生物)が入ったらしくて、ヤム粉が入ってる袋に穴が空いてて倉庫自体が粉塗れになってしまっていた。


で。


その倉庫の掃除を私とリタですることになって………別に袋の中身をぶちまけたとかじゃないんだけど、二人して粉塗れになってしまった。

これじゃあ今日はお店で働けないねってなって、お店のオーナーさんの方から「ご苦労様」とお詫びの気持ちを込めて、オーナーの知り合いが経営してるお風呂屋さんへの紹介状と私とリタの分のお風呂代をポケットマネーから出してくれたのだった。

でも子ども二人だけじゃ不安だって理由でクラエットさんも一緒に来てもらう事になって、結局オーナーにはクラエットさんの分も出してもらう事になった。


「私は只付き添いで行くだけなのに………」


申し訳なさそうなクラエットさんと、「女性だけではまだ心配だ!!」とオーナーに直談判して半休を取って同行したレンブラントさん、こうして四人でふらふらとお風呂屋さんに行く事になったのでした。




「――――――本当にこんなにも良い所のお風呂に入って大丈夫かな?」


どこか不安そうなリタの言いたい事は彼方の世界の大衆浴場自体あまり行ったことがない私でもわかる。

そこは普段偶にしか来ない場所とは全然違う商業区、それも良いお値段する宿屋さんが多く立ち並ぶ一等地で営業してるお風呂屋さんだった。店先だけでも隅々まで清掃が行き届いていて清潔感がある。

出入りするお客さんも私やリタとは違う、平民というカテゴリーでもクラエットさんのような富裕層に分類される人たちばかりに見える。

すっかり委縮してしまったリタが私の腕を抱くようにして縋りつき、もう片方の手でクラエットさんのスカートを摘まんでいる。


「平民が入れる風呂屋では一、二を争う格の店だな」

「そんなに凄いお店なの!?」


レンブラントさん、これ以上リタを委縮させるような事言わないでよ。

抱き着く力が一気に強くなったじゃない、此処は安心させてあげないと。


「追い返されたりはしないんじゃない?だってオーナーからの紹介状も有るんだし」

「そ、そうよね。もし追い返されてもいつも行ってるお風呂屋さんに行けば良いだけだものね!」


調子が戻って来たリタは私の手を痛いくらいに握ってお風呂屋さんに入る。

まぁ断られたら今度は『いつも私とリタが行ってるようなお店にレンブラントさんとクラエットさんが耐えられるのか』問題が発生すると思うんだけど、そこは敢えて何も言わない。


造りはどうやら前世で見た事あるものと同じ仕様で、『男湯』と『女湯』に分かれていたのでレンブラントさんだけが離れて、私たちは『女湯』の扉を開けて中に入ると………。


「此処はお前たちのような汚らしいガキが来て良い場所じゃないよ。さっさと帰りな」


私とリタが入って目が合うと同時に、番台席に座っていた女の人に冷たくそう言われ、睨みつけられた。

折角お店は綺麗なのに従業員の態度が最悪だね。


「私たちハルバルバート二号店で働いている者で、オーナーの紹介で此方のお店に来ました。此方が紹介状になります」


すかさずクラエットさんが私とリタを背に庇って、番台さんと相対してくれた。


「あの店のオーナーの紹介?………チッ!お湯を汚すんじゃないよ」


ホント態度悪っ!!

このまま身体も流さず湯船にダイブしてやろうかしら?と一瞬考えてしまう。

マナー違反だから勿論行動に移したりはしないけどね。


その後、服を脱いでる間に入って来た身なりの良いお客さんにはとても愛想が良くて、声もワントーン高めで最早別人レベル。接客ってそんなものなのかもしれないけど、見ていて気持ちも気分も悪かった。

日本の御宿のサービスに慣れてしまっている私には、そんな露骨な対応に嫌悪感を抱いてしまうものなのかもしれない、慣れって恐ろしいね。


「ユニ此処座って、洗ってあげる」


もやもやした気分のまま浴場に入り、リタに促されるまま小さな木製の椅子に座ると頭からお湯をかけられる。

そういえばシャンプーとかリンスとか作ってる異世界ものもあったっけ、作り方なんて知らないから今更どうする事も出来ないんだけど。

何か油っぽいの使うんだっけ?――――――ってその時点でダメだね。

『油は高価』だって学んだし、人体に影響のない油を探すのだって一苦労だろうからとてもじゃないけど利益を出せるとも思えない。

材料の選定とその費用、試作、人体への影響も考えての試験期間、どれだけ立派な研究施設を揃えていても、とてもじゃないけど最短でも十年くらい見とかないといけないんじゃないかな?

食品とは違ってお肌に使うものとかってよほどの強い拒絶反応でもない限り、悪影響が表面化し難そうなイメージがあるんだよね。

漫画でもアニメでもラノベでもその辺りは軽視されてる気がする。

あくまでも「フィクションなんだから本気にするなよ?」って事なのかな?………単純に面白くないからカットされてる可能性の方が高そう。





「綺麗なお風呂、気持ちよかった~」


入る前の弱気は何処へやら、大きくて綺麗なお風呂に入れてご満悦のリタ。

帰る時に番台さんに睨まれてたのも気にならないくらい上機嫌だった。


まぁ『難しい問題は全部魔法(未知の力)でまるっとクリア~♪』しちゃってたり、『まるでグ〇ってるかのように何でも知っている』雑学や知識が有るって設定だったりするんだけど、生憎と私にはそんなもの無いからなぁ………。

学校で習った知識だって遠い昔の事だから所々あやふやだし、そもそも頭が良かったわけでもなければ何か一芸に秀でてたわけでもない。

成績で言えば中の下だと自負する、そんな私が異世界に来ちゃって何しろって言うんだろうね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

料理音痴さんは知識チートがしてみたい 暑がりのナマケモノ @rigatua

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ