罪と罰と制裁

(こいつ……なんてタフなんだ……!)


 一条は息を切らしながら思った──ここまでやってもまだ意識があるとは予想外だった。だが、それでも諦めるわけにはいかないのだ。セリナさんを守るためには手段を選んではいられないのだから……たとえ相手が誰であっても容赦はしないつもりだった。


「はぁ……はぁ……」


 やがて神崎の体力が尽きたらしく、彼は動かなくなった──完全に気絶したようだ。


 一条は大きくため息をつくと、その場に座り込んだ──疲労困憊で身体中が痛かった。


「悠人くん! 大丈夫!?」


 心配そうに声をかけてくるセリナに対して、一条は疲れた笑みを返した。


「まあ……なんとかね……」


 すると、セリナは倒れている神崎に視線を移した──その表情はぞっとするほど冷たいものだった。まるで別人のようだと思いながらも、一条はその横顔を見つめることしかできなかった。


「ねぇ、悠人くん」

「えっ……な、なに……?」


 突然声をかけられて驚く一条に、セリナは微笑みかけた──だが、やはりその笑顔にはどこか不気味なものを感じるのだった。


 そして、彼女は言った──神崎に対して怒りを抱いていることを滲ませながら……。


「私ね……神崎くんを許せそうにないの……」


 セリナの瞳には憎悪の色が滲んでおり、その目は真っ直ぐに神崎を捉えていた。その迫力に気圧されながらも、一条は彼女の言葉に耳を傾けた。


「だから……神崎くんには制裁が必要だと思うんだ」

「あっ……うん……」


 一条は困惑しながらも呟く──確かにこのまま放置しておくのは、あまり得策ではないだろう。


 だが、何をすれば制裁になるのだろうか?


「えっと……具体的には何を……」


 一条は恐る恐る尋ねた──すると、セリナはニコリと微笑むと口を開いた。


「それはね……神崎くんが二度と私たちに近づかない──いえ、近づかせなければいいのよ!」

「な、なるほど……」


 一条は思わず頷いた──確かにそれが一番効果的かもしれない。だが、具体的に何をすればいいのだろうか? 


 そんな疑問を抱く一条に対して、セリナは微笑みを絶やさずに言った。


「簡単なことよ……彼の弱みを握るの……」

「えっ……?」


 予想外の答えに、一条は目を丸くした。


「それって……つまり……」

「うん……神崎くんを脅すってこと……」


 セリナの言葉を聞いた一条は苦笑いを浮かべた──確かにそれなら効果があるかもしれないが、本当にそんなことをしても良いのだろうか? 


 しかし、セリナは本気のようだった。

 彼女は真剣な眼差しを向けながら続ける──その瞳からは強い決意のようなものが感じられた。


(こんなセリナさん、初めて見たかも……)


 一条がそんなことを考えているうちに、話はどんどん進んでいく──そして、最終的に決まったことは次のようなものだ。


 神崎は警察には通報しない──その代わり、二度と自分たちには近づかないこと──それがセリナの提案であり、神崎が破れば制裁を受けてもらうという内容だった。


「じゃあ……それで決まりだね」


 セリナの言葉に一条は頷くと、静かに立ち上がった──その表情にはもう先程の冷たさはなかった。いつも通りの優しい微笑みをたたえている彼女を見て、一条はほっと胸を撫で下ろしたが、同時に不安も感じていた。


(なんか今日のセリナさん……怖い感じがするんだよなぁ……)


 そんなことを思いつつも、一条はセリナと共に神崎を見下ろす──彼の寝顔はとても安らかで、とても制裁を受けるような人間には見えなかった。


 だが、セリナは冷たい口調でこう言った。


「神崎くんには相応しい罰を与えましょう……」


 セリナの言葉に、一条は頷くことしかできなかった。


 そして、一条は心の中で思う──。


(大丈夫……だよな?)

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イギリスから転校してきた美少女は、どうやらクラスカーストの底辺である俺に一目惚れしたそうです 神楽坂リン @rin0419

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