第30界 キヨシコノヨル

#1

聖夜の奇跡、その翌日。

迎えた12月25日。

この日はクリスマスであり快と愛里の誕生日だ。


「これが崩壊の影響……」


ゼノメサイアとして完全復活した快は瀬川と共に崩壊の影響を受けた街を回っていた。

瀬川の運転するバイクの後部座席に快は乗っている。

周囲にはクリスマスのために施された装飾がそのままで周囲の街が少し崩れていた。


「あんま気負うなよ、この程度で済ませてくれたのもお前なんだ」


「でもやったのも俺だ、そこはまだ悔やまれるよ……」


あのまま奇跡が無ければこれ以上の被害は確実に出ていた。

もしかすると完全に滅んでいたかもしれない。


「あ……」


すると快はビルに設置された大きなモニターから流れるニュース映像を見た。

そこには世界の崩壊が止まっても止まらない差別の事が映し出されていた。


『昨晩の奇跡により崩壊は止まりました、しかし差別は止まりません。先ほど都内の精神病棟を放火する事件が起こりました』


精神病棟を放火する事件。

現場の映像に映された場所には見覚えがあった。


「そこ、愛里のお兄さんの病院だ……」


一度面会に行ったから覚えている。

愛里の兄の病院が放火された事に責任を感じた。


『患者からは予め避難の準備がされていたため怪我人は出ませんでしたがまだこの問題は続いています』


どうやら愛里の兄は無事らしい。

しかし愛里が心配だ。


「行こう瀬川、愛里に会いに行くんだ」


「あぁ」


快は現状を改めてこの目で見て罪を噛み締めた。


「ちゃんと誠実に向き合うんだ」


こうして二人はまたバイクを走らせ例の避難所に向かうのだった。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第30界 キヨシコノヨル






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自衛隊駐屯地。

そこにTWELVEたちは帰還した。

時止主任が研究室で上を見上げている。


「まだ終わりではないな……」


その見上げたものとは回収された生命の樹。

十字架となったその姿だった。


「彼が言うにはまだ敵は残っている……」


快の発言。

それはまだ敵が居るとの事だった。

一方避難所では咲希が焦っていた。

頭を抱えながら貧乏ゆすりをしている。


「あんな偉そうにしといて失敗とかないでしょ……っ、アタシ一人でどうしろっての……⁈」


新生が作戦を失敗した事を嘆いている。

スマホを見るがそこには何度も新生に電話を掛けているが応答してくれないという表示がされていた。


「創には正体バレてるし、このままじゃ愛里と……っ」


復活してしまった快には自分の正体が割れている。

そんな事を言っていると声を掛けられた。


「私がどうしたのさっちゃん?」


不思議そうな顔をした愛里。

咲希と自分のためか二本のペットボトルを持っている。


「あっ、えっと……」


このままではマズいと焦る。

咲希の正体を知った快がここへ来てバラすかも知れない。

TWELVEと繋がっているのなら誤魔化す事も難しいだろう。


「私なら大丈夫だよ、お兄ちゃんは無事だって分かったし」


放火の件はやはり愛里にも伝わっている。


「火で思い出しちゃったら辛いけど……」


明るく見せているがそれでも不安がある事は伝わる。

よりによって放火という形で襲撃するとはトラウマが掘り返されるかも知れない。


「それは良かったけど……」


咲希の悩みはそこではない。

誰にも頼れない中で必死に思考を巡らせる。


「〜〜っ」


そこで思い付いた案とは。


「愛里、ちょっと具合悪いから保健室つれてってくんない……?」


それは一体何を意味するのか。


「もちろん、大丈夫?」


愛里は咲希の肩を担ぎ立ち上がる。

そして二人は移動を開始した。

移動する間、咲希はスマホを取り出し弄った。

具合が悪いと言っていたため愛里は心配する。


「スマホなんか弄って大丈夫なの?」


「叔母さんに返信しないと、別の避難所いたけど家戻れたって言うから……」


別の避難所にいた咲希と暮らす叔母はようやく自宅に戻れたらしい。

これもゼノメサイアにより安全が確保されたからだろう。


「そっか、みんなも早く帰れると良いね」


そういう愛里の傍らで咲希はスマホを弄る手を見る。

その画面には叔母へのメッセージではなく罪獣のアプリが映されていた。

そして"DEMONS GATE"と書かれたボタンをタップするとスマホを仕舞ったのだ。


「でもお兄ちゃんは心配だな、まだ差別は全然終わってない……」


廊下ですれ違う人々は学校のテレビやラジオでニュース情報を得ている、その音声が彼女らにも聞こえて来たのだ。


『身体、精神、発達、知的など障害を持つと診断されている方は気を付けて下さい』


そのようなニュースの音声を聞いて愛里は先日の瀬川を例えに出した。


「瀬川くんが示したのにね、まだ全然伝わってない……」


「何を……?」


「障害があっても人は上手くやれるって、私あの人たちにも伝えたい……」


「あの人たちって放火したヤツら……?」


愛里は放火をした人達を指して言ったのだ。


「何でさ、アンタの兄さんを傷付けようとしたヤツらだよ……」


咲希は愛里の言動が理解できずに聞き返した。


「うん……でもこのままじゃ繰り返しになっちゃう気がするの」


「繰り返し……?」


思わず聞き返してしまう。

愛里が何を思うのか聞かねばいけない気がした。


「傷つけられてやり返して、やり返された方がまたやり返して……昔からそうじゃない?」 


咲希は無言で聞いている。


「どこかでみんな歩み寄らないと……ずっと辛いまま」


しかし咲希はその話に納得がいかない。

快が導き出した言葉でもあるからなのか。


「みんなで歩み寄るなんて、それじゃあ被害者がバカみたいじゃない……」


そんな話をしていると保健室に辿り着いた。

咲希は愛里に担がれたままニヤリと笑う。


「ホラ、着いたよさっちゃん」


そして保健室の扉を開ける愛里。

するとある事に気が付く。


「あれ、真っ暗……?」


まるで突然光のない世界に迷い込んでしまったかのような。

そんな空間。


「さっちゃん……⁈」


真っ先に友人を心配して振り向くがそこには具合が悪いなど嘘のように元気な咲希が立っていた。


「アタシにはこれしかないの……やり返して、自分の世界を創る事しか……っ!」


そう言った途端、愛里の背後に巨大な聖杯が舞い降りた。


「え、どういう事さっちゃん……⁈」


訳が分からないまま咲希を見ると彼女は嗤ったままこちらに近付いてくる。


「アタシはこんな世界とオサラバして理想を創るの、アンタも一緒に来てほしい!」


狂ったようにそう言って愛里の肩を強く掴んだ。

その真っ暗闇の空間には愛里の叫び声だけが無限に響いていた。


___________________________________________


快と瀬川は愛里に会うために避難所へやってきた。

しかし肝心の愛里の姿が見当たらない、更には咲希も。


「まさか俺らが来ると察して……⁈」


焦りの中で瀬川は純希を見つける。

彼に目撃していないか聞いてみる事にした。


「純希、与方さんと河島さん見てないか?」


「えっと確か……ってか快っ⁈ 快いるじゃん!」


しかし純希には深刻な事態なのが伝わらなかったのか快を見つけ大喜びする。

無理もない、事態は収束したと思っているのだから。


「あぁ純希、久しぶり……」


快はまだ気まずさが残っているため上手く目が見れない。

しかし今はそれどころではないのだ。


「ってか純希、二人を見たのか?」


瀬川が改めて問い直すと純希は答えてくれた。


「えっと確か保健室いくとか何とか……」


それを聞いてより深刻な表情になる二人。

敵にとって大切な愛里という存在と二人きりになるとは何か狙いがあるのかも知れない。


「マズいな、何をするつもりだ……?」


そんな事を快と瀬川は話しているが純希は当然疑問を抱く。


「おいおい、せっかく収束したんだから落ち着こうぜ?」


しかしまだ咲希が残っている。

真相は伝えられないが少しオブラートに包んで瀬川は伝えた。


「いや、まだConnect ONEとしての仕事が残ってるんだ……」


その言葉を聞いた純希は何となく察した。

しかしまだ疑問に思う点がある。


「Connect ONEの仕事ならよ、何で快も一緒なんだ?」


確かに当然の疑問だろう、しかしその真相は答えられない。


「いや、それは……」


困っている快を心配したのか瀬川は快の手を引く。


「とにかくっ、俺ら急いでるから!」


そして快と瀬川の二人は急いで純希から離れ保健室へ向かったのだ。

そして保健室に辿り着いた二人。

扉から伝わって来る違和感、その向こうにはまるで人が居ないかのようだ。


「なぁ瀬川……」


「ん?」


扉を開けて入ろうとする瀬川に快はある話を持ちかける。


「与方さんに渡そうと思ってるコレ、多分河島さんが欲しがってるのもコレだ……」


そう言って快がポケットから取り出したのは自分が首から掛けているものとは違う、もう一つの愛里が持っていたグレイスフィアだ。


「万が一の時は俺が戦って食い止めるからさ、瀬川はこれ持って与方さんとにげてくれ。奪われないように」


そして今のうちに瀬川に手渡す。


「ようやく歩み寄れるんだ、もう邪魔させたくない」


そう言いながら快はドアノブに手を掛ける。


「それに彼女待ってくれてるんだろ、これ以上長引かせる訳にはいかないよ」


そして遂に扉を開けた。

彼らの視界には真っ暗な空間とそこに聳える巨大な聖杯だけが映っていた。


「これは……あ、扉は閉めるな。出られなくなるかも」


「あぁ」


危機感を覚えた瀬川は出られなくなる事を重んじて扉を開けっ放しにする。

そして周囲を見渡しこの空間の異様さに気付いた。


「何だここ……」


そのまま床下に目をやると更に異様な光景が。


「なっ、これって……」


何と床下が透けて見え、そこにあったモノに驚愕してしまう。

そこにはまだ見た事のない凶悪そうな罪獣たちの姿が。


「グゥルルル……」


威嚇をしながらこちらを睨んでいる。


「ヤバいな、こんな所に与方さんが……?」


「愛里っ……!」


愛する人の安否が不安になる。

しかしその疑問はすぐに晴れる事となった。


「愛里は無事だよ、これからもね」


聖杯の裏から声が聞こえる。

そこから咲希が現れた。


「河島さんっ!」


警戒した目で咲希を見つめる。


「愛里はどこ……?」


万が一のため扉は開けたまま安否を聞いた。

すると咲希は希望に答えてくれた。


「ここだよ、ホラ」


咲希がそう言うと巨大な聖杯が輝き出す。

そちらへ視線を向けると何と聖杯の淵に愛里が吊るされていたのだ。


「愛里っ!」


焦る快たちを他所に咲希は勝ち誇った顔をしていた。


「さぁ、誰も傷付かない理想郷のためにアレを寄越しな」


恐らく愛里のグレイスフィアについてだろう。

しかし快たちも渡す訳にはいかない。

この戦いは終結に向けて加速していく。






つづく

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