#6

心に宿る思い出、カナンの丘で両親との再会を果たした快。

まだ何を話せば良いのか分からない、更には気まずさもあり顔を手で隠してしまう。


「えっと、ごめん……何から話せば」


あまりに久しぶりのため他人行儀になってしまう。

死ぬ前もあまり仲良くは出来なかったので少し気まずさが残ってしまっているのだ。


「快、大丈夫だよ」


"大丈夫"という幻聴や愛里と同じ言葉を掛けてもらい快はハッとして顔を上げる。

するとそこには今まで見た事もないほど優しい笑顔をした両親の姿が。


「緊張しなくて良い、家族なんだから」


声まで優しく彼らは快に歩み寄る。


「うん、そうだよね」


彼らは自身の両親なのだ、何を緊張する必要があるだろう。


「俺、あれから色々頑張ったよ。そしてようやく分かった事がある」


優しい笑顔の両親に培ってきたものを伝える。


「誰もが誰かを精一杯愛してるんだ、それに気付いてこっちからも歩み寄る事が大事なんだね」


全ては最初に自分を愛してくれた両親への感謝。


「それさえあればどんな事も乗り越えられる」


「そうだよ、ようやく分かってくれた」


そう言う父親に対し母親も告げる。


「やっと心から快と親子になれた気がする」


そのまま両親も快へ想いを伝えた。


「ずっとここから、生命の樹から見ていた。死んだ時は正直まだまだ心配だったよ、でも沢山の人の支えがあったんだな。例えば彼とか」


そう言って遠くから見つめている瀬川の方を見る。


「うん、アイツは最高だ」


そのような息子の言葉を聞いて母親も感動する。


「良かった、そういう人が出来て」


そして母親は快が今まで出会って来た人々の事を思い浮かべながら告げる。


「全部お互いに歩み寄ったからだね」


快もその通りだと思い答える。


「それもみんなのお陰だから」


少し顔を赤らめながら照れ臭そうに答える快。


「たくさん辛い思いもさせちゃったけどね……」


しかし母親にも悔やむ所はあるようで。

それでも快はそれを含めて感謝の気持ちを伝えた。


「確かに辛かったけど経験しない方が良かったとは思わないよ。辛かったから乗り越えて色んなものが見えた、同じ人達に歩み寄る事が出来たんだ」


全ては自ら培った軌跡。


「幸せに感じられる事があったから乗り越えられたし」


感謝を交えた息子の言葉に両親は関心していた。


「そう、辛い気持ちが分かるからこそ優しくなれたんだな。同じ人達にとっての"ヒーロー"になれた」


そして父親が快に近づく。

それに合わせて母親も近づいた。


「それで快、死ぬ前に言ったどうしても伝えたかった事なんだけどな」


そこで話題を切り替える。

両親の悔いである最期に言えなかった事についてだ。


「う、うん……!」


快は身構える。

遂にその言葉が聞けるのだ。


「お前はもう、自分で答えを導き出してたみたいだ」


「……え?」


一瞬戸惑った。

快は既に理解していると言う。


「母さんと二人で話し合ったんだ、辛い思いを沢山した分"同じ辛さを味わった人達のヒーローになって欲しい"ってね」


遂に放たれたその言葉。

確かに快は既に気付いていた。


「っ……!」


全身に鳥肌が立つような感覚を覚える。


「貴方は自分で答えに気付いて戦って来た、それだけで私たちはもう満足」


目頭が熱くなるような。

あまりに久しぶり過ぎるこの感覚にこれから何が起こるのか想像が出来ない。


「快、大きくなったね」


そう言って自分よりも背の高くなった息子の頭を撫でる。

その瞬間、快は今までの苦しみから解放されるような気持ちになった。


「父さん、母さんっ……」


言葉は無くても"愛している"という気持ちが伝わって来る、全身に伝わる温もりに快は思わず。


「あっ……」


頬を何か温かいものが伝う。

以前感じた事があるような不思議な感覚。


「(そうか、これが……)」


これは"涙"だ。

両親が死んで以来流せなくなった涙がようやく流れたのだ。

止まったままだった快の時が動き出した瞬間である。


「うぅっ、ぐすっ……」


そのまま無言で優しく両親が抱きしめて来る。

快も涙を流したままその抱擁を受け入れた。


「快、よかったな」


遠くから見ていた瀬川も思わず泣いてしまいそうな光景。

そして気がつくと瀬川の意識はこの空間から離れ現実に戻っていく。

彼のここでの役目は終わったのだ。


「あぁ、俺の原罪……それって」


そして快は自らの原罪の真相に気付く。

自らの罪の原点、その正体に。


「愛を拒絶した事だったんだ……!」


ならばするべき事は一つ。

快は原罪を贖うため、ヒーローとして立ち上がる。


___________________________________________


意識が現世に戻る最中、瀬川には新生の声が聞こえていた。


『そんな、あり得ない……!この土壇場で成熟しただと……⁈』


恐らく快の事を言っているのだろう。

予想外の出来事に恐れてすらいるのを感じる。


「……はっ」


そして瀬川たちTWELVEはゴッド・オービスのコックピット内で目を覚ます。


「ど、どうなった……⁈」  


名倉隊長が瀬川に問う。

すると瀬川は優しく微笑みながら一同に告げるのだった。



「帰って来ましたよ、俺たちのヒーローが」

 


その台詞と共に美しい現象がその場で起こったのだ。

彼らに愛を届けるために。


___________________________________________


巨大な新生恵博士が握っている剣。

ソレが彼女の手元から離れ独立した。

そのまましばらく宙を舞う。


「っ……」


一同は息を呑んでその光景を見守っていた。

そして遂にその剣が形状変化をしたのである。


『フォオオオオンッ!』


その剣は螺旋を描くように変化していきその姿は白く輝くゼノメサイアのように成った。


『セヤァッ!』


神々しく輝くゼノメサイアの姿を見た一同。

その全員がまるで神の奇跡を見たかのように固まっていた。

しかしその表情はどれも希望に満ちている。


「あぁ、これが……」


瀬川も息を呑む。

父親の言っていた意味が分かったかも知れない。

"神とは見出すもの"、"神は人間次第で救世主にも破壊者にもなり得る"。

その言葉の意味が。


『セィヤァーーッ!』


そのままゼノメサイアは迫り来るヒトの素体たちと戦いを繰り広げる事となる。

そのヒトの素体たちは相変わらず瀬川たちTWELVEの顔をしていた。


「アハッ、ウフフッ……」


しかしゼノメサイアは恐れず彼らと戦いを繰り広げる。


『ハァァッ!』


拳を突き立てヒトの素体の間を通り過ぎるだけでソレらは浄化されて行く。

まるで神の洗礼を受けたかのようにTWELVEの顔を消して元の姿に戻り消えて行った。


「快……っ」


あまりに美しい光景に開いた口が塞がらない。

尚もゼノメサイアは神々しく君臨し続けヒトの素体を浄化していく。


「フォオォォォン」

 

ヰノ矛を一斉に投擲するヒトの素体たち。

しかし今のゼノメサイアには何も通じない。


『ハァ!』


両手を前に翳すと放たれたヰノ矛は全てゼノメサイアの前で停止する。

そしてソレらは色を変えていき樹ノ剣、そして海ノ剣へと変化した。


『サァァッ!』


その大量の剣をまるで流星の如く放つゼノメサイア。

全ての剣がヒトの素体たち全員に突き刺さる。

そして美しい光を放った後、その場にいた全てのヒトの素体は浄化された。


___________________________________________


ヒトの素体が全てこの場から消えた。

その事に焦りを覚えた新生は巨大な母の体の中から自我を出す。


『人が神に抗うなど……っ!』


巨大な恵博士、その姿は徐々に変化していき巨大なライフ・シュトロームで構成されたインペラトルのように成った。


『赦されるはずがないっ!!!』


両手を大きく広げまるでゼノメサイアを抱き留めようとしているかのようだ。

それでもゼノメサイアは怯まない。


『貴方は神じゃない、俺たちと同じ人だ!』


決意を固めながら力強く言い、こちらも両手を広げる。

するとゼノメサイアの体が徐々に巨大化していく。

そのまま地上を覆いつくすほどの光を放ち地球より巨大に成った。


『うわぁぁぁっ!』


新生は全身から罪に穢れたライフ・シュトローム、バベルによる攻撃を放つが巨大ゼノメサイアには全く通じない。

寧ろ新生の罪ごと抱きしめるかのように腕を縮めていく。


『何故っ、私の罪ごと抱きしめるというのか⁈』


そして巨大ゼノメサイアは新生の罪ごと地球そのものを優しく抱きしめた。

優しく温かい光に包まれ世界は浄化されていく。

新生の乗るインペラトルや恵博士の意思もその場で消え、世界の崩壊も阻止された。


『ハァァァ……』


神からの愛に全世界が包まれた最も愛おしい瞬間である。


「(これが人間に応えて救世主になった神なのか、親父……?)」


瀬川も世界が浄化されていく奇跡に圧倒されていた。

父親の言っていた神を見出す瞬間、瀬川にはまさに今訪れたのだ。


『原罪を知らねば大罪は贖えぬ』


瀬川の父親が言っていた事。

快はまさに原罪を知り世界の崩壊を止める事で大罪を贖ったのだ。


神の絶大な愛は絶望に苦しむ人々に一瞬の希望を与えたのだった。

12月24日、クリスマス・イブに起こったこの奇跡を人々は"聖夜の奇跡"と呼ぶのだった。






つづく

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