#3

 瀬川たちの意識が飛んだ頃、十字の樹は共鳴するように変化を見せていた。


『フォオオオン』


 巨大な十字の樹には背部から縦に裂けるような亀裂が入る。

 そこから何かライフ・シュトロームのエネルギー体のようなものが出現した。


「十字の樹より高エネルギー反応!!」


 司令室からオペレーターが反応する。

 その前から既に一同はモニターに釘付けだった。

 一体何が現れるのか、その全貌を恐怖しながらも待ち望んでしまっていたのだった。


『アァァァ』


 そして謎の声を上げながらまるで神の誕生を祝うような姿で喜ぶTWELVEの顔をしたヒトの素体。

 それらに囲まれながら蛹から成虫が羽化するように十字の樹を破ってある存在が現れた。


「あれは……」


 その姿を見た時止主任が口を大きく開ける。

 ライフ・シュトロームのエネルギー体だが巨大な女性のような姿となり世界を見下ろしている。


「新生博士……っ!」


 その女性とは新生の母であり時止主任の師匠である恵博士だった。


「何故あの姿に……⁈」


「恐らく継一の乗ったあの機体は……」


 新生が乗っていたインペラトルを思い出す。

 恐らくアレの正体こそ恵博士だったのではないか。

 彼女は自身のライフ・シュトロームを物質化する実験をしていた、撃って止めたつもりだったが成功していたのかも知れない。


「止められなかったのか……⁈」


 そして巨大な恵博士は両手で脱ぎ捨てた十字の樹を掬い上げ優しく見つめる。

 そしてその十字の樹は巨大化し一本の剣となった。


「まさか地上に突き刺すつもりですか……っ⁈」


 司令室の田崎参謀も焦りを見せる。

 他の一同も同様に焦る中、時止主任だけは違う覚悟を決めていた。


「(博士……)」


 作戦開始前に持っていたカードキーを見つめながら恵博士と息子であり親友の新生の事を思い出す。


「やっぱり俺は貴女を止める運命みたいです。貴女の考えは正しいと思えない、苦しむ人々も歩み寄れる姿を見たから!」


 瀬川や小林の事を想いながら時止主任はカードキーを思い切り自身のコンピュータに刺す。

 するとモニターにボタンが表示される。


「貴女にも見せてやりますよっ!」


 そしてモニターのボタンにカーソルを合わせエンターキーを思い切り押した。

 その事により人は一歩先に進むのである。


 ___________________________________________


 時止主任のカードキーにより巨大な恵博士は動きを止めた。

 少し苦しそうにしている。


「よしっ、やはり効果が……!」


 レギオンを調べて得た人と罪、ライフ・シュトロームを繋ぐ技術に更に磨きをかけたゴッド・オービス。

 取り込まれた巨大な恵博士の内側から逆に繋がりを見出したのだ。


「後は頼むぞ、君も親友を救い出すんだ……!」


 内側にいる瀬川の意識に語り掛ける。

 後は彼らに託すのだ。

 ・

 ・

 ・

 その意識の中でTWELVEの一同は目を覚ました。


「ここは……?」


 上下左右という概念の無い海のような空間。

 一度来た事がある、"愛の海"だ。


「あそこ!扉がある!」


 蘭子が指を刺す先にあったのは何の変哲もない一般家庭にありそうな扉だった。


「あの扉……」


 瀬川には何処か見覚えがあった。

 それほど馴染み深い扉ではないが一度や二度は見た事がある気がする。


「くっ、行けねぇ……!」


 竜司や陽、名倉隊長も必死に扉に向かおうと愛の海を泳ごうとする。

 しかし誰もその場から動けずただバタバタ動いているだけだ。


「おぉ……?」


 しかしその中で瀬川だけが何故か扉に吸い込まれて行った。

 側から見れば瀬川から近付くようにも、扉から近付いて来たようにも見えた。


「まさか瀬川……」


 一同も瀬川が扉に近付けた事に驚いている。

 そして頼みの綱を彼に託すのだった。


「行け、その先に希望があるのなら」


 名倉隊長が瀬川に向かって言う。

 一同も瀬川を見ながら力強く頷いた。


「……はいっ、行ってきます!」


 仲間たちの声援に応えるためにも扉に手を掛ける瀬川。

 そしてゆっくりと扉を開け、光差す中へ入って行くのだった。


 ___________________________________________



 ・


 ・


 ・


「ぅ……」


 闇の中で瀬川は目を覚ます。

 そしてそれと同時にその闇は何かを見せて来た。


「あれ、ここは……」


 気がつくと目の前には小さなテレビが。

 その前に誰かが座って画面を見つめている。


「新生さん……」


「やぁ抗矢、よくここまで来たね」


 その人物とは新生だった。

 テレビ画面に映る世界が崩壊しかける様子を微笑みながら見つめていた。


「何やってんすか……?」


 隣に胡座をかいて座り問いかける。

 すると新生は静かに答えた。


「見ているのさ、みんなが試練を乗り越えられるかね」


「まさかこれ、神の視点ってヤツっすか?」


「上手いこと言うね、確かに実質神の視点だ」


 そして画面を指差し瀬川に示す。


「流石だよ抗矢、君の導きで人々が試練を乗り越え始めてる」


 指された画面に映っていたのは瀬川のいた避難所の映像だ。

 相変わらず炊き出しを分け合っている。


「ならもう良いんじゃないですか?崩壊を止めて下さい……!」


 試練を乗り越えられるならこれ以上崩壊はさせずに済むと踏んだ瀬川はお願いをした。

 しかし新生は受け入れなかった。


「まだダメなんだ、乗り越えられてるのはほんの一部だけなんだよ」


 そう言ってチャンネルを切り替えるように視点を変える新生。

 そこにはまだ人々が障害者を差別する様子が映されていた。


「障害者施設を襲撃する人々やそれに激情し健常者に復讐する当事者、まだまだ世界そのものは変わっていない」


 そう言われてしまえば何も言い返す事が出来ない。

 となれば瀬川に出来る事は一つ、崩壊を自ら止める事だ。


「くっ……じゃあ快はどこですか?」


「見つけてどうするんだい?」


「アイツをこんな所から救い出して崩壊を止める!アイツが神だなんて……!」


 すると新生はまたチャンネルを切り替えてある視点を映す。


「これは……⁈」


「快くんの心だよ、愛に飢えたね」


 そこに映っていたのは幼少期の姿で孤独にヒーローの人形で遊ぶ快だった。

 所々両親らしき人物の影も映っている。


「本来ゼノメサイアに選ばれるはずじゃ無かったという事実を知りショックを受けて愛を失う原罪の時まで心が戻ってしまったんだね」


「原罪……っ⁈」


 父親と同じ原罪という言葉を使ったため驚く。

 しかし創世教の用語ならあり得なくはないがここまで大事な言葉だとは。


「そうか、聞いているんだね。じゃあ見て知ると良い、彼の原罪が何かを。その上でもう救えやしないんだと」


「そんなっ……」


 瀬川は小さいテレビ画面に釘付けになっていた、親友のまだ知らぬ本当の心を知るために。






 つづく

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