#2
ヒトの素体がアモンの顔を生やし陽に襲いかかる。
しかし周囲から見るとその光景は違っていた。
操縦桿を手放してしまった陽が自らゆっくりと墜落していくように見えたのだ、ヒトの素体は目前で並んだまま。
「陽っ!!」
そちらが現実である。
陽は精神を侵食され幻を見ているのだろう。
「うあぁぁぁっ……」
落下していくウィング・クロウを見て名倉隊長は大声で指示を出す。
「陽っ!シャッターだ!シャッターを展開しろっ!!」
機体全体を覆うシャッターを展開させる事でダメージを軽減させる事を提案する。
朦朧とする意識の中で陽は何とかその声だけは聞こえたようで慌てて指示通りにシャッターを展開した。
「うわぁっ……」
思い切り地面に激突するが何とかダメージは最低限に抑えられた。
その衝撃のお陰か陽は正気を取り戻す。
「大丈夫か⁈」
「あれ、今アモンが……?」
その言葉を聞いた一同は何が起こったのか予想できた。
「まさか精神をやられた……?」
あのヰノ矛による効果は精神汚染だと理解する。
ヒトの素体に目を向けるとヤツらは大勢で並びヰノ矛を構えていた。
『フォオオオ』
全員がアレを食らってしまってはマズい。
しかしあれだけの量の攻撃をどうやって凌いだものか。
すると駐屯地から無線が。
『聞こえるかみんな?』
時止主任の声だ。
何か指示があるのだろうか。
『あの矛による精神汚染は機体から君たちのライフ・シュトロームに侵食する事で行われている』
既に分析を済ませていたようだ。
蘭子のデータが役に立っている。
『不本意だが今の段階で合体を使おう、ウィング・クロウにこそ攻略のカギがあると見た』
あるデータを全員のコックピットに送る。
そこにはウィング・クロウと合体し時の増幅するエネルギーの効果が映されていた。
『ウィング・クロウのシャッターやビームは自身のライフ・シュトロームを切り離す事で放たれている、それを利用するんだ』
どうやら先ほど陽が精神汚染から逃れられたのもシャッターにより侵されたライフ・シュトロームを切り離したかららしい。
『常にオービスの巨大シャッターを展開していよう、そしてビームを使って更にそこにヤツらの矛を封印して消費させるんだ』
ヰノ矛を封印し丸腰にさせる作戦だという。
『エネルギー消費は凄い、負担かかるだろうけどこれしか無いんだ……!』
そのように申し訳なさそうに言うがTWELVEの一同は既に覚悟を決めていた。
「それしか無いんならやってやりますよ」
「負担なんて慣れてますからね」
少し強がってみせる一同。
そして瀬川も力強く言ってみせた。
「快のためですから……っ!」
その声に合わせてTWELVEの機体は合体をした。
キャリー・マザーも来て一体の巨大人型ロボットとなる。
『ゴッド・オービス!!!』
親友を救うため痛みも問わない戦いに身を投じるのだった。
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息子を含んだ世界から憎まれる一同が身を挺して戦う姿を瀬川父親はモニターで見ていた。
隣には小林や他の職員たちがいる。
『おぉぉぉっ……!!』
巨大シャッターやビーム弾を放ちヰノ矛を無効果していく様を不思議に思いながら見つめている。
「世界から憎まれたというのに……」
自然とそのような言葉が零れていた。
すると隣の小林が答える。
「俺も最初はアイツらが戦う理由が分からなかった、あるようには思えなかったんすよ」
かつてこの組織が初めて公に現れた時を思い出す。
「そんなヤツらに仕事奪われたから憎くなって、やりたくないなら俺らにやらせろって思ってました。守りたいものがあって自衛官になったんだから」
黙って小林の話を聞いている瀬川父親。
「でもアイツらにもソレはあったんです。俺は目を背けてた、肯定なんてしたくなかったから」
いつの間にか次の言葉を待ってしまっている。
「でも歩み寄ってくれたから、お返ししなきゃってなって気付いたんですよ」
「……っ」
「アイツらは守りたいもの、親友に歩み寄ろうとしてるんだって」
そこまで聞いて瀬川父親は理解した。
息子はしっかり原罪を見つけてそれを贖おうとしているのだと。
「原罪を贖おうとしているのか……っ」
その真意は小林には伝わらなかったが彼も彼なりの解釈をしていた。
「よく分かんないっすけど、何より自分の信念がある感じじゃないですか?」
その言葉で小林にも真意が少しは伝わっている事が分かる。
「原罪を知らねば大罪は贖えぬ、まずは自らの内から……」
誰にも聞こえないような声で小さく呟いた。
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親友のために身を挺して戦うゴッド・オービス。
定期的にシャッターを展開しビーム弾を連射していた。
「くっ、攻撃多すぎねぇかっ⁈」
あまりに敵の攻撃が多数すぎて集中力がかなり必要である。
維持するのが大変だった。
「陽、大丈夫か?」
「まだ行けますっ!」
先ほどからシャッターはウィング・クロウの陽が中心で放っている。
その体力を名倉隊長は気遣っていた。
『フォアン、フォアン……』
配置を入れ替えてはヰノ矛を投げ続けるヒトの素体。
膨大な数のため防ぐので精一杯だった。
「後ろ!」
「おぉっ」
前方、後方、左右、更には上下など様々な方向から来る攻撃に対応しているため疲労が半端ではない。
蘭子が指示をし陽がシャッターを展開、竜司と名倉隊長がライフ・シュトロームの弾丸やミサイルを放ち瀬川が機体を動かしていた。
「見て!矛の数が大分減ってる!」
蘭子の声で一同は気付く。
集団の方に目をやると明らかにヰノ矛の数が少なくなっていた。
あと少しだと実感し希望が見えた。
「よし、もう少しだぁ!一気に片づけるぜぇぇ!!!」
テンションの上がる竜司に一同は共感する。
更に連射の制度は上がりどんどんヰノ矛を閉じ込めていく。
押し返して余裕も出来たためヒトの素体も数体撃破していく。
「よし、これなら……!」
しかし彼らの気付かぬ地面の上、そこでは飛び散ったライフ・シュトロームとそれに封印されたヰノ矛がウネウネと動いていた。
そしてそれらは新たな何かの形を造り出し空へ昇って行った。
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戦闘を続けているゴッド・オービス。
すると突然相手からの攻撃が止んだ。
「どうしたっ?」
しかしまだ相手のヰノ矛は残っている。
何故ここで攻撃を止めたのだろうか。
『フォオオオ』
攻撃は止まっているが残ったヰノ矛を掲げている。
嵐の前の静けさのように感じて恐ろしさを感じていた。
「あっ、下見て!」
蘭子がある事に気が付く。
先ほど封印したはずのライフ・シュトロームが上昇しヒトの素体が持つヰノ矛に纏わりついていくのだ。
ソレは徐々に色を帯びていきDNAのように螺旋を描いていった。
『アレはっ、あの時の剣か……⁈」
無線で時止主任が驚いている声が聞こえてきた。
「まさか崩壊の時の……?」
『あぁ、あの時の反応と酷似している……!』
なんと神の域に覚醒したゼノメサイアが手にした樹ノ剣と海ノ剣をヒトの素体が両手で持っていたのだ。
それと同時にヒトの素体に顔のようなものが現れる。
「あれは顔……?」
その現れた顔は何故かTWELVEの一同の顔をしていた。
一体に全員分の顔がついている場合もあれば一人分のものもあり数人分のものもある。
「俺たちか……?」
「気持ち悪りぃ……」
自分たちの顔が色々な表情を浮かべている。
笑っていたり泣いていたり。
しかしどれからも苦しみを感じた。
『ゥアアァァァ……』
『ハハッ、ウフフッ』
二本の剣を掲げたヒトの素体たちは突然牙を剝き一斉に剣を投擲してきた。
そしてその大量の剣は集まり一本の巨大な剣になった。
「なっ⁈」
ゴッド・オービスは慌てて今までで一番巨大なシャッターを展開した。
防げるかどうか心配だったがそんな事を考えている時間はなかった。
一瞬で剣はシャッターを貫通しゴッド・オービス本体に流れるライフ・シュトロームへ侵食を始めた。
「ぐあぁぁぁぁっ……!!!」
全員の精神が侵されていく。
他人や自分が交じり合った複雑な感情が流れ込んて来て壊れてしまいそうだった。
『あっ、快……ダメだ』
瀬川の視線の先には宇宙空間のような世界に快が立っている光景があった。
ジッと瀬川の目を見つめているが心は通じ合っていない。
歩み寄りを拒絶しているのを感じる。
『俺はっ、お前に……歩み寄れなかった』
ヘリに乗り本部を離れる快の姿を思い出しながら瀬川は眠りに落ちてしまった。
つづく
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