#2
Connect ONE本部が崩壊の中心として既に近付ける状態ではないため組織は一度自衛隊駐屯地へ拠点を移動させた。
職員たちやTWELVE隊員もそこにいる。
「うわ、裏から行こう」
小林の運転する車が自衛隊の駐屯地に到着した。
しかし自衛隊駐屯地の正面口には人が大勢集まっている。
今回の件を重く見たデモ隊だ。
「とうとうやりやがったな、障害者がふざけやがって!」
「今まで障害者に守られて来たなんて!」
「挙句の果てにこの有様だ!どうしてくれるんだ障害者!」
その様子を見る限りではとてもここから中へは入れそうにない。
小林の車は迂回し裏へ向かった。
「聞いたろ、これが世間の声だ」
車内で諭す小林。
瀬川もそれを聞いて複雑な表情を浮かべた。
・
・
・
そして車は裏口へ。
中に入り駐車すると瀬川はそそくさと車を降りて父親のいるという取調室に向かった。
「すみません、通ります……」
すれ違う自衛官やConnect ONEの職員たち殆どが冷たい視線を送って来る中、それらを掻い潜り瀬川は父親の所へ。
「失礼します」
既に尋問を始めている職員たちに会釈をしてから部屋に入り遂に父親と対面。
その姿を視認した。
「親父……っ」
その姿は数日も経っていないはずなのに酷くやつれていた。
白髪が増え隈も酷かった。
新生に協力していた者としてもっと喜んでいるものだと勝手に思っていたが真逆の装いだったため瀬川は驚きを隠せなかった。
「抗矢か……」
その疲れは尋問によるものなのかそれとも。
とにかく想像以上にやつれた父親を見て瀬川は哀れに思った。
「はぁ、何から話せば……」
とりあえず向かいの椅子に座り父親の顔を見るが向こうはどうしても目を合わせてくれない。
お陰で何を話すのか分からなくなってしまった。
「外そうか?」
すると背後にいた職員が気を遣ってその場から離れ二人きりにしてくれようとする。
「元より息子になら話してくれると思った魂胆だ、声はバッチリ聞いてるから安心しろ」
瀬川をここに呼んだ理由を話してくれるが当の本人はそれ以外の理由も察していた。
「……それだけじゃないでしょう?」
「……あぁ」
「分かってますよ、俺らも疑われてる事くらい」
仲間だから話すという可能性も考慮されている事が分かっていた。
「では妙な真似はするなよ」
そう言って部屋から去っていく職員。
遂に瀬川と父親は二人きりになった。
「どうすれば崩壊は止まる?」
「……」
世界の崩壊について質問をするが彼は黙ったまま。
「蘭子さんが必死にゼノメサイアを救う方法を探してる、情報をくれ」
しかし父親は望んだ答えはくれなかった。
「……そんなものはない」
「ちっ……」
最悪な答えに瀬川は頭を掻きむしる。
「(何も進展なしかよ……っ⁈)」
そんな息子を哀れな表情で見つめる父親。
「……すまないな抗矢」
すると口を開いた。
息子の名を呼んだのだ。
「何を謝る?言っとくけど俺は許すつもりはない」
まだ父親の事を信用していない瀬川。
必死に怒りを抑えて冷静に話そうと試みる。
「当然だ、私は許されない罪を犯した。その罰が現状だ……」
やけに物分かりの早い父親に少し違和感を覚えるがこちらの話を聞いてくれるに越した事はない。
「何だよ、最初から分かってたみたいな言い方だな」
そして少し前のめりになって瀬川は詰め寄る。
「あんただけじゃない、みんな苦しめられてる……!あんたが罰を受けて納得して良い話じゃないんだよ!」
怒号を浴びても父親は何も動じない。
既に何かを悟っているような雰囲気を放っている。
「分かっている、気が済むまで私を罵倒しろ。最も傷付けたお前にこそ権利がある」
「は……?」
「すまない抗矢、私の身勝手で苦しい思いをさせた」
突然これまでの事を謝られ戸惑う。
彼の事は敵だと認識していた、それなのに謝られてまるで敵意は無かったかのような様子に戸惑ってしまう。
「な、何で今更……っ!こんなこと微塵も考えなかった癖に!」
机を思い切り叩いて感情を露わにする。
「神とか言ってよ、ようやくそんなの居ないって分かったってのか……⁈」
するとその問いに対して父親は答える。
「いや逆だ」
「逆って何だよ……」
「今になって私は神の存在を見出した、これまでは……」
その言葉の続きを瀬川は聞きたくなかった。
本当なら今までの苦しみは何のためにあったのか、快が利用された事もだ。
「ふざけんなっ!じゃああんたは信じてないものを無理やり押し付けたってのか⁈そんな都合の良い言い訳が通じるかよ!」
「信じてはいたさ、ただ存在を感じる事が出来なかった。神は居ると言われたから居るのだと思ったに過ぎない」
そこで父親は何故息子にここまでの苦労をさせてしまったのか、自分と神との関係を伝える事にした。
「周りは見出していると言うのに自分だけ見出せなかった、その嫉妬から見栄を張った愚か者の話でよければ聞いてくれ……」
仕方がないので瀬川は自分のルーツを探るためにも話を聞く事にしたのだった。
___________________________________________
語り出す父親。
瀬川は苛立ちを必死に抑えながら聞いている。
「私の家系は創世教の信徒でな、幼い頃から神の存在は当たり前だった。しかし私自身は本当に神が居るという確信が得られなかった、周囲は自らその存在を見出していたと言うのに」
「神を見出すってどうやって……?」
「人それぞれだが一番望ましいものは試練を乗り越え愛を得る事だな。人は皆神が与えた試練を乗り越えねばならん、それを乗り越え愛を感じる事で"これは神からの恵みだ"と思える」
瀬川は新生が言っていた事を思い出す。
辛い事を乗り越えれば幸せになれるという事と近いものを感じた、若しくは同じ事なのか。
「だが私は自分に与えられた試練が何か分からなかった、周囲に置いてかれ焦ったのだよ。そこで無理やりな事をしてしまった」
そこで父親は最も億劫な表情を浮かべた。
「インディゴ濃度というものに興味を抱いた」
「それがどうした……?」
「インディゴ濃度が高い者は神に支える者として、人類を導く者として君臨するという事が聖典に記されている」
そして自らの試練の事を話した。
「私はそのような子を誕生させ神へ捧げる事を自らの試練だと思い込んでしまったのだ。そんな確証は無かった、だが焦りから生き急いでしまったのだよ……」
「まさか……」
「あぁ。インディゴ濃度の高い者を妻として迎え子を産ませた、それがお前だ」
「〜〜っ」
瀬川は思わず立ち上がり頭を抱えてしまう。
「何だよ、神への捧げ物として生まれたのが俺か⁈しかもそれも間違ってたんだろ⁈」
自らの存在意義に関わるような真相が明らかになり動揺する瀬川。
それでも父親は反省からなのか冷静さを見せていた。
「ここからは分かるだろう?見事に望み通り生まれてくれたお前を神に遣わせるため私は教育をした。しかし私自身が神を見出せていない、伝わるはずもなくお前と母親を傷付けてしまった……」
言われた通りここからはよく覚えている。
「母さんは俺を置いて一人で出て行った……」
「お前の母親は神を嫌った、その神のために育てられたお前も……」
悟ってしまった瀬川。
今まで父親が抵抗したため引き取られたと思っていたがこんな理由があったとは。
余計に辛く苦しく締め付けられてしまう。
「それが私の原罪だ。神の試練を履き違え妻子を傷付けた事が……」
彼はかつて快に言った原罪を理解しているようだ、しかしだからと言って許される訳がない。
「原罪って、そんな言い方すれば俺が理解してやるとでも思ったか……っ⁈」
当然の如く瀬川は怒りを抑えられない。
「現に他人の人生をぶっ壊してんだ、今の悲劇だってあんたも協力しただろ!懲りてねぇじゃねーか!!」
その言葉に父親は震えながら力強く頷いた。
「あぁ、遅過ぎた。自らの原罪を知る事により神を見出す事になるとはな……」
「どういう意味だ……?」
「罰だよ、身勝手に試練を履き違えこのような結果を招いた。その罰が神によって与えられているのを感じたのだ……」
もう神という言葉を聞いても何も感じなくなってしまった。
父親の今の哀れな姿を見てしまっては。
「チッ、もう神はいい……」
ここで自分なりの見解を述べる。
「あんなもん神じゃねぇ。みんなを苦しめるようなヤツなんて、そんなもん神って言ってたまるか……っ」
それを信仰する父親も同類だと言わんばかりに告げる。
「抗矢……っ」
何か言いたそうな父親。
だが躊躇っているように思える。
「何か文句でもあるか?」
キッと睨みつけて問うと父親は少し申し訳なさそうに発言した。
「神は自らの手では何もなさらないんだ……」
その言葉を聞いて瀬川は一瞬思考を止める。
「何故かは分からない、ただ神は人々に自ら考え行動する"意志"を与えた。それにより試練を越えるか破棄するかは自分次第なのだよ」
何か全てを諦めてしまったかのような光を失った瞳で語る。
「神は人間次第で救世主にも破壊者にもなり得る、恵みも罰も両方与えられるのだよ……」
そして話題を快の事へ。
「私も快くんも神による罰を受けた……」
ここで快の名前が出て来た事に驚愕する。
「何で快が……」
「彼も試練を放棄した、原罪から目を背け目先の都合ばかり求めてしまったのだ」
そこで父親は息子である瀬川の顔を見てハッキリと伝えた。
「私と同じだ、都合の悪い事を放棄した。どちらもお前を始めとした愛すべき者に歩み寄らなかった……」
これこそが瀬川父が快を気にかけていた理由。
そしてここで使われる"歩み寄り"という言葉。
「何よりも大切なのは歩み寄りだと言うのに、我々は背いてしまったのだ……」
彼からその言葉を聞くとは。
それにより更に悩みが深くなってしまった。
「だからこそ私は彼を導けなかった、私自身が彼と同じ罪を抱えていたのだから……」
「快も罪深いってのか……」
父親も自らと同じ考えを持つ分かり合える存在なのではないか、そう思えてしまうのだ。
・
・
・
そうして部屋を出ると職員に声を掛けられる。
「ゼノメサイアを救うか、やはり考えは変わらないんだな……」
ゼノメサイアの味方イコール新生の味方であると誤解を生んでしまい更に気まずくなる。
「ゴッド・オービスは起動できない、いくら分析しようがお前たちの好きにはさせない」
まるで正義を気取るかのような言い方に瀬川は苛立ちを覚えたがグッと堪えた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます