#3
父親との話を終えた後、瀬川は時止主任の所へ向かった。
ゴッド・オービスの状態が気になったのである。
「どうも……」
「あぁ抗矢くん。ごめんな、まだ整備に予算を回してもらえなくて……」
視線の先にはボロボロのゴッド・オービスが横たわっていた。
先の戦いの後の状態そのままである。
「やっぱ俺ら信用してもらえないですね……」
「これ以上危険な事をさせないって意味もあるかもな、その分避難民に予算回せるし」
彼らが被害を起こしたという事は未だに信じられている、つまりその機体であるゴッド・オービスも信用されていない。
今のままでは出撃は到底できない。
「これじゃあ何も動けない……」
瀬川は考えた、親友を助ける方法がまだないか。
「快を助けたいのに……」
そこで時止主任は思い出す。
他に組織が回収したものが実はあるのだ。
「そいえば例のものからとんでもないデータが取れたんだ、大分研究が進んだよ。蘭子の分析データもあってね」
そう言って時止主任は瀬川を格納庫内へ案内した。
そこに置かれていたのはレギオンの抜け殻の一つ、その巨大にパイプなどを繋げて聳えていたのだ。
「やっぱり不気味ですね……」
「中身はもっとヤバかったよ、ホラこれ見て」
そう言って時止主任はパソコンから分析結果を見せる。
そして分かりやすく解説をした。
「これがレギオンと呼ばれる兵器のデータ、そしてこれが旧支部で発見された人の罪、バベルってやつのデータだ」
恵博士がかつて生み出してしまったバベル。
時止主任はその瞬間を見ていた。
「見てみろ、どうだ?」
二つのデータを比べて見せる。
しかし瀬川の反応は微妙だった。
「似てるけど違いますね……?」
その通り似ているが若干の違いがある両データ。
しかし時止主任はここにあるものを加えた。
「じゃあこれなら?」
その加えられたものとは。
どう見ても人間のデータだった、一般的な人のライフ・シュトロームである。
「人がどうなるんですか……?」
この時点で瀬川は嫌な予感を覚えた。
時止主任はデータを照合していく。
「見てろよ、こうやってバベルのデータと人のデータを照合させると……」
その結果を見て瀬川は目を疑った。
バベルと人を合わせたデータとレギオンのデータがほぼ一致しているのである。
「つまりレギオンはバベルで出来た機体って事だな、しかも更にとんでもない事がわかったぞ」
そう言ってある別のデータを取り出す。
瀬川にある質問をした。
「これ、何のデータだと思う?」
「え……?」
見せられたそのデータは人と罪を合わせたものやレギオンのものと殆ど同じだった。
まだ近い存在があると言うのか。
「バベルとかレギオンのじゃないんですか……?」
そう答えると時止主任は深刻な表情を浮かべて瀬川に確認した。
「覚悟はいいか、聞いて驚くなよ」
「何すか、急に……?」
「この結果を聞いた後、他のTWELVE隊員はあまりのショックで今も寝込んでる」
そのような言葉を聞いて少し恐れを抱いてしまう瀬川。
しかしもう後には退けない。
「それでも教えて下さい……っ」
しっかり伝えると時止主任は頷いた。
そしてそのデータの正体を伝える。
「このデータはな、"罪獣"のものだ」
「……うそだろ」
「お前たちが倒して来た罪獣のデータとレギオンや罪と合わさった人が一致するんだ、その意味が分かるか?」
嫌な予感は的中してしまった。
時止主任は言葉を続ける。
「信じたくないが罪獣の正体は人って可能性があるんだよ」
だとしたら瀬川たちは今まで人を殺して来たという事なのだろうか。
本当だとすれば絶望は計り知れない。
「悪いがあともう一つ、伝えるべき事がある」
「……まだあるんですか?」
「これはお前たちTWELVEの今後に大きく関わる事だからな……」
そして瀬川はもう一つ衝撃の事実を伝えられる事となる。
・
・
・
その事実を聞いた瀬川は自衛隊駐屯地の廊下を歩いていた。
向かう先は居住区である、他のTWELVE隊員がそこにいるためだ。
「陽さん……っ」
何故か陽の名前を呟き瀬川は歩くスピードを速くして彼らの所へ向かった。
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自衛隊駐屯地の居住区、その共用トイレの中で陽は鏡を見つめていた。
その中にはもう一つの人格、アモンが写っている。
「アモン、本当にそうなのか……?」
『知らねぇ、俺も知らなかった……』
明らかに動揺を見せているアモン。
『俺はただお前を守れると思って……っ』
まるで自分の存在が脅かされるのを恐れているかのようだ。
そこでトイレの扉が開きある人物が。
「陽さんっ」
それは瀬川だった。
心配するようにこちらを見ている、恐らく知ってしまったのだろう。
「時止さんから聞いた?」
「はい。もう一つの人格の事、聞かせてもらいました」
「じゃあ仕方ないか……」
そう言って二人はトイレを出る。
陽は自室に案内しようとした。
「おいでよ、そこで話そう」
そして二人は陽の自室へ向かった。
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・
陽の自室と言ってもTWELVEの男性陣による共用の部屋だった。
なので名倉隊長や竜司もそこにいる。
「おー瀬川、色々大変みたいだな」
なるべく明るく瀬川を迎える竜司。
しかし無理をしているのは伝わって来た。
「みんなも同じじゃないですか、マトモに外にも出れない……」
TWELVEへの差別は相当なもので自衛隊駐屯地に置かれるのも嫌がられている。
「こんなんほぼ牢獄よ」
少しでも明るく振る舞おうと冗談を交えて話してみるがすぐに虚しくなったのでやめる竜司。
本題である陽の方に視線を向けた。
「じゃあ簡単に説明するよ、僕とアモンの事」
そこで簡易ベッドに腰掛けた陽が自分の事情を話し始めた。
「あくまで時止さんの推測だけどアモンは僕に宿った罪獣の可能性が高い」
真面目なトーンで語り出す陽。
一同も真剣に聞き始める。
「本人も分かってなかったみたいだけどこの間の現象に反応してたし少なくともレギオンと同類なのは間違いない」
そして竜司がある話題を持ちかける。
「そのレギオンってのもアレなんだろ……?」
「うん、アモンがこれだけは教えてくれた。感じたんだって」
謎の集団だったレギオン、その正体に迫る。
「レギオンは僕と同じ、紛争を生き残った少年兵たちだ」
かつて陽と同じ中東で戦い新生に保護された少年兵たちがレギオンだったのである。
「でも何で陽だけ……」
「わからない、でもインディゴ濃度とかが関係してるんじゃないかな……?」
ここまでハキハキと推測を語っていく陽に瀬川は関心する。
「なんか見違えました陽さん、覚悟が違うっていうか……」
「僕たちの問題も大きく関わってるからね、良い加減弱いままではいられないよ」
確実に心身共に強くなっている。
しかし問題がまだあった。
「でも機体はボロボロ、整備もしてもらえないし今は何も出来ないのが辛いね……」
瀬川も抱いていた気持ち、何も出来ないもどかしさがあるのだ。
「しゃーないけど何かな、俺らも悪みたいに見られてるのしんどいぜ……」
その竜司の言葉に全てが詰まっていた。
新生と同類と見做され機体を整備してもらえない。
「そのせいで瀬川くんも大変でしょ、避難所とかさ」
「はい、障害者への差別が露骨になってきてますね……」
「……そっか」
難しい表情を浮かべる一同。
本音をここで語っていった。
「結局俺たちで世界を救うしか見直される方法はないのか……?」
竜司がそう言うと一同もその意見に賛同したようで。
「仲間だと思われてる僕たちが止めるって事だよね」
その話を聞くと瀬川は居ても立っても居られなくなってしまう。
「隊長、蘭子さんの分析はどうなってますか?」
「経過報告が何もなくてな、ずっと部屋に篭ってる……」
「そうですか……」
蘭子の話が出て竜司や陽も反応を見せた。
「蘭子ちゃんにも負担かけちまってるな……」
「快くんを救って崩壊を止める方法を見つけるなんてそんな都合の良い方法、見つかるのかな?」
陽が言ったように蘭子には世界を救う方法を分析して探ってもらっている。
しかし報告がないという事は何も進展がないのだろう。
「快、今どんな気持ちで……」
親友の事を考えると胸が痛くなる。
「信じてるんだな、親友が生きて待っていると」
名倉隊長が問うと瀬川は力強く答えた。
「はい、だってアイツは……」
そして瀬川は自衛隊駐屯地を去ろうとした。
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帰ろうと駐屯地の廊下を歩いているとある声が聞こえる、それは時止主任と田崎参謀のものだった。
「ダメです攻撃なんて!まだゼノメサイアの生体反応は残ってる、切り離して救い出せば崩壊は止まるんですよ⁈」
「我々はゼノメサイアの生存こそが崩壊を起こしていると判断したのです、よって生命を停止させるまで攻撃しますっ!」
なんと自衛隊は自らの兵器を使い崩壊の中心と成っているゼノメサイアと生命の樹を破壊するというのだ。
「そんな事っ!ゴッド・オービスを整備して下さい、TWELVE達が今救い出す方法を探してますから!」
「信用できるとお思いですか?彼らが兵器を使いまたあのような事を起こすとも限りません!」
確実に自衛隊がゼノメサイアを攻撃する意見は可決されるだろう。
このままではマズい、親友が殺されてしまう。
「くっ……」
瀬川は頭を悩ませある場所に向かった。
・
・
・
その場所とは父親のいる取調室である。
そこでは他の職員が既に尋問を行っていた。
「本当にゼノメサイアと一体化した樹を破壊すれば崩壊は止まるんだなっ⁈」
「あぁ止まる、だがそんな事をしては……」
無気力だが彼らの意見に賛同しかねる旨を見せている父親。
それでも職員は全く信用をしていない。
「何だ、また神の恵みとか言うのか?こっちは世界を背負ってるんだ!」
そう言って情報が間違いない事を無線で上に報告する。
そのタイミングで入ってきた息子に少し警戒する職員。
「……何しにきた?」
「ちょっと、親父と話しに」
「何度も言うが足掻こうとも無駄だからな、お前たちの好きにはさせない」
彼は上への報告などに忙しかったため通してくれた、そしてもう一度父親と向き合う。
「おい、本当に快を救う方法はないのか?」
「ない、だから今は動くべきではない」
答えは変わらず、瀬川は思わず憤慨してしまった。
「このままだと親友がっ!それに俺たちも証明しなきゃ、世界を救って敵じゃないって……!」
その言葉を聞いた父親はまた息子を哀れな目で見つめる。
「まるであの時の快くんだな」
「何だって……?」
「あの悲劇を起こした彼も大罪を贖う事ばかり考え原罪を放棄した、今のお前もそれだ」
またよく分からない話をされた事で瀬川は更に苛立ちを覚える。
「また原罪か、何なんだよそれは……!」
父親は息子に原罪の意味を解く。
「原罪、それは人の罪そのもの。それがある限り人は何度でも罪を繰り返す」
「は……?」
「罪を犯してしまう根本的な人間性と言えば分かりやすいか?まずはその心から悔い改めねばならん」
そこで父親はあの時、快が世界を崩壊させてしまう時の事を踏まえて語った。
「快くんは何より人から愛される事ばかり望んだ、その結果身勝手にもあのような事になった。私は思ったのだよ」
「何を?」
「原罪を放棄した事により神が怒ったのだと。そこで初めてハッキリと神を感じたのだ」
先程の父親との会話からも辻褄が合ってしまう。
今の哀れな父親が悟っている様子を見て瀬川はもうどうすれば良いのか分からなくなってしまう。
「俺たちも崩壊を招くってのか……?」
「その可能性は大いにある」
「〜〜っ」
そして父親は息子に助言をした。
「原罪を知らねば大罪は贖えぬ」
その言葉の意味も添えて。
「根本から人間性を改めねば真に罪を贖う事など出来ない、また繰り返す。まずは自分自身を見つめ直してみろ」
そう言われた瀬川はどうにも出来ない怒りだけが沸々とわいた。
「チッ、自分も同じとか言ってた癖に偉そうにしやがって……!」
そしてゆっくりと力なく立ち上がりその場を去るのであった。
今の自分では親友は救えない事、そして何よりそう思う事で父親を信じてしまっているかのように感じてしまいアイデンティティが崩れたのだ。
つづく
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