第28界 カエルベキバショ

#1

夢の中で愛里にはニュースの映像がフラッシュバックしていた。


『この事態を招いた存在、障害者はどのようにして世界を……』


ニュースの映像を見た人々は口を揃えて文句を言い始める。


「自分たちが導くだって?」


「ふざけやがって、どこまで自分勝手なんだ」


「電車にいる障害者もこんなこと考えてたのかな?」


そして一同の気持ちは一つとなっていく、最悪な形で。


「「障害者を許すな!」」


「ーーーはっ」


絶望の中で愛里は目を覚ます。

そこは愛里が通う高校の体育館だった、周囲には多種多様な敷物や布団が置かれている。


「(夢じゃなかった……)」


溜息を吐いた愛里は周囲を見渡した。

そこでは警察や自衛官、Connect ONEの職員たちが避難民たちの支援をしている。


「炊き出しはこちらに並んでくださーい」


豚汁やカレーなどの炊き出しを自衛官が出している中でConnect ONEの職員は配膳を手伝っていた。

主に怪我で動けず自力で取りに行けない者たちのためである。

しかしある人物の配膳だけは嫌がられていた。


「てめぇどの面下げて……っ!」


その人物とは瀬川だ、母校の手伝いに来たのだが新生の口から協力者として語られてしまったTWELVEの隊員であるため忌み嫌われていた。


「だからこそ助けたくて、どうか受け取って下さい……」


そんな彼に対して怪我をしている初老の男は差し伸べられた手を払いのけた。


「ウソつけぇ!!」


瀬川が持って来た炊き出しのカレーや豚汁が体育館の床に撒き散らされる。

瀬川は周囲に頭を下げてから無言で掃除を始めた。


「……手伝うよ」


「あ、ありがとう……」


その様子を見た愛里は自然と体が動いたのか瀬川の清掃を手伝う。

すると周囲からは冷ややかな視線が集まり人がどんどん離れて行った。

他に手を差し伸べようとする者はいない。


「君は俺を何とも思わないの?」


「瀬川くんは悪くないの分かってるから」


掃除を終えて水飲み場で用具を洗っている。

愛里は彼らTWELVEと少しやり取りをしたため協力は意図的でない事は分かっていた。


「でも快の事は……」


瀬川が快の事に触れようとした瞬間、大きな地震が周囲を襲った。


「わっ、また地震……っ」


「本当に世界が……」


"あれ"から大きな地震や地盤崩壊が多発している、無関係とは言えないだろう。


「あ、あれ……!」


瀬川の視線の先では学校の外からこちらへ向かって来る集団の姿が。

今にも崩れそうな地面の亀裂の前で立ち往生してしまっている。


「大丈夫ですか⁈」


思い切り飛び出す瀬川。

集団を先導し学校まで案内しようとする。

するとようやく地震は収まった。


「はぁ、デカかった……ん?」


落ち着いたため改めて集団の顔を見ると彼らには見覚えがあった。


「あれ、こーちゃん!」


なんと瀬川や快が行っていた若者支援センターの利用者やスタッフたちだったのである。


「何でこんな所に⁈」


彼らの場所から近い避難所は隣の学校のはず、何故わざわざここまで来たのだろう。


そしてそんな彼らを見下ろす空にはまるでこの世の終わりのように紫色に輝く"もう一つの地球"が浮かんでいた。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第28界 カエルベキバショ






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地震が収まった後、若者支援センターの一同を連れて瀬川は避難所に戻ろうとした。

入り口の前に立つと自衛官が二名いたので話す事にした。


「若者支援センター?指定避難所はここではないはずですが……」


何処か不機嫌そうな自衛官がなかなか入れてくれない。

そこでセンターのスタッフが事情を説明する。


「前の所が人でいっぱいで……」


しかしそんな理由で避難所が人を断る事があり得るのだろうか。

瀬川も自衛官もその事に気付いた。


「え、そんな理由で避難を断ったんですか……?」


センタースタッフに瀬川が問うが自衛官は何も問おうとしない。

何故かその理由に納得しているかのようだった。


「あぁ、支援って……」


何かを察したような表情を浮かべる自衛官。

目を細めてセンターの者たちを眺めてから発言をした。


「待って下さいね、確認しますんで……」


わざわざ上の者に確認しに行くほどの事だろうか、確かに集団ではあるが匿えないほどの数では無いだろう。

すると後ろの方にいる自衛官が何やら不安そうな反応をしている。

そしてその上官らしき人物が瀬川たちの方にやって来て意見を伝えた。


「ちょっと厳しいですかね、そちらの方々のためにも……」


何を言っているのか分からなかった。

彼らを想うような発言をしながら受け入れないとは。


「どういう意味です……?」


当然の疑問を瀬川は投げかけた。

現に外にいた間は彼らは危険に晒されていた。

ようやく避難所にあり付けたというのに。


「ちょっと耳貸してもらっていいです……?」


そう言う自衛官を瀬川は不審に思いながらも耳を近づけた。

すると耳元で自衛官は囁く。


「障害を抱えた方々ですよね、貴方が連れて来たとなると尚更……分かるでしょう?」


出来るだけハッキリは伝えず言葉を濁して伝える自衛官だが瀬川はその意味がしっかり理解できた。


「だからって……!」


少し強めに発言するとセンターの者たちが不思議そうに瀬川の怒る顔を見た。


「……っ」


心配を掛けさせないため、これ以上不安を煽らないために瀬川は下に立ってお願いをした。


「お願いします、彼らの責任は俺が取りますから。どうか避難だけでも……」


急に頭を下げた瀬川に自衛官は少し戸惑う。

ここで追い返しても後味が悪いと感じたのか彼らは渋々了承した。


「はぁ、どうなっても知りませんよ……」


そしてセンターの彼らは何とか避難所に入る事が出来たのだった。


「あ、ありがとうございますっ」


スタッフが頭を下げながら瀬川に案内されていく。

自衛官は複雑な気持ちを抱いていた。


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しかしやって来た若者支援センターの人々は当然ながら歓迎されなかった。

誰も彼らに手を差し伸べようとしない、瀬川が一人で炊き出しや物資などの世話をしていたのである。


「あ、なくなっちまった……」


瀬川の持つ鍋にはもうセンターの人数分の食事が無かった。

仕方なく他の炊き出しへ譲ってもらいに行こうとする、しかし対応は冷たかった。


「あの、なくなっちゃったんですけど……」


空の鍋を見せても反応は変わらない。


「こっちが足りなくなる、悪いけど我慢してくれないか」


「で、でもまだ……」


しかしそちらの鍋はまだ量が多く残っていた。

そこを指摘しても同じだ。


「そっちも人数多いだろ、お前が責任持つって言ったなら関わらないでくれ……」


明らかに嫌そうな顔をしながら元の配膳に戻る自衛官。

そこで待っていた避難民たちも瀬川を怪訝そうな目で見つめている。


「あーお腹空いたぁ」


そんな中でセンターの者たちは空腹のせいか少し機嫌が悪くなっている。

良を始めとした者たちをスタッフが宥めておりその様子にも周囲の者は冷ややかな視線を送っている。


「ねぇ愛里、あの人達よくここに居れるよね……」


そこにいた同級生の女子が愛里に声をかける。

当の愛里も快の件で少し障害者との関わり方について悩んでいたため上手く答えられなかった。


「うん……」


頭に浮かぶのは快と自身の兄。

精神病棟はどうなっているのだろう、そこまで差別の意識は広がっているのだろうか。

現にこの場の空気感からもかなり差別意識は伝わって来る。


「自分の立場分かってんのかよ……」


「やっぱ空気読めない病気なのかね」


「何であんな奴らのために苦しまなきゃいけないんだ……っ」


こうなると彼ら障害者の全てに苛立ちを覚えるようになってしまう。

もう誰も彼らを受け入れる余裕を心に持ち合わせていなかった。


「クソッ、今までそんな風に見てなかったのに言葉にされた途端一括りに差別しやがって……っ!」


これまでの学校生活などを思い出す。

クラスメイト達はグレーゾーンの瀬川を障害者などと思わず接して来た。

しかし言葉で言われた途端に自分も他に同じような人も差別してしまっている。

その現状に嘆いたのだった。


「責めるなら俺だけを……っ」


実際にこの悲劇に加担したと言われるTWELVE隊員である自分だけが責められる筋合いがあると思っていた。


「ん……?」


そんな中で瀬川のスマホに着信が。

名前を確認すると名倉隊長と書かれていたため慌てて応答する。


「もしもし、瀬川です」


少し元気のない声で応答すると同じように元気のない名倉隊長の声が聞こえた。


『俺だ、そっちはどうだ?』


「あんま良い状況じゃないっすね……」


『だろうな、だがお前の姿勢には尊敬の意を示すぞ。俺たちは恐怖で行動すら出来ていない』


どうやら他のTWELVE隊員たちは差別されるのを恐れて支援に来れていないようだ。


「誠意を示そうと思ったんですけどね、心折れそうですわ……」


『そうか……』


「で、何で電話なんかしたんです?」


そこで本題に入る名倉隊長。

その話は瀬川にとって大きな出来事だった。


『あぁ、お前には真っ先に伝えるべきだと思ってな』


「はい……?」


『瀬川参謀、君の父親が確保された』


その話を聞いて一瞬瀬川は固まる。

そのまま名倉隊長は続けた。


『自衛隊駐屯地にて尋問を行う、申し訳ないがお前にも同席願いたい……』


そう言われた瀬川はセンターの者たちを見る。

差別意識がある中で自分がこの場を離れてしまっては彼らが危ういと考えたのだ。


「どうしました……?」


スタッフも瀬川の様子に少し疑問を抱く。


「いや、ちょっと組織の仕事が……」


正直に答えるとスタッフは言ってくれた。


「私が見てますから大丈夫ですよ」


「本当ですか……?」


「世界を救うための組織でしょ?そこで立派に働いて来て下さい。私としてはセンターに通ってた子が立派になってくれて嬉しいですから」


優しく伝えてくれた事に瀬川は感謝を抱く。

そのままConnect ONEの職員の所へ向かい報告した。


「ありがとうございます、では」


瀬川が報告した相手は職員の小林だった。

彼もやはり差別意識を持っていた。


「一度駐屯地に戻ります、その報告を」


以前喧嘩をした両者。

小林はその理由を聞いた。


「父親が確保された件か?」


「……伝わってるんですね」


「何を話す?怪しい動きはするなよ」


まだ自分と父親の味方としての関係性を疑っているようで瀬川は少し不機嫌になる。


「だから俺は親父の味方じゃない」


「どうだか」


そして彼は案内をする。

車へ瀬川を乗せようとした。


「不本意だが駐屯地まで送れとの指示があってな、乗れ」


そう言われて瀬川は不安がりながら小林の運転する車に乗り父親の所まで向かうのだった。






つづく

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