#6
新世界の創造。
遂に拓かれる儀式の準備が整った。
紫色に輝くもう一つの地球が見下ろす先の光の柱を囲むように翼を生やしたヒトの素体が飛び回っている。
『アァァァ』
そして儀式は開始された。
光の柱を放つ生命の樹の種が上昇していく。
それと共にインペラトルも現れた。
『ヴヴヴ……』
すると種に捕らわれているゼノメサイアの胸部のコアから二本の剣が現れた。
赤と緑の生命の樹を司る“樹ノ剣”、金と蒼の愛の海うを司る“海ノ剣”。
インペラトルがそれらの剣を片方ずつ装備する。
右手で樹ノ剣、左手で海ノ剣をそれぞれ握りしめた。
「樹ノ剣、海ノ剣よ。一つに繋がり新世界を拓く鍵となれ」
両手を上に掲げ二本の剣を交差させる。
すると剣は両方とも変形しまるで解けたリボンのように宙を舞う。
そして一本の槍のような核を造り出しその周囲に巻き付くように螺旋を描いた。
「異なる者の繋がり、“愛ノ剣”と成れ」
まるでDNAのような螺旋を描いた剣たちはそのまま固まり生命を象徴するかのような形と成った。
異なる者の繋がりにより生まれた生命の螺旋、愛ノ剣である。
『アアアアァァァ』
そして共鳴するようにヒトの素体たちは声を上げる。
首のない部分から黒い槍のようなものが現れる。
まだ何にも染まらぬ剣、ヰノ矛である。
『ビチッ、ヴォォォォッ!!』
更にインペラトルは先程のレギオンがヒトの素体と成ったように表皮を破り始める。
背中がパカっと開き上半身だけその中身を露わにした。
『フォオオオン』
半透明の緑色に輝くまるでライフ・シュトロームそのもののような人型のナニカが現れた。
そのナニカは両手で愛ノ剣をしっかりと握りしめ構える。
それに合わせヒトの素体たちもヰノ矛を構えた。
「貧しい人々は幸いである。神の国はあなた方のものである」
その言葉と共に種はゼノメサイアの胸のコアを見せつけるようにナニカに近付けた。
そして呟く。
「神の御心のままに!」
その言葉と共にナニカは愛ノ剣を振り下ろしゼノメサイアの胸のコアを思い切り貫いた。
同時にヒトの素体たちもヰノ矛を投擲しゼノメサイアを次々と貫く。
貫かれたゼノメサイアは身体の色が抜けていき灰色になってしまう。
抜けた色素は彼を捕らえる種に移り血のように真っ赤に染まっていく。
「さぁ異なる者の救世主よ、我らを新世界へと導きたまえ」
すると生命の樹の種は色を失くしたゼノメサイアを捕らえたまま変形していく。
その形はまさしく十字架だった。
真っ赤な樹の十字架に磔にされたゼノメサイアは遥かに巨大なその姿を地面に突き刺した。
その影響でConnect ONE本部は殆どが崩壊してしまう。
『ピャァァァァアアアアアアアア』
突き刺さった所から紫色のエネルギーが溢れ地面を伝っていく。
そしてそのエネルギーは世界中へ蔓延しようとしていた。
手始めに大きな地震が一瞬起こる。
まるで崩壊までのカウントダウンが開始されたかのようだった。
「さぁ、新世界へ。ハレルヤ!」
「ハレルヤ!」
「ハレルヤ!」
「ハレルヤ!」
ナニカを中心にヒトの素体たちも声を上げる。
誕生する新世界の新たな神を崇め称える言葉だった。
・
・
・
「あ、あぁ……」
その様子を間近で見ていた瀬川。
絶望を通り越した言葉では表せないほどの感情に包まれる。
すると意識に直接声が届いた。
『生きとし生けるもの、その全てに告げる』
まるで自身の生命、ライフ・シュトロームに直接語りかけられているかのようだった。
新生長官の声でナニカは言葉を連ねるのだった。
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ナニカもとい新生長官の声は全人類に届いていた。
突然訪れた絶望の産声に人々は混乱し次の言葉を待った。
『私は新生継一。新世界へ諸君らを導こう』
声だけが聞こえるのではない。
新生長官が新世界を治めるイメージも流れ込んで来るのだ。
『私の望む世界は“誰もが幸せを感じられる”世界。しかし傲慢な人々は今を卑下し贅沢にも更なる幸せを望んだ』
異なる者を認められず争う人々のイメージが流れてくる。
『不幸を他者のせいと決め付け理解できぬ自らと異なる者を悪と見做し争い合った、無関係の者も巻き込み同様に虐げた』
その言葉には怒りにも似た何かを感じる。
『私もその被害者だ、発達障害を持ち生まれたためその人種を憎む者たちにより虐げられた!』
発達障害である事を暴露した。
『しかし幸か不幸かそのお陰で失われた幸せの素晴らしさに気付いた。幸せを感じるには一度不幸になるしかないという事に気付いたのだ』
そして真意を伝える。
『さぁ皆の者、私は神としてこれから一度不幸を呼び寄せる。共にその試練を乗り越え幸せとなろう!!』
以前時止主任にも伝えた試練の意味。
それはこのような事だったのだ。
『ゼノメサイアとTWELVEの諸君。同じ不幸を知る発達障害者として手伝ってくれた事を感謝する、共に幸せを目指し新世界で人々を導いていこう』
なんとTWELVEの隊員たちやゼノメサイアまで発達障害者である事を明かしてしまったのだ。
『歩み寄り、愛を知り、人々に伝える。これこそが幸せなのだ』
その言葉を最後に新生長官の言葉は途絶え人々のライフ・シュトロームは解放された。
『さぁ!我らに従いたまえ!神の寵愛を一身に受けし発達障害者、その真価を見よ!』
しかし言われた通り心には不幸が押し寄せ異なる者、特にこの事態を招いた発達障害者への怒りや恐怖が渦巻くのだった。
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そして生命の樹から成る真っ赤な十字架。
その意識の中で快と新生長官は同じ場所に居た。
「あぁ、何て事……っ」
人々の絶望は快にも伝わっていた。
元より人々に愛されるヒーローになるため、罪を贖うためにこの作戦に同行したのだ。
それがこんな事になってしまうなんて全く不本意だった。
「新生さんっ、みんな俺を嫌ってる!そんな感情が流れて来るんです……!!」
目の前にいる新生長官に縋る。
「ヒーローになって愛されるためにやったのにこれじゃあっ……!」
新生長官はニコニコしたまま何も言わない。
ただ快の想いを聞いているだけだ。
「ゼノメサイアに選ばれた意味を探してた、こんな事になるなんて!ちゃんと意味があったはず、こんなはずじゃっ……!」
ずっと求めていたゼノメサイアに選ばれた意味。
それがあると信じていたから見出すためにこれまで立ち上がって来れた。
「あぁ、君がゼノメサイアに成った意味だね」
やっと新生長官は口を開く。
「知ってるんですか!教えて下さい、じゃないと俺……!」
そして新生長官は遂にその真実を語る。
快は如何にしてゼノメサイアに選ばれたのだろうか。
「そんなものはないよ」
「……え?」
「君は選ばれるはずじゃ無かったんだ」
その言葉に思考が停止してしまう。
「ホラ、最初に会った英美さん。彼女が選ばれるはずだったんだよ。でも直前で亡くなったからたまたま近くに居た君に光が流れたんだ」
「 」
完全に言葉を失ってしまう快。
それでも新生長官は喜んでいる。
「最初は不安だった、君を試したりもしたよね。ホラ、電話で話したりも」
ゼノメサイアになったばかりで悩んでいた頃に掛かってきた正体不明の者からの電話。
確かに選ばれたのは予想外と言っていた。
「でも驚きだ!ここまでやってくれるなんて、感謝してもし切れない!」
あくまで新生長官は自分の計画を達成できた事を喜んでいるらしい。
しかし快はこんな事は望んでいなかった。
みんなを救って愛されるヒーローになりたかったのだ。
嫌われている今とは絶対に違う。
「嘘だ、いやだ……」
心がどんどん小さくなっていく。
イメージの中で快の姿は子供の頃にまで小さくなっていた。
「ヒーローになれない俺なんて……」
遂に新生長官までその場から消える。
暗闇の中で丸く蹲っていた。
「誰も、愛してくれない……」
愛里や瀬川と関わる中で愛する事こそヒーロー、その歩み寄りに応える事でヒーローとなり真の愛が得られるのだと理解した。
しかしそれが出来ない今、誰からの愛も得られないと思ってしまったのだ。
こんなに辛くても、やはり涙は出なかった。
つづく
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