#4 

ゼノメサイア降臨。

しかし姿がいつもと違った。

色はいつもより少し黒澄んでおり金色だったかのようなラインが追加されている。

流れるライフ・シュトロームは緑から紫へ変色し闇に染まったかのようだ。


『ゼアッ……』


蒸気を放ちながら両拳を強く握りTWELVEの隊列を睨む。

まるで彼らの意思を確認するかのように。


「快……っ」


マッハ・ピジョンのコックピットからその視線を感じ複雑な感情を抱く瀬川。

そんな彼に名倉隊長は告げた。


「瀬川、通信をしてみろ。お前に頼みたい」


隊長にそう言われハッとする。

確かにまずは対話を試みるべきだろう。

瀬川も先程の隊長と同じように無線の周波を合わせ快に向かって話しかけた。


「快っ、聞こえるか?返事してくれ!」


周波数は合っているはず。

何度も確認し何度も呼びかける。


「聞こえてるんだろ⁈頼む、話をしよう!」


しかし快は応えない。

無言でひたすらこちらを睨んでいる。

ジリジリと圧迫感が伝わって来ていた。


『ハァァ……』


瀬川から圧をかけると少し足を後ろに下げる。

どこか躊躇っているようにも感じた。


「快っ!」


それを感じ取った瀬川は更に声を掛ける。

しかし快は行動に出てしまった。


『デヤァッ!!』


右手から紫色の光弾を発射するゼノメサイア。

それはTWELVEの機体の間をすり抜け背後で大爆発を起こした。


「なっ⁈」


しかし狙いは正確だったためわざと外したかのように思える。

すると快は遂に声を発する、無線で瀬川に話しかけた。


『俺はもう必要としてくれる人のために戦うって決めたんだ……っ!』


そして両手から光弾を連発する。

無作為に周囲で爆発が起こりTWELVEの機体は飛び回る。

しかし攻撃し返せない、彼はこれまで共に戦って来た仲間なのだ。


「クッソ、どうすりゃいい……っ?」


ただ避け続ける事しか出来ない一同。

周囲では爆発が起こっているが何もない更地なのが幸いか。

しかしこのままでは行けない、彼らの一番の目的は仲間を救い出す事なのだから。


「快っ!やめろぉっ!!」


すると突然TWELVEの無線機に外部から通信が入る。

その声は彼らのよく知るものだった。


『やめるのは君たちだよ、役目を終えたなら大人しく待っているんだ』


柔らかく優しいが何処か不思議さを拭えない声、今はそこに闇すら感じる。

今話しかけて来ているこの人は……


「新生さんっ!!」


キャリー・マザーの中で蘭子が反応する。

久々に彼の声が聞けた、しかしそれは最悪の形で果たされてしまった。

歩み寄ってくれたはずの彼は今、敵として立ちはだかっているのだ。


『もうすぐ新世界は拓かれる、君たちもそこでは幸せになれるはずだよ』


いつものような優しい言葉で説得して来るがもう耳は貸さない。

ただ少しずつ悲しみと共に覚悟が決まって行く。

そして瀬川個人に向けて告げた。


『君の親友を新たな神の器とし創られる新世界、何を恐れる必要がある?』


そして告げられた"神"という言葉。

更にそれは快の事を意味していた。

瀬川は遂に覚悟を決める。


「神の器だって?快が?……そんなもの」


その言葉で浮かぶ顔とは。

裏切った新生長官、それに利用される快。

そしてそれに協力し息子である自分を蔑ろにし続けた父親。 


『ダァァァッ!!』


そしてゼノメサイアは更に光弾を放つ。

それはまた大爆発を起こした。

TWELVEの機体たちも爆炎に包まれる。


『ッ……⁈』


すると爆炎から何かが飛び出して来る。

それは巨大な人型をしていた。

爆炎を背に思い切り地面に着地する。

ゴッド・オービスへと合体したのだ。


「……神なんて、クソ喰らえだ」


遂に親友と激突する覚悟を決めて心を一つに合体したのだ。

互いに赤い炎を反射しながらより強く睨み合うのだった。


___________________________________________


ゼノメサイアとして拳を構える快の無線に新生長官から激励の言葉が届く。


『仕方ない、私がインペラトルで向かうまで時間を稼いでくれ』


「了解っ……」


そして戦いの幕は下ろされる。

睨み合ってばかりだったゼノメサイアとゴッド・オービスの両者は互いに走り出した。


『ゼアァァァッ……!』


「おおぉぉぉっ!!」


地面を蹴り上げ土煙が舞う。

一直線に走り抜ける彼らには戦いたくない気持ちからこの時が永遠にすら思えた。


「〜〜っ」


何とか反応しゴッド・オービスはゼノメサイアの腕を両手で掴み投げ飛ばそうとする。

しかしゼノメサイアも負けじと綺麗に着地してダメージを逃れた。


『ダッ……!』


「ぐぉっ」


そのまま反射的に殴り付けるゼノメサイア。

少し仰反るゴッド・オービスだったが追撃は両手で何とか防ぐ。

そのまま取っ組み合いの姿勢となる。


「ぐぎぎぎ……っ」


必死に踏ん張るTWELVE隊員たち。

正面にゼノメサイアの顔面があり、瀬川はそこに快の面影を感じていた。

彼の苦しみがそこからも伝わって来たのだ。


「ごめんっ、俺のせいだ……!俺がお前を否定したから……っ!」


無線機に向かって必死に話しかける。

目の前の親友に想いをぶつけるのだ。


『今もそうだろ、俺を止めようとしてる!』


しかし迫真の勢いで言い返されてしまう。


「くぅっ……!」


このまま押し負けてしまいそうなゴッド・オービスは何とか体勢を立て直し取っ組み合いの姿勢のままゼノメサイアの腹部に蹴りを入れた。


『グッ……』


後方へ飛ばされるゼノメサイア。

すんでの所で踏み止まり体勢は崩れずに済んだ。

腹部を押さえて息を吐き出す。


『フアッ……!』


距離が空いた所でライド・スネークの部分にあたる指から弾丸を連射した。


「おぉぉぉっ!!!」


ゼノメサイアは飛び上がり空中で華麗にその連射を避けて行く。

その間に竜司も快に語り掛けた。


「みんなお前を否定したいんじゃない、むしろ心配してたんだぞっ!」


瀬川の様子を近くで見ていたから分かる、親友を心配する様子に何度も心を痛めた。


『心配されるようなヒーローじゃダメなんだっ、俺なら大丈夫って見せてやるっ!!』


それでも快には届かない。

もはや崩せそうにない固い意志を掲げながら思い切り急接近し飛び蹴りを食らわせた。


『ゼヤァッ!』


「ぐあぁっ……!」


そして更にゼノメサイアは追撃しようとする。

容赦ない動きにゴッド・オービスのパイロット達は驚いていた。

訓練で圧倒した時とは明らかに違うのだ。


「バカヤロー!」


次は蘭子が想いをぶつける。

複雑な感情を何としても吐き出したかった。


「誰も仲間だなんて思ってなかったのに、期待なんてしてなかったはずなのに……今が一番辛いっつーのっ!!!」


かつてゲーマー仲間に裏切られた時より遥かに今が辛い。

このどうしようもない気持ちを必殺技に込める。


『ダ ダ ダ ダ ダ ダッ!!!』


竜司との連携技だ、仲間を信じなかった彼女が精一杯の誠意を快にぶつける。

連続で放たれる拳一発一発に想いを込めた。


『フンッ!』


しかしゼノメサイアはこれを軽々と両手で受け止めた。

ゴッド・オービスの拳を握り潰すかのように。


「なっ⁈」


そして思い切り蘭子に一言で返す。


『俺にはそんなの伝わらなかった!!』


思い切り引き寄せてゴッド・オービスの腹部に膝蹴りを入れる。

かつて訓練の時はこの技を一切防げなかったゼノメサイアが完璧に攻略したのだ。


「(君はこんなに強い意志を持ち強くなった言うのに……っ!)」


明らかに強くなっている快に対して何も言ってやれなかった事、彼の望みを理解してやれなかった事を後悔する名倉隊長。

陽も今の快の様子から訓練の時の心情を今になって察し謝った。


「ごめん快くん、僕こそ君を理解できたはずなのに……っ!」


アモンに頼らず自分の意志で言葉を連ねる。

以前快の気持ちに寄り添うチャンスがあったのに出来なかった事を思い出した。


「僕は伝え方を間違えた、寄り添ってあげられれば……っ!」


あの時はただ自分の気持ちを伝えただけ。

共感する形で寄り添えればこんな事態は防げたのではないか。


『今更そんな事、遅すぎるって……っ!!』


そう突っぱねるような返事をして思い切り突っ込む。

その勢いでゴッド・オービスの顔面を殴り飛ばした。


「ぐはぁ……っ!」


吹き飛ばされるが何とか踏ん張る。

名倉隊長の意志によるものだ。


『デアッ!』


そのまま更に連撃を繰り出すゼノメサイア。

名倉隊長は必死に避けながら遂に想いをぶつけた。


「同じ存在だと思っていた、それなのに俺は……っ!」


大阪での戦いで名倉隊長は同じ未熟者同士だと理解した。

しかしこの結果から新たな答えを導き出す。


「同じじゃないっ!君の方が素晴らしかった、君の方が俺なんかより……!!」


そう言ってゼノメサイアに膝蹴りを入れそのままゼロ距離で足からミサイルを放つ。

思い切り腹部に爆撃を受けたゼノメサイアは吹き飛んだ。


『グァッ……うるさぁぁぁああああいっ!!!』


全員の想いを受け心身共に大ダメージを受けたゼノメサイア。

鬱憤を晴らすために思い切り叫ぶ。


『オォォォッ……!』


全力でエネルギーを溜める。

ゴッド・オービスのパイロット達は危機を覚えた。


「くっ、応えてやるよ……!」


対抗してエネルギーを溜める。

そして両者は思い切り最大火力で必殺技を放った。



『ライトニング・レイ!!!』


「ライフ・ブラスター!!!」



互いの生命から放たれた想いは衝突し周囲を凄まじい閃光で吞み込んだ。






つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る