#3

レギオンの一人が操縦する機体に乗った快。

一直線に機体は地面に埋まるグレイスフィアに向かっていく。


「このままっ……」


上手く行ってくれ、そう思いながら機体に揺られる。

前方ではまた一機のレギオンが撃破されてしまった。


『ヴヴヴァア……ッ』


機体の頭部が破壊され機械の破片と共に鮮血が飛び散る。

ただの人型ロボットでない事はもう明らかだった。


「(何でこんなになってまで……)」


新生長官という信じるもののためとはいえここまで身を犠牲に出来る彼らが少し恐ろしかった。

気付けば他の機体もボロボロで傷口から血液と機械油が混ざったような液体が流れている。

悪魔のような風貌で執念深く固定砲台を攻撃しているのだった。


『ヴァアアッ!!』


敵の固定砲台の数は減っていく。

あと少しでグレイスフィアまでの道が拓かれようとしたその時。


「おぉぉッ!!」


何と更に向こうからミサイルが飛んできた。

この先にはもう防衛ラインは無いはず、先の崩壊で既に破壊されてしまっているから。

だとすればこの攻撃の正体は、快は嫌な予感がした。


「まさか……」


恐る恐るそちらの方向を見る快。

視線の先、そこに居たのは予想通りの存在だが今の快は心苦しかった。


「実動部隊TWELVE、攻撃を開始するっ……」


現れた瀬川たちTWELVEは各機体に乗りながらレギオン達と睨みあった。

親友を神の域なんかに誘い込んだ憎き存在と戦う事を覚悟したのだった。


___________________________________________


TWELVE機体の中で一人、陽は何かを感じていた。


「アモン、何で出て来たがらないんだ……?」


コックピットの窓に映るもう一人の人格アモンに話しかける。

普段はこういった場面では彼に任せているが今回は彼が恐れてしまっている。


『コイツらやばい、何か伝わって来るんだよ……っ』


いつもの荒々しい彼からは想像がつかないほど弱気な態度を見せている。

陽の人格が出ている事を他の隊員も心配していた。


「陽、本当に大丈夫か?」


「隊長、僕もやるって決めたんですっ」


「なら良いが……」


そして名倉隊長は改めて指揮を執る。


「敵は未知の存在だ、くれぐれも気をつけろよ」


「了解……っ!」


「では、攻撃開始っ!!」


その掛け声と共にTWELVEは一斉に敵へ突っ込み攻撃を行う。

弾丸を乱射しながら相手の出方を伺った。


『ヴォッ……』


流石の火力に少しずつダメージを受けていくレギオン達。

乱射をしながら瀬川は上空に構えるもう一つの機体を睨んでいた。


「快が居るとすればあそこか……っ?」


だとすればそこから見ているのか。

一体親友が今そこで何を思っているのか気になって仕方なかった。


「くっ……」


しかし考えている暇はないと思い知らされる。

レギオン達の今までの罪獣とは明らかに違う動きに対応するのが難しい。

ここまで戦いづらい相手は初めてだ。


「何だコイツら⁈全然怯まねぇっ!」


竜司も同様に違和感を覚えているようだ。

いつもはトリッキーな動きで翻弄する側の彼が逆に翻弄されている。


『ヴヴォオッ……!』


ロボットとは思えないような大きな口を開け涎を垂らすレギオン。

蘭子は上空でキャリー・マザーから必死に敵を分析していた。


「コイツら何なの……っ」


流れ弾に当たらないように操縦も怠らずに分析する。

するとレギオン機体の一部分に他とは違う反応があるのを見つけた。


「これは……人っ?」


嫌な予感が的中した。

あまりの獣臭さに信じられていなかったがレギオンには人が乗っている。


「ウソ、これって……」


更に人の部分から何やらエネルギーが流れている。

ライフ・シュトロームのように思えるソレを細かく分析していく。


「何で、この人から“罪獣”の反応が出てるの……?」


何とレギオン機体とヒトが合わさった反応は罪獣そのものだった。

大きな疑問が訪れ頭が一気に疲れてしまう。

今の話は無線で一同が聞いていた。


「え、罪獣……?」


一同に悪寒が走る。

しかしその空気をよくないと思った名倉隊長は士気を上げる事を望んだ。


「考えるな!人がいると言うのなら対話が可能だろう、通信を試みる!」


その声を聞いて蘭子を始めとする一同は少し落ち着きを取り戻した。


「そ、そうだね……っ」


そして名倉隊長は無線を起動し周波を合わせレギオンのパイロットへ通信を試みた。


___________________________________________


無線の周波を合わせレギオンに通信を試みる名倉隊長。


「聞こえるかっ、居るんだろ⁈」


周波数は合っているはずだ、現に通信は可能となっている。

ただなかなか返事が来ない。

歪な機械音だけがひたすら響いていた。


『……TWELVEの方々、あなた方は十分に役目を果たしました』


すると機械音に紛れて感情の読めない声が聞こえて来る。

確かに人が居るはずなのに人と話している感覚ではなかった。


『新生先生の信仰者として我々一同感謝申し上げます、安心して新世界へお進み下さい』


全く意思疎通が出来る様子ではない、完全に自らの思想に染まり切っている。

そう感じるほどこの状況にしては饒舌だった。


「役目を終えた、確かに新生さんもそう言った……」


ゼノメサイアが覚醒した時に無線で言われた事を思い出す。


「しかし我々はそうは思わん!」


その言葉にTWELVEの一同は賛同した。

操縦桿を握る手に一気に力を込める。


「おぉぉぉっ!!!」


攻撃を強めるTWELVEの一同。

その力は増しているようにも見えた。


『ヴヴゥッ……』


次々とダメージを負っていくレギオン達。


「蘭子!人はどこにいる⁈」


「胸の所!そこさえ外せば殺さず行ける!」


パイロット達を殺さぬようにコックピットを狙わず頭を集中砲火していく。

それでも彼らは怯まなかった。


「くっ、あと少しだ……!」


頭部を潰されどんどん倒れていくレギオン達。

気付けばあと一機となっていた。


「もう降伏しろ!」


無線で最後のパイロットに伝える。

しかし彼は諦めなかった。


『む……』


少し考えるような素振りを見せてから彼は呟いた。

そして決死の行動に出るのだった。


『いた仕方ありませんね、不本意ながら強行突破させてもらいます』


その言葉と共にレギオンは大きく吠えた。


『ヴォォオオオオッ!!!』


一気に走り出す。

TWELVEの一同は身構えたがレギオンは彼らを無視して通り過ぎた。


「なっ⁈」


驚く一同を他所にレギオンは一直線にグレイスフィアへ向かう。

いきなりアレを狙うと言うのか。


「止めろ!」


一同はレギオンを止めようと攻撃をするが素早いため中々当たらない。

当たったとしても怯まずこの程度では立ち止まらない。


「陽っ!頼む!!」


一番近くまで来ていた陽がシャッターを展開し突っ込んで行こうとする。

レギオンがグレイスフィアに触れるのが先か、陽の攻撃が当たるのが先か。


『……陽・ドゥブジー』


「っ⁈」


陽の無線に突然通信が入る。

レギオンのパイロットからだろう。


『元気そうで良かった』


「な、だれ……?」


何か妙に懐かしい感じがした。

思わず操縦桿を握る手が緩み起動がズレてしまう。


「あっ」


地面に衝突しそうになり何とか急旋回して上空に上がる。

助かったがレギオンは止められなかった。


「マズい……っ!!」


気が付くとレギオンはグレイスフィアの前へ。

思い切り右手を伸ばす。

そして遂にその黒澄んだ水晶に触れた。


『ヴォォオオオオオオオオオオオオッ!!!』


途端にエネルギーが化合し苦しみ出すレギオン。


「……っ⁈どうしたアモン⁈」


何故か陽のもう一つの人格であるアモンも共鳴するかのように苦しんだ。


『うがぁぁぁぁっ……!!!』


一体何が起こっているのか。

理解できないままレギオンはグレイスフィアを手に取り上空を見上げる。


「何を……?まさか!」


レギオンの視線の先には快が乗っていると推測された機体が。

右腕を大きく振り被り構える。

その時点で何をしようとしているのかは明白だった。


「やめろっ!!!」


そして。


『ヴァアアアッ!!!』


レギオンはグレイスフィアを思い切り投げた。

一直線に快の方へ向かう。


「来た……」


機体の中で身構えた快。

そして見事にグレイスフィアは機体に命中。

何と一瞬で木っ端微塵になった。


「快っ!!」


心配する瀬川だが燃え上がる機体の中で快は黒い光に包まれていた。

パラシュートで飛んでいくここまで乗せてくれたパイロットに敬礼しながらその黒い光を手にした。


『ハァァァッ!!』


そして降臨する。

一度失ったと思われた光を再度手にした英雄を目指す者が。


「……っ」


一同は息を呑む。

まさかこのような事になるなんて。

最も恐れていた事態に発展してしまった。


『ゼアッ……』


今までと少し色の異なるゼノメサイアがその場に立っていた。

TWELVEの機体を強く睨みまるで敵対心を抱いているかのようだ。


「(こんな事って……!)」


親友にそのような目で見られている事実に瀬川はショックを受ける。

本当にこのまま戦う事になってしまうのだろうか。






つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る