#2
格納庫に置かれた椅子に腰かけた瀬川と時止主任の二人は今の気持ちについて語り合った。
周囲の職員たちから冷たい視線を感じながらも淡々と語っていく。
時止主任も頷きながら話を聞いてくれた。
「自分がこの結果を招いたか、なるほど……」
「そんな俺が快を救おうだなんて……」
一通り話した後、少し沈黙が訪れる。
時止主任は考えているようだった。
「そんなこと言い出したらキリが無いんじゃないか?」
口を開いた時止主任は何か悟ったような表情をしていた。
「少なからずここに居る者はみんな何かしらで影響を与えてる」
「例えば……?」
「俺なんか継一にモロ影響与えてるだろ、前も言ったけど俺の技術を利用してる。あのデカい人型は恐らくソレだ」
レギオンの事を言う。
アレは時止主任の技術を利用したものだと考えたのだ。
「それに心の問題も、俺が完全に救ってやれなかったからアイツは母の後を継いだんだ……」
そしてある例えを持ち出す。
「あんま嬉しくない例えだろうが他に思いつかん聞いてくれ」
「はい……?」
「宗教的に言うと“みんな罪だらけ”だ」
今の状況でその例えは少し嫌だったがしっくり来てしまった。
納得せざるを得ない。
「きっと罪のない人なんていない、だから烏滸がましいなんて考えるな。何が正しいか分かってるならやるしかないだろ?」
瀬川の肩を叩き激励してくれるがまだ足りない。
「でもそれで周りは納得しますかね……?」
「そこも気になるか」
まだ課題が残っていると思い少し頭を掻く時止主任。
何を言えば瀬川が納得するか考える。
「そもそも人はそれぞれ違うんだ、みんなに納得してもらうって無理な話だろ」
「それはそうですけど……」
「やっぱ君さ、自分が納得いってないんだろ?」
「確かにそうかも知れないです」
やはり先程のアドバイスでは完全に納得は出来なかったらしい。
そこでまた新たな案を考えてみる。
「うーん、罪がある事で納得できないってなら罪が赦されるような行いをすればいいんじゃないか?」
「赦されるですか……」
「簡単に言うと償いだな。君の場合は親友を救ってやる事がそれになる気がするぞ」
作業をする職員たちの方を見ながら言う。
「今は納得できなくても後から“やって良かった”って思えるような事すりゃいいと思うぞ。世界救えば絶対そうなるから」
そのまま立ち上がり彼も作業に戻ろうとする。
そして最後に自身の胸を叩きながら伝えた。
「とりあえず今は信じてやるしかないな!」
瀬川は少し納得した、心も穏やかになった気がする。
罪を赦してもらうためにそれ以上の償いをするのだ。
___________________________________________
一旦要請を待つために格納庫を出た瀬川は休憩室に行きある人物に遭遇した。
それは陽だった、何やら深刻そうな表情で水を飲んでいる。
「陽さん、どうしたんですか……?」
瀬川に気付いた陽は残りの水を一気に飲んで応じた。
「旧支部から時止さんの技術を使った敵が来てるんだよね、嫌な予感がするんだ」
そして立ち上がりウォーターサーバーへ向かい水を追加する。
また飲み始めた。
「僕はそこにいたから分かる、例の樹木ってやつは凄かった。あの敵にその陰を感じるんだ」
不安そうにする瀬川を他所に今度はテーブルに置かれたアモンのサングラスを手に取る。
「それにさっきからアモンの様子がおかしい、凄く怖がってる」
「え、あの人格が……?」
アモンと言えば強気なイメージがあった。
しかしそんな彼が恐れるとは、一体敵の正体は何なのか。
「こんなアモンは初めてだ、出てきたがらない……」
「え、それじゃあ出撃になったら……」
「うん、僕が行くしかないよ」
その決意のために覚悟を決めて水をがぶ飲みしていたのだ。
「アモンの心はきっとみんなを乱す、それじゃゴッド・オービスにはなれないからね。それに……」
瀬川の顔を真剣な表情で見て続きを語る。
「もし快くんが現れたら僕は彼と話したい」
彼は快を想ってくれてる。
そう認識した瀬川は少し嬉しく感じた。
するとそこへある二人が。
「よし、俺もノッたぜ」
「彼に伝えられず後悔した事がある」
それは竜司と名倉隊長だった。
瀬川たちに賛同してくれるらしい。
「時止さんから話は聞いた、自分の罪に悩んでいたようだがそれは俺たちも同じだ」
頼もしい表情で名倉隊長は言う。
「俺たちがやらかした罪なら償えんのも俺たちだけだろ?」
竜司はカッコつけて言葉を連ねた。
その二人に瀬川の頬も少し緩んでしまった。
「他者が何と言おうがこれは俺たちの問題だ、必ず彼を救うぞ……!」
そしてあと一つのピースを集めに行こうと考えた。
「後は蘭子ちゃんだな」
「あの人、分かってくれますかね……?」
少し黙ってしまう一同。
正直今の蘭子が着いてきてくれる確率は低いと感じていた。
「だが行くしかない、蘭子の部屋に向かうぞ」
名倉隊長の言葉で一同は一斉に休憩室を出ようとする。
そのタイミングで出入り口に小さな影が。
「その必要ない……」
なんとそれは蘭子だった。
何やら考えるような素振りを見せている。
「話聞いてた、あんたらやるつもりなんだね」
どうやら扉の裏に隠れて彼らの決意を聞いていたらしい。
「大丈夫なのか?君に寄り添うような話は何も出来ていないが……」
突然現れた蘭子が何故立ち直れたのか分からない。
「言ってたよ、"彼と話したい"って。それあたしも思ったんだ」
「え、快と何か話す事あるんですか?」
「アイツじゃない、新生さんと話したいんだ」
かつて経験した裏切りと今回の裏切りを照らし合わせてみると違う点があった。
「ゲーマーだった時は面と向かって"要らない"って言われた、でも今回新生さんは何も言ってないんだよ。だからちゃんとあの人の気持ちを知りたい」
そして顔を上げて一同を見つめる。
「戦ってる相手に向き合いたいって気持ちはみんなと同じだよ」
そのような言葉を告げられこの部隊の心は一つになっていると実感できた。
「よし、ならば向き合おう。いつでも出撃できるよう準備だ」
名倉隊長のその言葉で一同は素早く準備に向かったのだった。
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そして戦闘の現場では相変わらずレギオン達が固定砲台を壊して回っていた。
爆炎に呑まれ少しずつ傷付いていくレギオン。
自分の事も顧みないその特攻っぷりに上空から見ていた快は息を呑んだ。
「(信じるもののためとは言えここまでするのか……⁈)」
機体が欠損してもお構いなしにどんどん突っ込んで行く。
既にボロボロでいつ停止してもおかしくないように思えた。
『ヴヴォッ……』
そんな中で一体のレギオンがとうとう動かなくなってしまった。
それに勝機を見た防衛隊長はより攻める。
「よし、一体撃破だ!このままやれぇ!」
更に防衛システムの攻撃は激しくなる。
このまま一掃する気だろう。
『ヴガッ……』
損傷が大きくなり露骨に苦しみ始めるレギオン達。
まさかパイロットにまで痛覚が届いていると言うのだろうか。
そんな中で彼らはある行動に出る。
『ヴヴゥゥゥッ』
なんと先に倒された一機の残骸を盾にして砲撃を防いだのだ。
「なっ⁈」
司令室で驚く職員たちに更に追い討ちをかけるようにレギオン達は一番大きな主砲を破壊した。
そして更に次のステップに進む。
「マズいですね、この先には……っ」
田崎参謀も焦りを強く感じる。
彼の言う通りこの先には守るべき重要なものがあった。
『創 快、見えてきました』
快の無線にレギオンの一人から通信が入る。
送られて来た映像を目にすると快は息を呑んだ。
「来た……」
そこに見えたのは地面に埋まった快が今最も求めるもの、ゼノメサイアの力を取り戻せるグレイスフィアがあったのだった。
「取り戻す、そしてヒーローに……っ!」
その瞳に光は宿っていなかった。
つづく
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