#2
いざ戦場へ。
少年兵を使ったゲリラ作戦、奇襲には成功した。
相手側はまだ準備が整っていなかったらしく子供でも十分に数を減らせた。
「おおおおお」
轟音が響く中、サングラスをかけた少年アモンが陽を守りながら機関銃を連射し進んで行く。
その様子をまだ発展していなかったドローンを使いConnect ONEの研究員たちは様子を見ていた。
「ぐあぁっ……」
爆発や銃撃で無惨にも散っていく少年兵たち。
まだ荒い映像だが十分に凄惨さは伝わって来た。
「なんて惨い……」
殆どの研究員は胸が痛んだ。
自らの研究のためにこんな子供たちが死に、生きていても四肢を欠損し絶叫している。
しかしその中で恵博士だけは違った様子だった。
「よし、ここを潰せばあと少しだ」
多大な犠牲を生んでも作戦を続行し少年兵を駒としか思っていないような様子に時止は思わず口を開く。
「何でこんな事できるんですか……?急に人が変わったみたいで……っ」
震えた声で問う時止に恵博士は答える。
「私は元よりこんなだよ、たまたまこのような状況に出会さなかっただけさ」
当たり前かのように冷静でいる彼女の態度にも胸が痛む。
「(そうだ、俺がこの人の一面しか知らなかったんだ……環境は人のまだ見ぬ側面を写し出す……っ)」
・
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そして見事に作戦は終了。
敵は拠点を失い降伏した。
「ふぅ、お疲れさま」
勝利の後すぐに酒を注いだ彼女に時止は流石に我慢できなくなる。
「こんなの勝ちって言えますか⁈」
テント内に怒号が響く。
「子供がたくさん死んだ!無関係なのに!生き残った子たちだって……っ!」
しかし恵博士は冷静に酒を飲み答えた。
「その辺は大丈夫、継一を呼んだ。心のケアは息子に任せる」
「そういう問題じゃ!!」
すると恵博士はグラスを机に置いて時止に詰め寄った。
「分かってないなぁ、種を手に入れられない方が悲劇だ!それにより罪を贖えなければ人は死後永遠に苦しみ続ける、死以上のだ!」
初めて見える彼女の威圧感に思わず後退りしてしまう。
「だが種さえあれば……!いくらでも世界はやり直せる!創造された新世界では誰もがあるべき姿で幸せになれるんだ……!!」
そしてモニターに映る生き残ってなお絶望する少年兵たちを見た。
「もちろん、彼らもね」
あまりの恐ろしさにこれ以上何も言い返せなくなってしまう。
「よし、じゃあ本国まで種を運ぼう!もう敵はいない!」
精神的に大きく疲弊した研究員たち。
念願の生命の樹の種を手に入れられたのにも関わらず空気は澱んでいた。
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一方で戦場の跡地では。
唯一の友であったアモンの亡骸に擦り寄る陽の姿が。
「あぁ、そんな……」
するとそこへ大きな影が。
『グゥルルル……』
翼の折れた悪魔のような怪物がそこにはいた。
襲われると思ったが弱っているらしく動かない。
ひたすら唸り陽を見ている。
「ひっ……」
するとその間に人影が。
大人の男性のようであった。
「落ち着きたまえ大天使よ、君の望みも叶えて差し上げるから」
妙に優しい声をした彼により謎の悪魔は唸りを止めた。
そして彼は陽の方に振り返り告げたのだ。
「苦しかったろうね。共に行こう、君に居場所を与えに来たんだ」
そして手を差し伸べられた。
陽は何となくだがその手を取ってしまった。
「ふふ、いい子だ」
そう言った男。
彼こそが新生継一。
その時、彼は陽ではなくアモンの亡骸を見つめていた。
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日本のConnect ONE支部へ戻って来た研究チームの一同。
じっくり種を研究する機会がようやく与えられたが空気は最悪だった。
「っ……」
あれから恵博士の主導で研究がされているがどうにも違和感がある。
「こうすればライフ・シュトロームを物質化できる……!」
恵博士の研究は明らかに進んでいる。
しかし誰もがそれを禁忌のように感じた。
夢中な彼女に聞こえないように時止は他の研究員と話をした。
「なぁ、本当に神って居ると思うか?」
「何ですか急に?」
「俺にはどうも博士が自分の都合いいように解釈してるとしか思えないんだ、それか最初から分かってるのか……」
元より時止は神話というよりこの世の真実を解き明かそうと探求してきた。
神話に興味があると言うのもそれがこの世の真実と何かしら関連性があるのではと考えたから。
それそのものを真実として信仰している訳ではない。
「神なんて非科学的なものに関連づけて研究してるけど今俺たちがやろうとしてる事ってとんでもない事じゃないか?」
「思ってた、生命を物質化なんてしたら世界はとんでもない事に……」
「そうだ、これは神話とか以前に事実としてマズい事が起こってる」
もし生命が物質化されたとしてそれを各国が求め争いが起こりかねない。
そして所有権や技術が恵博士にあるのなら彼女は実質この世を支配したも同然になる。
「……もしかして神ってそういう事か?」
不吉な事を自ら呟く時止。
しかしまだ確証はない。
「探りを入れる必要があるな」
とてもマズい事に関わっている気がする。
そのため時止は真実を探る事にしたのだ。
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一方で息子の新生継一は同じConnect ONE日本支部で先日引き取った中東の少年兵たちの面倒を見ていた。
「今日も勉強お疲れさま、これでまた一歩新世界へ近付いたね」
教室のような部屋で聖典の勉強をしていた元少年兵たち。
しかし表情は無かった。
体も一部欠損している者が多く、戦場で心身共に癒えぬ傷を負ってしまったらしい。
「ありがとうございました……」
その中で陽だけはまだ瞳に魂が宿っているように見えた。
「陽はいつも返事くれてありがとね」
「はい……っ」
初めてここまで優しくされた陽は少しずつ新生に心を開いているようであった。
元少年兵たちが教室から出て行った後を見計らって時止が入って来た。
「よう継一、順調そうって言って良いか?」
「やぁ、みんな良い子たちだよ」
親友同士、しかし彼はあの恵博士の息子。
少しだけ恐ろしさを感じたが話を聞いてみる事にした。
「それで何か用かい?」
「ちょっと聞きたくてね、君の母親について」
そのまま二人は教室で語り合った。
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陽の使っていた座席に座った新生。
時止はその隣に腰掛ける。
「僕の母はね、とても僕を想ってくれてるよ」
「へぇ」
「今の研究も全て僕のためだって言ってくれた、だから手助けしたいと思って僕もここに入ったんだ」
話し方から純粋に母を愛している事が伝わって来る。
しかしどうしても時止はそれを憐れに思えた。
「(継一は母の異常性に気付いてない……)」
ここで一つ探りを入れてみる事にした。
自らの考えが読まれぬ程度に話をしてみる。
「なぁ継一、研究の現状を知っているか?今何が行われているか……」
「もちろんだよ、母から報告は受けている」
当たり前かのように表情を崩さず発言する新生。
そのまま続きを口にした。
「ライフ・シュトロームの物質化に成功しそうなんだろう?夢に近付いたと喜んでいたよ」
一切表情を変えずに明るい雰囲気のまま話す新生。
「やっぱり嬉しいか……?」
「そりゃあね。偉大な神の御元へ近付きその真意を果たせるなんて、光栄じゃないか」
その言葉を聞き時止は顔を下げてしまう。
親友は完全に理解できていないと感じたのだ。
「新世界だっけ、創られるの……?」
一度話を合わせてみる時止。
すると当たり前だが返事は来る。
「あぁ、誰もが平等に愛を感じられ幸せになれる世界だ……!今苦しんでいる人達も当然ね」
そんな理想を語る新生に時止は段々と虚しさを覚える。
「……本当にそんな事になるのかな」
「ん……?」
「神って本当に居るのかな?居るなら何で最初から素晴らしい世界を創らない?」
少し踏み込み過ぎてしまったかと感じた。
彼らの信じる神を否定するような発言をしてはどうなるか分からない。
「いい質問だね」
しかし思っていたのとは違う反応が来た。
「これは試練なんだ、我々人類に神から与えられたね」
「試練?」
「そう、母は神が定めた愛の意味に自ら気付く事なのではと考察していたよ」
そのまま自らの考察も交え語る新生。
「人は試練を乗り越えないとその先で得られる幸せの有り難みに気付けないんだ、でないとただの当たり前になってしまうからね」
教室内を見渡して元少年兵たちについても想う。
「我々は不覚にも現状に満足できていない、しかし過酷な環境にいた彼らにとって我々の現状は幸せそのものだろう」
そのまま時止の顔を見てニコリと笑った。
「苦しい試練を乗り越えた先に感じられる大きな幸せがある、僕はそう考えるんだ」
純粋な瞳で自分の意見を言ってみせた新生。
だからこそ時止は余計に憐れんだ。
「確かにな……」
こんな母親想いで更に自分の意見も持てる男の母親があんな事をしようとしている。
息子への裏切りのようにさえ思え時止は更に怒りを募らせるのだった。
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その夜、恵博士以外の研究員を招集した時止は自らの想いを伝えた。
「博士のやろうとしてる事は危険だ、世界が変わってしまうかも知れない」
一人ひとりの顔を決意を固めた表情で見ていく。
「俺はこの研究から降りる、そして博士にも止めるよう説得するつもりだ」
そう言うと皆も同じ違和感を覚えていたようで次々と時止に賛同してくれる。
「そうですね、最近の博士なんかおかしいし……」
「神になるって発言から思ってたんすよ、怪しいって!」
皆が自分の意見を口にし総意見となる。
「よし、じゃあ明日早速話そう。博士にも理解してもらうんだ!」
こうして彼らの反抗は動き出したのである。
つづく
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