第26界 ヒトノヨアケ

#1

時止主任はTWELVEの隊員たち全員と向き合い真剣に語り出した。


「……俺たちの研究、ゴッド・オービスがあって罪獣に立ち向かえたのもある一人の"女性研究者"の発見のお陰だった」


例の女性を思い浮かべる。

彼女がかつての時止主任に向けて放った言葉も。



『こんな世界は間違ってるんだ!!』



何故彼女はそんな言葉を口にしたのだろう。


「我々Connect ONEは本来、神話の研究を行う機関だった。そこに俺と継一もいたんだ、そして彼の母親も……」


悲しい過去を彼は語る。

その表情は苦しそうで仕方なかった。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第26界 ヒトノヨアケ






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今から約十年前。

Connect ONEが神話研究機関だった頃。

時止主任は当時まだ下っ端だった。

大学院を出たばかりでようやく憧れの機関に所属できたのだ。


「新生博士っ!設置終わりました!」


ここは国外、中東のとある地域。

石油を採掘していた所で何やら妙なものが見つかったらしくConnect ONEが調べにやって来たのだ。


「よぉし、じゃあ起動するから離れてー!」


新生博士と呼ばれたこの初老の女性。

神話研究界隈では大物である。

"新生 恵(シンジョウメグミ)"といった。


「スイッチオンッ!」


発見された謎の物体に分析するための装置を付けて起動した。

データがどんどんコンピュータに送られて来る。


「お?膨大な量のライフ・シュトロームだ、人間のものとは比にならないぞ……!」


転送されるデータを見て恵博士は大興奮。

時止も寄ってデータを見た。


「じゃあこれが例の……⁈」


「間違いない、生命の樹の種だ!」


瞳をキラキラ輝かせて恵博士は舞い上がる。


「ずっと追い求めていた、ようやく目の前に現れたんだ……!」


隣で恵博士の喜ぶ姿を見ていた時止も一緒になって喜ぶ。


「神話の研究も先に進めますね!」


するとその言葉を聞いた恵博士は一瞬動きを止める。

そして時止の方を見ないまま言った。


「そうだった、君は純粋に研究を楽しんでいたんだったね」


表情が見えなかったため時止は曇りない純粋な探究心を露わにする。


「だって面白いじゃないですか!人類の起源、この世界の真相を明らかにして自分たちの存在を問う。こんな楽しい事ありませんよ!」


「ふふ、君の純粋な探究心には幾度となく助けられて来たからね。そういった人材こそ助けになるなぁ」


少し苦笑いをしたのが見えた。

ようやく表情を確認でき時止は安心する。


「だが世紀の大発見になった、世界が動くぞコレは!」


神の遺物と呼ばれる生命の樹の種。

その発見により神話業界は震撼した。

これまで神話といえば仮説の一つでしか無かった、しかしこの出来事により真実である可能性が大いに高まったのだ。


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後はConnect ONEが日本にある支部へ生命の樹の種を輸送するという話になった。

恵博士と時止の二人は結果を祝いグラスに酒を注いで乾杯した。


「我々の功績だ、お陰で本国での研究が許された!」


「海外との競争凄かったですもんね、中東での発見物に目を付けた博士やっぱ凄いっすよ」


「少しでも可能性があれば何にでも手を伸ばしてみるものさ、ここまで足を運んだ甲斐があった」


「お陰でこれまで色んな所連れて行かれましたけどね」


「ははは、終わり良ければ全て良しだ!これから始まるんだがな!」


高笑いする恵博士。

すると時止がこんな質問をする。


「やっぱり博士も研究楽しんでますよね?」


「えぇ?いやいや、私は夢に近付くのが嬉しいだけだよ。研究なんてそのための手段でしかない」


「またその話、結局博士の夢って何なんです?そろそろ教えて下さいよ」


酔いが回って来た時止はいつも聞き流されていた質問をした。


「現実的になって来たし、そろそろ答えてもいいか」


そして恵博士はドヤ顔をして遂に夢を語るのだった。



「私はね、"神"になりたいんだよ」



月明かりに照らされた美しい表情で自らの夢を明かした恵博士。

その答えに時止は思わず吹き出してしまった。


「ぷっ、神って!人は人ですよ!聖典にも書いてあるじゃないですか!」


「聞いといて笑うなよっ!私は本気だぞ!」


時止の肩を軽く叩いて突っ込む恵博士。


「何で神になりたいんですか?神になってどうするんです?」


「正しい姿に戻すのさ、罪に苦しんでいる事も聖典には書いてあるだろう?そういった類の事を無かった事にしたい、そんな世界を見たいのさ」


あまりに壮大な夢の話を聞き、更にテンションの上がった時止は踏み込んだ事を言ってしまう。


「そんなんだからシングルマザーなんですよ?継一も父親が欲しいみたいなこと言ってましたからね」


彼女の家庭内事情にまで口を出してしまった。

そう言われた恵博士は少し瞳の光が消える。


「……継一も私と同じ夢を持っているけどね」


意味深にそう呟いた次の瞬間。

共に来ていたConnect ONEの仲間が一人やって来る。


「博士っ!大変です!」


険しい表情をしたその男は冷や汗を流しながら息を切らしている。


「どうした?」


その男は報告した。


「中東連合がっ、種の引き渡しを拒絶したんです!!」


なんとこの地域の政府が種を独占しようとしているらしい。


「何だと⁈」


このままでは研究も何も出来ない。

すぐさま二人は組織のテントに戻り詳しい話を聞くのだった。


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「どういう事だ⁈」


テントに戻りすぐさま事情を伺う。

他の研究員たちも血相を変えていた。


「この国で発見されたのだからこの国が所有するべきだと主張していますっ!」


「種の価値も分からんような奴らが……っ!」


そのタイミングでコンピュータに相手国からメッセージが送られて来る。


「どういう意味だ?訳せ!」


「"武力を行使してでも奪う"との事です……」


「何という事だ……!」


頭を掻きむしりながら考える恵博士。

ダメ元で質問をしてみる。


「予算はどれくらい残ってる……?」


「何をするつもりですか……!」


「隣国から傭兵を雇えば戦える……」


「正気ですか⁈」


研究員が恵博士の顔を見るとその表情は険しかった。

いつもの彼女ではない、心を失くしたような雰囲気だ。


「ようやく神の域に達する機会を得た、この機を逃す訳にはいかない!」


その目は怒りに満ちていた。

しかし上の者には逆らえずConnect ONEは残された予算で近くの傭兵を雇う事となった。

そして雇われた傭兵たち。

その姿は見窄らしかった。

殆どが子供で表情も失った様子である。


「残った予算で雇えるのはこの兵団が限界です……」


「無いよりマシだろう、使いようではこう言った者たちは化ける」


そう言う恵博士はどこか満更でもないような表情を浮かべていた。

一同はその様子に少し恐怖を覚える。


「それに日本人もいるぞ、君は何者だ?」


日本人らしき少年に近付き名を問う。

すると怯えた声で彼は応えた。


「陽・ドゥブジー……」


恵博士の目を見ないまま答える彼に彼女は少し関心する。


「ハーフか、すまないね私の勝手な事情に巻き込んでしまって」


口ではそう言うが何も感じていないように思える。

陽の頭をポンポンと叩き話に戻る。


「よし、では早速攻撃を仕掛けよう。こちらからは何も返答していないからな、ゲリラで行くぞ」


まるで少年兵の命など何とも思っていないかのように彼らを戦場へ送ろうとする。


「怖くはないさ、正しき新世界でまた会える」


そして彼らは戦場へと向かって行った。

見送る恵博士の表情を見た時止は他の研究員と同様に恐怖を覚えた。


「(こんな人だったんですか……?)」


夢のためなら他者を犠牲にする彼女の姿勢が怖くてたまらなかった。






つづく

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