#3

瀬川の父に呼び止められた快は近くにあったベンチに座り二人きりで話す時を設けた。

一瞬快の方を見た瀬川参謀はすぐに目を逸らして独り言のように呟く。


「あぁ、やはり神の域を目指す者の瞳だ……」


憐れむように言う瀬川参謀に快は違和感を覚える。

一つ思った事を聞いてみる事にした。


「あの、おじさんも新生さんと同じ罪の贖いが目的なんですか……?」


「そうだ、だが今の彼は……」


何処か少し新生長官に対しても憐れむような表情で言う。


「君は自分の罪が何か分かっているか?」


この期に及んで不思議な質問をしてきた。


「決まってますよ、力の使い方を誤って世界を壊しかけた」


「なるほどな……」


そしてしばらく天井を、というより天を見つめてから答えた。


「罪を犯す根本的な原因、"原罪"について考えた事はあるか?」


「何ですかそれ……?」


「君は大罪を贖おうと焦り原罪を後回しにしてしまっている」


そして快の顔をしっかりと見て伝えた。


「原因が分からなければいくら正した所でまた繰り返す、意味が分かるか?」


いきなり強く否定されるような事を言われた快は先程の瀬川と似たようなものを彼から感じてしまう。


「何なんですか、俺を否定したいんですかっ?」


「そう言った訳ではないのだがな……」


「でもそうじゃないですか!俺はやるしか無いんです、世界を救って罪を贖わなきゃ……っ」


「それは私も求めている、だがまだ君はその段階ではないのかも知れない……」


彼の言っている意味が分からない。


「罪を犯す原因?それこそ今は後回しですよ、現に世界が大変な事になってる……!」


「そうかも知れないな、だがこれだけは言っておく」


そして快の肩を両手で掴み力強く言った。


「せめて人らしく、人のままで在ってくれ……!」


そのまま瀬川参謀は立ち上がり快にある誘いをした。


「まだ準備まで時間があるだろう。明日指定する場所に来なさい、君の罪について理解を深めたいんだ」


そう言われた快。

一瞬悩むが答えを見つけハッキリさせたかったため了承した。


「わかりました、場所教えて下さい」


こうして翌日、快は瀬川参謀に指定された場所へ向かうのだった。


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翌日、Connect ONE本部ではTWELVE隊員たちが快を取り戻すため彼らの行く先を調べていた。


「お、なんかそれっぽい情報発見!」


自前のパソコンで調べていた蘭子がある情報を見つける。

一同は集まりその画面を見たのだった。


「瀬川参謀の教会か?」


「親父……」


画面に大きく写される瀬川参謀の写真。

これはある教会のサイトだった。


「見てここ、予定の所に特別な説教があるって」


「ってかこれ今日じゃん!もうやってるくね?」


新生長官や快と共に去った瀬川参謀を捕らえて話を聞きだせば目的や潜伏場所が分かると思った。


「でも外あんなでしょ?こんな時にやるのかな……?」


陽が外の惨状を浮かべて口にした。

確かに中止になるのも頷ける。


「……っ」


その言葉を聞いて悩む瀬川だが動かない訳にはいかなかった。


「いや行きましょう、今は行動すべきです」


瀬川の決意に満ちた表情と言葉で一同は頷いた。

久々に専用車両であるエリヤを走らせ瀬川参謀の教会へ向かったのだ。


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一方例の教会では。

あの惨状の後にも関わらず多くの信者が集まっていた。

中央の祭壇の前で瀬川参謀が神父として説教をしているが快は話の意味が全く分からない。

しかし親友の瀬川がこれを強制されていた事を考えると少し同情してしまった。


「快くん、お疲れ様」


説教が終わった後、一同には帰る者もいれば信者同士で交流する者もいる。

そんな中で神父の瀬川参謀は真っ先に快の所へやって来た。


「ごめんなさい、正直よく分からなかったです……」


素直に伝えて謝るが瀬川参謀は予想通りというような反応だった。


「それは仕方ない、君を連れてきた目的はそうではないんだ」


すると瀬川参謀はある人物を見つけ呼び止める。


「勇山さん、ちょっとよろしいですか?」


その名で呼ばれて来たのは初老の男性。

優しそうな雰囲気を持った彼は快を見て挨拶をした。


「はい先生。あ、どうも」


「どうも……」


何故この男性をわざわざ呼んだのだろう。

不思議に思いつつもその苗字には聞き覚えがあった。


「彼が紹介したいと言ってた子ですか?」


「ええ、創 快くん高校二年生です」


「高二か、娘と同い年だ」


そういう勇山に快は愛想のため返事をする。


「そうなんですね、同い年か……」


すると勇山は少し寂しそうな目をして言った。


「でも先日亡くなってしまって……」


「え」


「君のそのネックレス、同じのを大事にしてたなぁ」


そう言われて気付く。

この者は、この者の娘は。


「(この人、英美さんの……っ!)」


一気に罪悪感が押し寄せる。

彼女の死は自分の選択により招かれた。

つまりは自分の責任でもあるのだ。


「ん、どうしたんだい?」


顔面蒼白で震える快を不思議に思う勇山。

するとそこへある人物がやって来る。


「おじさーん!」


小さな子供が甘えるように走って来て勇山の足にしがみつく。

その子供を見た快は記憶がフラッシュバックする。


「(この子は……っ!)」


あの時、初めて罪獣が現れゼノメサイアになった日。

英美と共にいた少年、リク君だ。

しかし何故彼が英美の親と一緒に居るのだろう。


「あれ……?」


リク君も同様に気付いたようだ。

快を見て驚きの声を上げる。


「娘が最期に助けた子なんです、ヒーローのようだったって……」


しかしそれに気づかぬ勇山が口を挟んでしまった。

二人の視線が阻まれてしまう。


「この子も親を亡くした。失った者同士で惹かれあったんですよ」


その言葉を聞いた快は罪悪感がより一層強くなってしまう。

パニック発作が始まってしまった。


「すみません、ちょっと失礼します……」


その場にいるのが苦しくなり逃げるように立ち去ってしまった。


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逃げるようにその場を立ち去った快は教会の入り口前に座っていた。

すると瀬川参謀が着いてきて言った。


「帰ろうか、車の中で意図を話そう」


そう言われ仕方なく車に乗り瀬川参謀から話を聞く事にした。


「私は知って欲しかった、人としての罪を」


「じゃあ英美さんを死なせた事が俺の罪って事ですか……?」


「私には分からない、ただ君がそう感じる可能性があると思ってな。実際そうだったろう?」


「まぁ、はい……」


確かに大いに罪の意識は感じた。

それでも世界を壊しかけた事との違いが分からない。


「でも違いがイマイチ分かりません、同じ辛さです……」


そう正直に告げると瀬川参謀は少し考えてから告げた。


「うむ……やはり新生くんは君を神にしようとしているらしい」


どうしてその話題になるのか分からなかったが瀬川参謀が続ける。


「人は人のままでいるべきなんだよ、決して思い上がってはならない……」


細かい意味は分からなかった。

しかし彼は新生長官とは思想が違う事が感じられた。


「(この人は新生さんとは違う……)」


自分の存在を認めその意義を与えてくれる人ではない。

そう感じて窓の外を眺めた。


「ん……?」


するとすれ違う車の中が見える。

そこにいたのは。

「え、快……?」


その車両の助手席には瀬川が座っていた。

快と思い切り目が合う。


「隊長っ!今の車、快がっ!!」


「なにっ⁈」


瀬川の慌てた声を聞いた名倉隊長は慌ててハンドルを切る。

そして急旋回し快の乗った車両を追いかけた。


「あれだな⁈」


「はいっ!」


慌てて追いかける。

この辺りも少しだけ崩壊の痕跡があり地面がひび割れているため追いかけづらい。

スピードを出せば尚更タイヤを引っ掛けやすいのだ。


「GPS弾、発射!」


念のため追跡用の弾丸を放ち前の車両にくっ付けた。


「あ」


その瞬間、タイヤが大きな溝に引っかかってしまい車両が横転した。


「ぐぅっ、大丈夫か……?」


「痛いけど……大丈夫」


何とか起き上がった後、蘭子がタブレットで先程のGPSを確認する。

そこにはしっかり車が走る痕跡があった。


「よし、これで居場所が分かるはず……」


そのまま一同は帰投し彼らの居場所を確認するのであった。


___________________________________________


Connect ONE本部に帰投した一同は上層部の者へ報告に行った。

時止主任の研究室へ足を運ぶ。


「そうか、よくやった皆んな」


時止主任も親友である新生長官の居場所が気になっていた。


「それでデータは?」


「もうそっちに転送済み」


蘭子により既に時止主任のコンピュータへデータは転送済みだ。

それを聞いて確認する時止主任。


「ふむふむ……ん?」


そのデータを確認した時止主任は何かに気付く。


「なぁ、本当に快くんが乗った車に付けたんだな?」


「そうですが……」


GPSを付けた張本人の名倉隊長が返事をする。


「はぁ、そういう事か継一……」


何か嫌な納得をしたような時止主任。

そして覚悟したように振り返る。


「みんな、思った以上にマズい状況かもしれない」


「え?その場所に何かあるんですか……?」


深呼吸をした時止主任は語りだす。


「話しておかなきゃならない。俺と継一の事、そして彼の母親について……」


いつも以上にシリアスなトーンで語りだした時止主任に一同も覚悟を決めるのだった。






つづく

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