#3

施設内の廊下を一斉に歩く研究員一同。

既にメインの研究室に恵博士を呼び出している。

一際大きな扉を開けるとそこには恵博士が待っており何かを悟ったような表情をしている。


「何のつもりかな?既に研究は大詰めだと言うのに」


恵博士の背後には生命を抽出するためのパイプを付けられた生命の樹の種が大きく聳えていた。


「っ……まさか動かすんですか?」


「そうさ、いよいよ物質化をする時が来たんだ」


喜ぶ声を上げる恵博士だがすぐに一同を見て目の色を変える。


「だと言うのに君たちと来たら……何のつもりだい?私の意思に反する事をしでかしそうに見えるが」


「えぇ、お言葉ですが博士。その研究は危険だと判断しました」


「というと?」


「生命が物質化なんてされたらこの世の理が大きく変わってしまう……!」


すると恵博士は憐れむような瞳を見せた。


「変化を恐れるのか、なんて傲慢な……」


そして恵博士はハッキリと言った。


「これは神が与えた試練だ、全て乗り越えた時に神の御元へ辿り着く。我々人類は乗り越えねばならないのだよ」


遂に我慢の限界が来た時止はずっと言いたかった事を口にしてしまう。


「神なんて非科学的なもののためにそんなリスキーなこと出来ませんよ!」


その発言に対し恵博士は悲しそうな顔を見せる。


「そうか、君はやはり信者ではなかった……」


以前言っていた"信者ではない"という言葉。

残念そうな彼女の顔を見て悲しくなる、そんな彼女への情がまだ残されていたのかと時止は自分に驚いた。


「今を無理に変えてしまえば皆んな苦しむかも知れない……」


しかし恵博士は信者に関する事ではなく今の発言に対しより大きな反応を見せた。


「なら試練を乗り越えられず今を苦しんでいる者たちはどうなる⁈君たちが変えたくない今を壊さねば救われぬ者が居ると考えた事はないのか⁈」


恵博士のその言葉。

時止が真っ先に思い出したのは新生の言葉だ。



『我々は不覚にも現状に満足できていない、しかし過酷な環境にいた彼らにとって我々の現状は幸せそのものだろう』



その真の意味とは。

時止は頭をフル回転させ考えた。


「(何だ、少し矛盾を感じる……⁈)」


恵博士は誰を指して先程の発言をしたのか分からないがもしそれが以前の新生の発言と同じ対象なら。

母と息子の言葉に行き違いがある。

母はまるで時止たちが幸せであるかのように言い、息子は時止たちが幸せを感じられていないかのように言った。

その真意とは。


「とにかく私は神の御元へ行きその力を手に入れる!そして今を苦しむ者たちに救いを!」


そう言いながら生命の樹の種に繋いだ装置の人一人分ほどの大きさをした椅子に腰掛けた。

そのまま頭に何かを取り付ける。


「何を……っ⁈」


無視をした恵博士はそのまま電源を入れる。

すると生命の樹の種はけたたましい轟音を響かせ発光した。


「こんな世界は間違ってるんだ!!」


その言葉を口にし辺りは一瞬にして見えなくなった。


___________________________________________


時止が目を覚ますと施設内は大きく崩れていた。

何やら周囲には赤黒い樹木のようなものが広がり蠢いている。


「おい大丈夫か……⁈」


先程まで周囲にいた仲間を探す。

しかし悲惨だった。

数名は瓦礫に押し潰され既に息絶えており他数名も大怪我を負っている。


「そんな……っ」


すると何やら足音が近付いて来た。

そちらに目をやるとやって来たのは予想外の男だった。


「母さん、ようやく動き出したんだね……!」


なんと博士の息子である新生継一が嬉しそうに両手を広げて歩いて来たのだ。

瓦礫に潰された者たちに気付いていないのか一直線に母の方へ向かって行く。


「おぉ息子よ、遂に叶える時が来たぞ……!」


「これで父さんの無念も……!」


父親の話が出て来た。

正直深い意味は分からなかったが時止は考えるより先に体を動かした。 


「装置を止めろ、これ以上継一を巻き込むな」


自分でも分からないほど無表情で冷静になっていた。

組織用の短銃を取り出し装置に繋がれた恵博士に向けた。


「おや、まだ動けたか。しかもそれが君とは、神の与える試練は残酷だな」


「また神か、試練か……もう聞くのも辛い」


装置の動きを見ると恵博士からエネルギーを吸収しているようだ。

恐らく彼女の生命を物質化しようとしているのだろう。


「私は今自身の生命を増幅させ神の域に向かおうとしている。君たちが否定するものを証明するんだ、邪魔はしないで欲しいな」


「だから……神なんて居ないって!!」


その瞬間、一発の銃声が響いた。

恵博士の胸部には小さな穴が空きドロッと血が流れる。


「そうか……継一、後は頼むぞ」


その言葉を最期に恵博士は動かなくなった。

同時に蠢く樹木のような存在も動きを止める。


「母さん……」


その様子を間近で見た息子の継一は母の瞳をジッと見つめている。


「はぁ、はぁ……すまない継一、でもお前のためなんだ……言っちゃ悪いが洗脳みたいな事されてたぞ……」


何で彼女らは止めようともせずそのまま撃たせたのだろう。

その疑問は拭えなかったが母親を撃ち殺してしまった、そのため息子に言い訳を並べる。


「そうか……」


すると新生は涙も見せずに立ち上がり時止の方を見た。

その瞳に色はなく、感情というものを何も感じなかった。


「感謝するよ、君のお陰だ」


何故かそのような言葉を口にする。

ショックのあまり精神ダメージが大きいのかも知れない。


「おい、大丈夫か……?」


心配して近付く時止だったが新生はゆっくり歩き出す。

そして時止の方を振り返りこう告げた。


「私の目から見た君は輝いている、眩しすぎてその姿を認識できないほどに……」


その言葉の意味は分からなかった。

更に異様な雰囲気を放っている彼の一人称が僕から私に変わった事にも気が付かなかった。


___________________________________________


そして現代、時止主任は過去の話を語り終えた。

聞き終えたTWELVE隊員たちは顔色が真っ白だ。

そして誰もが彼を気にしていた。

陽だ、しかし誰も気を遣って彼の方を見れない。


「っ……」


当の陽本人は過去を思い出し冷や汗を流している。


「すまないな、急にこんな話をしてしまって……」


こんな空気にしてしまった事を詫びる時止主任。

しかし話してしまった以上は止める事は出来ない、彼はあの出来事から考えた今回の件について話し始める。


「快くんの乗った車が辿り着いたこの座標、そこには旧Connect ONE日本支部がある」


一同も今の話を聞いて察していた。


「そしてそこには今話したように、博士の生命と繋がった樹木のようなものがあるんだ……」


それを聞いた蘭子は反応する。

その問いにも時止主任はすぐに答えた。


「え、でも本体の種はここにあるじゃん」


「種は何とか切り離してここへ運ぶ事が出来た。でもそこから生えた樹木はまるで博士の意思なのかその場から離れようとしない」


これまでに行った様々な対策を説明する。


「焼こうとしても切ろうとしても全く効果なし。そこで初めて"神の域に在る者には触れられない事"が明らかになったんだ」


ゼノメサイアと大天使ルシフェルが成った存在、その発見はそれによるものだったのだ。


「発芽する前の種の部分しか持ってこれなかったんだよ、だから今ここにあるのも樹の核ではあるけど大部分を失ってるんだ」


「残りはその場所にあると……」


名倉隊長が反応する。

そこで危惧される事を時止主任は伝える。


「不完全な種の力でもゼノメサイアはあれだけ恐ろしい存在に成った、もし継一がそこにある樹木を全て従えて種を手に入れたら?」


「まさか……」


「完全体と成ってしまう。被害はこの間の比にならないぞ……」


これから起ころうとしている事、大好きだった新生長官がやろうとしている事を知りショックを受けてしまう。


「そんな事を快に、親父はっ……!」


一方で瀬川は父親に対して歯軋りをしていた。


「ちょっとタイム!従えるっつってもその樹木には触れられないんすよね?なら新生さんはどうやってその力を従えるんすか?」


とある事に気付いた竜司が口を挟む。

それに賛同し蘭子も疑問を抱いた。


「確かにね。種を奪ってそこまで運ぼうにも人員とか気になるし、それにゼノメサイアを利用するとか言っても触れた時点でヤバいんでしょ?」


そのような質問を受け時止主任は更に項垂れてしまう。


「あぁ、それなんだが……」


明らかに何か後悔しているような様子だった。


「恐らく俺の発明が利用されてしまう……っ」


遂に膝から崩れ落ちた時止主任。

その様子に一同は困惑してしまう。


「え、発明って……」


「種をこの施設に運んだ後、例の樹木から恐ろしいものが発見されたんだ」


震えながら解説していく時止主任。


「それは"バベル"、継一曰くライフ・シュトロームに絡みつく罪を具現化した存在だ。そしてそれが……」


顔を上げる時止主任。

その目からは涙が滲み小刻みに震えていた。



「君たちの戦って来た"罪獣"なんだよ……!」



遂に告白された敵の正体。

世界の運命や如何に。






つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る