第24界 ブンダン

#1

混沌とした意識の中で快は確実に見ていた、周囲の景色が赤く光り崩壊を始め空からは紫に光るもう一つの地球が降ってくるのを。


……まるでその中心に自分がいるような、自分がソレを起こしているような感覚だった。



『「ぁっがあああぁぁ……っがぁぁっ……!!」』



自分の他にもう一人分の心が混ざったような感覚に襲われ非常に気持ちが悪い。

その混ざり合う感情は偶然にも相反するものであり余計に気持ち悪さが際立った。


『君のヒーローになりたかった……!』


「私のためにヒーローになって欲しくなかった!」


いや、これは偶然なのだろうか。

互いの事を想うようで実際は自分の事ばかりという二人だからこそこのような混沌を起こしてしまったのではないのだろうか。



そんな二人の混沌を表すように世界は崩壊を続けていく。

多くの生命はそれに巻き込まれ死に絶えていく。


ーーーそんな止まらない崩壊に一筋の光が差した。



【君らはお互い自分本意だった】



二人だけにその声が聞こえた途端、辺りは眩い光に包まれ人々の意識は何処かへと消えて行った。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第24界 ブンダン






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「ーーーはっ」


次の瞬間、快は突然目を覚ました。

今見ていた景色は夢だったのだろうか、そう思えるほど周囲は静かである。


「やぁ、目が覚めたかい?」


気がつくと自身が寝ているベッドの横に新生長官が座っていた。

何故かは分からなかったがこのタイミングでここはConnect ONE本部の医務室である事が分かった。


「あれ、俺何でここに……?」


しかしそれでもまだ状況は理解できていない。

何故自分がこんな所に居るのか、夢で見た光景があまりに鮮明すぎたため今この状況も現実なのかどうか分からない。

ただ真っ白い医務室の中で新生長官が少し残念そうな笑顔で快を見つめていた。


「何も覚えてないのかな?」


「はい、夢は見てたみたいなんですけど……」


「どんな夢?」


「世界が壊れて、その中心に俺がいて……」


「なるほどね……」


神妙な面持ちで何か言葉を詰まらせる新生長官。

するとそこへ医師のような男が扉を開けて入って来た。


「あ、目が覚めたようですね……っ」


快の様子を見に来たというような所だろうがその医師の表情や雰囲気にも快は違和感を覚えた。


「では診察に行きましょうか」


そして快は用意された車椅子に乗せられ移動を開始した。

車椅子を押す看護婦の手が震えているのが伝わる、何故なのだろうか。

目が覚めてから違和感ばかりだ。

移動中に周囲の景色を見てやはりConnect ONE本部だと再確認する。

そして診察室に運ばれ体を調べられる。

その理由も詳しくは教えてくれなかった、というより快と言葉を交わすのを避けているかのようである。


「特に異常は見当たりませんね……」


新生長官に伝える医師。

その言葉に対して答える。


「ふむ、やはりグレイスフィアが何らかの作用を起こしたようだね」


そこで快は思い出す。

今自分の首にはグレイスフィアが掛かっていない。

アレは何処にあるのだろうか。


「あ、あの……!グレイスフィアは⁈」


突然声を上げた快に周囲は驚く。

その中で新生長官だけが冷静だった。


「それにこの状況って、どういう事なんですか⁈あれから何がどうなって……っ!」


その発言に医師や看護婦は歯軋りをした。

何故そのような怖い態度を見せるのか、快には分からない。

しかしただ事ではないのは伝わって来た。


「あ、愛里はどうなったんですか……?」


快も流石に参って来た。

見兼ねた新生長官は快の前に立つ。


「快くん、その目で君の"罪"を確かめると良い」


彼は今"罪"と言った。

出撃する前にも言われた事だが一体今度は何を意味する言葉なのだろうか。

医師や看護婦の態度が気がかりのまま、快は新生長官に連れられその場を後にした。


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新生長官に連れられConnect ONE本部の廊下を歩く。

一見いつもと変わらない風景だがやはり違和感が拭えない。


「薬残ってないか⁈」


「もうこっちは切れた!」


何処かいつもより騒がしい。

何かに焦り慌てているようだった。


「あっ……」


そんな中で職員の一人と快の目が合う。

すると彼は快の胸ぐらを思い切り掴み怒号を浴びせたのだ。


「てめぇ!てめぇのせいでこんな……っ!!」


訳が分からず内心パニックになってしまう快。

よく見ると職員の快を掴む手には包帯が巻かれており血が滲んでいた。


「え、え……っ?」


突然浴びせられた罵倒。

それはゼノメサイアになったばかりの頃ネットで見た賛否両論の意見、それよりも遥かにハッキリと嫌悪感が伝わった。


「おいよせ!」


他の職員たちが必死に抑えて快は解放される。

しかしまだ状況が掴めない。

止めてくれた他の職員たちも快を良く思っていないようだったから。


「悪いけど近付かないでもらえるか……?」


突然拒絶された事、それはある記憶を呼び覚ます。



『来ないでっ!』



愛里の声で再生されたこの言葉、彼女に否定されてしまった予感がしていた。

そこから廊下を進んで行くと違和感がどんどん明るみになっていく。

壁や天井は崩れ、床には亀裂が。

その中で必死に怪我人を運び治療しこれまでにない表情を見せている職員たち。

まるで未曾有の大災害に遭ったかのような光景だった。


「あっ、アイツ……」


「あんま見るな……っ」


快と新生長官が通るとそのような声が至る所から聞こえる。

快の恐怖も増すばかり。


「長官も長官だ……」


「独断でゴーサイン出したんだろ?」


何やら快以外にも新生長官に対する疑問の声もちらほら聞こえる。

すると件の新生長官は語り掛けた。


「快くん、君に戦いに行かせた時……私は君に神になってもらおうとした。インディゴ濃度の高い者が神になり、新世界を本来あるべき姿に……」


ここで久々にインディゴ濃度という言葉を聞いた。


「インディゴ濃度、発達障害を持つ者が神って……」


快は自分の事として自虐的に受け取った。

しかし新生長官は大真面目である。


「しかし私は失敗した、まだ君に宿る力の意味を理解できていなかったんだ」


そして一際大きな扉の前に立ちそのドアノブに手をかける。

ゆっくりと隙間から光が差し込んで来た。


「その結果……」


快の瞳の中に入り込んで来た光景とは。



「〜〜〜っ」


開かれた扉と共に映り込んだ景色。

それはとてもこの世のものとは思えなかった。


Connect ONE本部の周囲は緑豊かな山々だったはずだ、しかし今はどうだろう。

山のような突起は一つも見当たらず全てが消し飛び真っ白な灰と化している。


そして地面に入った亀裂からは赤紫のエネルギーが漏れ出しておりそれは一つの座標で交わっていた。


中心にエネルギーの根源のような真っ黒な石が埋まっているのである。

それはまるで巨大なグレイスフィアのように見えた。


「え、何ですかコレ……っ」


全身が震える。

思わずへたり込んでしまう快を新生長官は見ないまま語り出した。


「君の力を制御できなかった結果だ」


「そん、な……」


この惨状が自分のせいだと知り絶望してしまう。

先程の職員たちの態度はそう言った事だったのだろう。


「あ、あ……」


もはや言葉も出ない。

しかしそんな快に新生長官は伝える。


「だがそんな君の力を把握できず軽率にも種の力を与えてしまった私にも責任がある、これは我々二人の罪なんだよ」


「二人の……」


「だから私は償いたい、何としてもね……」


そう言った新生長官の表情は快には読めなかった。

そして快にも聞こえないほどの声で呟く。


「そして今度こそ父と母のために新世界を……っ」


この惨状を迎えてしまった世界。

快と新生長官はこれからどのような決断をしていくのだろうか。






つづく

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