#5

快と時止主任が言い合っている中にやって来た新生長官。

彼が快に向かって放った言葉は二人を驚愕させた。


「ゼノメサイアとしてヒーローになってくれ」


快は一瞬驚いた後すぐに都合のいい言葉を放ってくれた新生長官に賛同した。

逆に時止主任はいくら親友の言葉といえど了承は出来なかった。


「何言ってるんだ継一⁈こんな力を振るえば……っ!!」


しかし新生長官は何か考えがあるらしくそれを伝えた。


「大丈夫だよ、種の力を与えればね」


「それはまた別のリスクがっ……」


以前瀬川にも見せた、現在ルシフェルが狙っているという生命の樹の種。

その力を快に与えるというような話をしている。


「(何の話だ……?)」


快は種についての事は何も分かっていないが重要な話をしているのは分かった。


「リスクか……この状況でも言えるのかい?外の様子を見てみたまえ」


そう言って新生長官は時止主任にモニターをみるように促した。

そこでは大天使ルシフェルに破れボロボロになったゴッド・オービスが映し出されていた。


「もう後がない、多少のリスクは仕方がないよ」


「くっ……」


そう言われてしまい何も言い返す事が出来ない。

確かにこのまま大天使ルシフェルを放っておいても大惨事になるだろう。


「じゃあ快くん、行こうか」


そう言って快を連れて行こうとする新生長官。

快も迷わずに着いていく。


「継一っ!!」


去っていく二人の背中に時止主任は声をかける。

そして最後の問いをぶつけた。


「このままだと彼は破滅してしまう!君の母親のようにっ!!」


先ほど脳裏に浮かんだ自暴自棄になった女性の事を話題に出す。

新生長官の母親だと言うのだ。


「……」


その言葉を聞いた新生長官は一瞬立ち止まり何か考えるような素振りを見せて黙った。

そしてそのまま無言で快を連れて去って行った。


「クソっ……」


彼と母親の事を考えるとこれ以上動けなくなってしまう時止主任だった。

その場に立ち尽くしてしまい彼らの背中を黙って見つめていた。


___________________________________________


新生長官に連れられた快は真っ暗な部屋に案内された。

その空間の中で新生長官は快に問う。


「快くん、質問をさせてもらうよ。愛する者のために傷つく覚悟は出来ているかい?」


それはまさに時止主任と話していた事だった。

当然快の答えは決まっている。


「もちろんです、それを超えた先に愛が待ってると信じてますから。そのためなら頑張れます……っ」


無理やり心を落ち着かせ答える。

その言葉を聞いた新生長官はニヤリと笑った。


「素晴らしい答えだ、君の言う通りだよ」


何処か勝ち誇ったような表情で言う彼だが快には暗くて表情は見えなかった。


「さぁ、これを見たまえ」


指を鳴らすと辺りの電気が灯る。

その空間には巨大な植物の種子、生命の樹の種が聳えていた。


「すごい……っ」


快は思わず呆気に取られて口を開けてしまう。

そんな快に新生長官は伝えた。


「今、大天使ルシフェルはこれを狙っている。ヤツがこれを手にすれば完全な神として君臨してしまう」


そして快の顔を覗き込みながら真剣な目で伝えた。


「その前に君が手にするんだ、そしてその力を振るいヤツを打ち倒せ。真のヒーローとして君が君臨するんだよ」


真のヒーローという言葉に魅力を感じた快の心は惹かれていく。


「俺が真のヒーローに……」


「そう。そして愛する者を救い出し罪を贖うんだ、やれるかい?」


罪を贖うという言葉が出てきてこれまでの事を振り返る。

自分はいつも勝手で他人を図らずとも傷つけてしまった、救う事で贖えるなら答えは決まっている。


「……俺、瀬川にこれ以上傷ついて欲しくないって言われたんです。だから戦うなって……でもそんなの納得できない」


そして想いを伝える。


「ヒーローになって、罪を贖って証明したい……っ!愛里を救って彼女にも愛されたい……っ」


言葉はどんどん強くなって行く。


「愛される価値のある奴だって、俺だって……!!」


その言葉を聞いた新生長官は微笑んだ。


「だから俺に下さい、その力を……っ!!」


力強く伸ばされた快の手は酷く震えていた。


___________________________________________


そして戦闘の現場では。

大天使ルシフェルが本部にある生命の樹の種を目掛けて進もうとしていた。

しかしまだゴッド・オービスは諦めていない。


「まだだぁ……っ!」


背後からミサイルを連射した。

しかしそれは大天使ルシフェルの体を大きく逸れて地面に着弾。

大爆破を起こし周囲が見えなくなる。


『……』


周りが見えないため一度立ち止まる大天使ルシフェル。

そこへ爆炎の中からゴッド・オービスが飛び出して来て胸のコアを掴もうとした。


「うわぁぁぁっ!!」


しかし大天使ルシフェルは簡単にそれを避けて角を動かしゴッド・オービスの腹部を突き刺した。


「ぐぅっ⁈」


そのまま大天使ルシフェルはレーザーを放つ体勢に入る。

このままではやられてしまう。

そこへ……


『デェアァァァッ!!!』


なんとゼノメサイアが現れゴッド・オービスを突き飛ばし開放した。

コックピットからその様子を見た瀬川は驚愕してしまう。


「何でっ、快⁈」


状況が理解できぬまま瀬川の乗るゴッド・オービスは放り出され動けなくなってしまう。


「もう動けないっ!」


「このままじゃゼノメサイアがっ!!」


一同は快を心配して焦っている。

ただ見ている事しか出来なかったのだ。


『愛里っ、必ず俺がっ……!!』


ゴッド・オービスを救った後、大天使ルシフェルに戦いを挑むゼノメサイア。

彼も焦ったように全力で突っ込んでいく。

右拳に全力のエネルギーを溜めた。


『ライトニング・レイッ!!!』


愛里を殺さぬため胸のコアは狙わず顔面を狙い超絶光線を放った。

しかし大天使はこの世の理を外れた者なので光線が当たる事はない。

強力なバリアに弾かれるように光線はあちこちに飛んでいく。

周囲で爆発が起きる中ゼノメサイアと大天使ルシフェルは睨み合っていた。


『ゥアッ……』


そのまま一度敵から離れて別の手に出ようとした。

しかし大天使ルシフェルは攻撃をしてくる。


『ピィヤァアアアアッ』


目からレーザーを放ちゼノメサイアを攻撃する。

反応した時にはもう遅い。

避け切る事は出来なかった。


『グゥアアァァァ……ッ!!!』


何とレーザーはゼノメサイアの右腕を一瞬にして切り落とした。

失われた右腕の断面からは真っ赤な鮮血が噴出している。


「快っ!!」


瀬川も思わず声を上げてしまった。

それでもゼノメサイアは止まらない。

鬼のような形相で大天使ルシフェルを睨みつけていた。


『愛里っ!待っててっ……!!』


想いは変わらぬまま右腕のない状態で再度突っ込んでいく。

しかしそんな状態で敵うはずがない。


『フォンッ』


大天使ルシフェルは角を三本伸ばしゼノメサイアの胸部、腹部、脚部をそれぞれ突き刺した。

突進が止まってしまう、叫ぶ事すら出来なかった。

更に鮮血が噴き出た。


『グゴォ……ッ』


そして大天使ルシフェルはトドメを刺そうとした。

胸部のコアにエネルギーを溜めて一気に放つ。


『ピュロロロロッ!!!』


その凄まじい光線はゼノメサイアの体を完全に吹き飛ばした。

鮮血が飛び散り内臓も溢れ、とてもここから助かるとは思えない状態になってしまった。


「快ぃぃーーーーっ!!!!」


瀬川の叫びと他のパイロット達の絶句が衝撃を物語っていた。


___________________________________________



ドクン、ドクン……


愛里……




ドクン、ドクン……!


愛里……!




ドクンッ、ドクンッ……!


愛里ッ……!





ドクンドクンドクンドクン……ッ!!!








『愛里っ!!!!!!!』



___________________________________________


心臓から血が全身に巡られるのを感じる中、全身を大きく欠損したゼノメサイアは立ち上がる。

まるでゾンビのように、飛び散った一部は時が逆戻りしたかのように再生していった。


『グゥルルルル……』


獣のように唸り姿が悪魔のように変化して行く。

目は暗く光り、闇そのものとなったようであった。


『オォアアァァァ…………』


口を大きく開け腐っていくような体はまるで蛹が成虫へと孵るようであった。


……"覚醒"したのである。



『グギャアォォォァァァッ…………!!!!』



頭上には大天使ルシフェルのものと同じ天使の輪が浮かび上がる。

そこから凄まじい力が注がれているかのようだった。


「何だコレ……っ⁈」


ゴッド・オービスのコックピットの中で瀬川たちは恐怖に震えた。

その中で蘭子はまだ電気が残っていた機械で分析をした。


「ルシフェルと同じ……いや、それ以上の力が放出されてる……あっ」


そして遂にゼノメサイアの反応が大天使ルシフェルと同様に消失した。

それが意味する事とは。


「消えた……まさか新生さんの言ってた……?」


神の領域に在る者はこの世には居ない。

ゼノメサイアもまさに今同じ状態になっているのである。


「え、快が神の領域……?」


信じられなかった。

親友である快がそんな想像を絶する存在になっているだなんて。


『ゴォォギィガァッ……!』


狂ったように雄叫びを上げるゼノメサイア。

その様子を見た瀬川はある出来事を思い出した。


「あれは……」


小学生の時、キレた快が純希に掴み掛かった時の様子とソックリだった。

そして大天使ルシフェルは何か危機を察知したのか先程と同じ胸のコアから光線を放つ。


『ピィヤァァァッ』


ゼノメサイアはそれを正面から受ける。

先程は体が消し飛んだ程だったが今は何と踏ん張って耐えている。


『グゥゥゥ……ッ』


そして受けたまま一歩一歩前へ進んで行った。

大天使ルシフェルも少し焦りを見せ光線の威力を強めるがもう遅い。

覚醒したゼノメサイアには既に通じなかった。


『ヴゥゥッ、ヴェアァッ!!!』


そのまま前へ進みなんと大天使ルシフェルの顔面を思い切り殴り付けたのである。

一同は驚きを隠せない。


「当たった⁈」


「まさか本当に……っ」


本当に神の領域に達したとでも言うのだろうか。

大天使ルシフェルは後方へ大きく吹き飛んで行く。


『フォンッ……フォァン……ッ』


先程までの圧倒的な強者のような風貌は何処へやら。

完全にゼノメサイアに負けている。


『オォォォ……』


ゆっくりと立ち上がる大天使ルシフェルだったがその間にもゼノメサイアは次の段階へ進んでいる。


『ヴァアアアァァァッ!!!』


なんと背中から巨大な蒼い翼が出現したのだ。

それと同時に両腕が黒澄んだエネルギーで覆われていく。


「何だっ⁈」


そしてまた同時にある事が起こる。

ゼノメサイアの周囲が赤黒いエネルギーで染まり崩壊していくのだ。

まるで絶対的な神に抵抗できなかったかのように。


『ヴォオオオオ……ッ』


そして空には紫色の"もう一つの地球"が浮かび上がりこちらに近付いて来る。

まるで地獄絵図だった、この世の終わりが体現されたかのよう。


「くっ、動けっ!止めないとマズい……!」


危機を察知した瀬川は慌ててゴッド・オービスを動かそうと操縦桿を握る。

しかしエネルギー切れで動かない。

すると無線機から新生長官の声が聞こえた。


『みんな、このまま彼に任せるんだ!』


その言葉に一同は驚きを見せる。


『今彼は必死に愛を掴もうとしている、神により齎された愛をこの手に掴み人々に与える存在に成ろうとしているんだ』


全く意味が分からない。

瀬川たちはただ聞く事しか出来なかった。

神と成ろうとしているらしい快は翼をはためかせ大天使ルシフェルに迫る。


『ヴゥルルル……』


頭の中は愛里の事しかない。

彼女から得られる愛を思い出し心に抱いていた。


『もう他に何もない、何も要らない……!ただ俺には愛里が……っ!!』


そんな中で立ち上がった大天使ルシフェルは大量のレーザー、自身の幻影などこれまでの攻撃を一斉に繰り出した。

しかしゼノメサイアには全く効かない。


『退けぇぇぇぇっ!!!!』


全身から凄まじい衝撃波を起こすゼノメサイア。

その体から十字の光を大量に放ち大丈夫ルシフェルは信じられないほどのダメージを受けた。


『今行くぞ、愛里ぃっ!!』


そして倒れた大天使ルシフェルの両翼を食い千切り胸のコアに手を当てた。

そのまま意識を伝達していく。

彼女の心に語り掛けるのだ。


___________________________________________


快の意識は大天使ルシフェルの胸のコア、つまり愛里の持つグレイスフィアの中に送られた。

まるで海を泳いでいるかのような空間で快は愛里を探す。


「あっ……」


そして奥の方、真っ黒い十字架に愛里は架けられていた。

黒澄んだ紐によって縛り付けられている。


「愛里っ!!」


そして声を掛け救おうとするが。


「ダメっ、もう私これ以上耐えられない……」


なんと愛里は恐怖を抱いていた。

目を閉じて快の姿を視界に入れないようにしている。


「私達はもう関わるべきじゃない、お互い辛くなるだけだよ……っ」


そんな風にネガティブになる愛里へ快は力強く伝える。


「そんな事ない!その辛さを乗り越えてこそ愛し合えるんだ、ヒーローになれるっ!!」


そして快は愛里へ思い切り手を伸ばす。

後は彼女次第だ。


「だから愛里、手をっ!!」


そう言われた愛里はもう一度快を信じてみたいと思った。


「快くん……」


そしてゆっくりと瞳を開けて手を伸ばそうとした。

だがしかし、彼女の視界に入ったものは予想と大きく違った。


「ひっ……」


快が居るはずの位置にはドス黒い異形の悪魔のような存在がいた。

こちらに向かって手を伸ばしている。

しかしそれは間違いなく快なのだ、自分からはそのような姿だという事が分からない。



「来ないでっ!!!」



そして愛里はあの時と同じ、快を拒絶する言葉を思わず口にしてしまった。


「    」


絶句する快。

思考が完全に停止してしまった。

しかしすぐにその意味を理解し憤慨する。


「〜〜〜っ!!」


そして無理やり愛里に黒澄んだ手を伸ばしその体を思い切り掴み十字架から引き剥がし自らに取り込んだのだ。


___________________________________________


現実に戻ったゼノメサイアは大天使ルシフェルから愛里を無理やり奪い取り自らに移植した。


『グヴァアアアアアアアアアアアアッ』


その結果、精神が完全にイカれてしまい暴走を始める。

二つのグレイスフィアが最悪の形で揃ってしまった。


『素晴らしい、人は罪と共に在り!』


新生長官はまた訳のわからない事を口にしている。

しかし非常に興奮しているのが伝わって来た。


『ゥグウウウウウ』


ゼノメサイアの体は愛里が取り込まれ男性の姿から女性のような姿に変化していく。

そして胸のコアからは二本の剣が出現した。


『おぉ、樹ノ剣と海ノ剣が揃った!』


赤い剣が"樹ノ剣"、金の剣が"海ノ剣"である。

その二本の剣をゼノメサイアは各手に持ち掲げていた。

しかし正気は失っており完全に力は暴走している様子だ。


『我が夢の完遂も近い、みんなよくやった!!』


新生長官は明らかに興奮した状態でTWELVEの一同に話しかけた。

彼らはもう何も理解できていない。


『ゼノメサイアは新たな神と成り新世界が創造される。本来在るべき形の幸せな世界へ……!』


ゴッド・オービスへ伝わる無線の中で新生長官は一人で喋り続けている。


『これにて君らの役目も終わった、次は新世界で会おう!共に愛し合い幸せになろう!!』


本部のモニターに映る神と成るゼノメサイアの姿を崇めるように両手を広げる。


『父よ母よ、いざ共に住かん!神の御心のままに!!』


こうして今在るこの世界は崩壊の道を辿るのであった。




『ァガアアアァァッ……ヴォッオォォォグオオォォォッルルルォォオオオオオオギィィアアァァァァ……ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



















つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る