#4

焼野原と化した本部へと向かう道中。

そこを大天使ルシフェルが進んでいた。


『フォオオオン……』


もう本部を守る防衛システムは機能していない。

最後の切り札が向かっているのである。

その存在は大天使ルシフェルの上空へと到着した。


「胸部のコアをロックオン、一斉に掛かれぇぇぇっ!!!」


名倉隊長の声でキャリー・マザーから分離した各機体は一斉に大天使ルシフェルの胸部のコアを狙って一斉に射撃する。

コックピットの操縦桿を握るその手は汗で滲んでおり顔の表情は険しかった。


『……』


コアを正確に狙われていると理解したのかルシフェルは抵抗を見せた。

周囲の空間を歪ませ無数の自分の分身とも言える幻影を出現させ弾丸を防ぎつつ各機体に突撃したのだ。


「何だコレっ⁈」


一同は驚愕のあまり目を逸らしてしまう。

しかし機体から衝撃が伝わる事はなく不思議に思った。


「っ……?」


目を前に向けると機体が何か光の柱のようなものに覆われている事に気付く。

一同は嫌な予感がし即座に対応した。


「合体だっ!!!!」


慌てて合体しゴッド・オービスとなる。

その途端、機体にとてつもない衝撃が伝わった。


「ぅグぅぅぅっ……⁈」


全員の体に見事に伝わった衝撃は一瞬で先程の分離した状態で食らっていたらマズかったと悟らせる。

慌てて合体したのが良い判断だったと身をもって分かった。


「クッソがぁぁっ!!」


追撃が来る前に立ち上がり急いで大天使ルシフェルに向かって走る。

その間も目から放たれるレーザーなどの遠距離攻撃が周囲を炎上させていた。


『ピィヤァァァ』


「グッ……!」


そしてレーザーが真っ直ぐに猛スピードで向かって来る。

ゴッド・オービスは急いでシールドを展開した。


「シールド展開っ!」


しかしレーザーはそのシールドを簡単に消し飛ばしゴッド・オービス本体を吹き飛ばした。

後方に大きく飛ばされ背中から地面に激突してしまった。


「ヤバい、強すぎる……」


既に息を切らしており立ち上がるので精一杯の一同。

尚も大天使ルシフェルの猛攻は続き避け続けていた。


「機体損傷率50%……っ」


「逃げてばっかじゃ戦えねぇ……!」


絶望にしながらも名倉隊長はある提案をする。


「みんな、一つ大きな賭けをしないか……?」


「賭けって……?」


彼は続ける。


「撃たれる覚悟でこちらも正面から撃つ……」


それは身を捨てるとも言えるような発言。


「このままじゃジリ貧だ、一撃に賭けよう……!」


その言葉を聞いた一同は覚悟を決める。

特に瀬川は誰よりも思う事があった。


「(与方さんを、快の心の支えを殺す……)」


そう考えている間にもゴッド・オービスは大天使ルシフェルの胸のコアをロックオンしエネルギーを溜めている。

もうやるしかなかった。


「快がこれ以上苦しまなくて良いようにっ……」


その瀬川の瞳では複雑な感情が入り交り完全に光を遮断していた。

愛里を殺せば快は絶望するだろう、しかしこのまま野放しにしていても世界は崩壊し快はヒーローになれず更なる絶望を覚えるかも知れない。

ならばまだマシな選択は親友である瀬川が愛里を殺し世界を存続させ快が新たなヒーローになるチャンスを与えてやる事だ。

その想いでゴッド・オービスは必殺技を放つ。


「行くぞ……!」


しかしそこで瀬川にはあるイメージが浮かぶ。

それは快の絶望する姿だった。



『ようやく愛してくれる存在に出会えたのに……』



そうだ、瀬川が戦う理由は快にヒーローになってもらうため。

つまり愛を知り抱いてもらうためだ。

ようやく快は愛里という存在に出会えた、それを今自分は奪おうとしている。

その覚悟は決めたつもりだったがいざその時が来てしまうと絶望に苛まれてしまう。


「ライフ・ブラスター発射ぁ!!!」


そんな瀬川の想いを他所に最高火力の攻撃が発射されてしまう。

一直線に大天使ルシフェルのコアに向かって光線は進んで行った。


『ピュゥルルル……ヴォオオオオオオッ!!!』


それに対抗し大天使ルシフェルはコアからこれまでとは比べ物にならない威力の熱線を放った。

両者の必殺技は真正面からぶつかり合い周囲に凄まじい影響を与える。

そして多大な爆発が起こり一瞬にしてその場は見えなくなった。


___________________________________________


一方Connect ONE本部の指令室では戦いの様子をモニターで眺めていた。

両者の光線のぶつかり合いにより生じた閃光。

それが晴れるのを息を吞みながら待っていた。


「ゴクッ……」


オペレーター達や新生長官がそうしている中、遂に閃光が晴れる。


「映像、回復します!」


そこに移されていた光景は。


『フォオオオン……』


何と大天使ルシフェルは無傷だった。

先程と同じように邪魔者を排除してまた先へ進もうとしていた。


「……仕方ないな」


溜息を吐くように指令室を出ていこうとする新生長官。


「長官、どこへ?」


「他にやる事が出来た、ここは任せたよ」


そう言って新生長官は指令室を後にした。

その様子を見たオペレーターや職員たちは不信感を募らせる。


「こんな状況で何するってんだ……」


「どう考えても防衛が最優先だろ……」


「やっぱ軍人じゃない人に任せちゃダメだったんだ……」


そのような声が指令室の中で飛び交った。

誰の心にも絶望が募っているのだ。


___________________________________________


その頃ゼノメサイアとして戦う権利を奪われてしまった快は時止技術主任の研究室にいた。

そこにもモニターは設置されており戦況がどうなっているかは把握できている。


「……」


しかし快は画面は見ずにずっと下を向いていた。

表情は暗く何を考えているのか分からないほど。


「更に黒いエネルギーが強まっているな……」


その傍らで時止主任が何やら観測をしている。

快の黒澄んだグレイスフィアを機械で読み取り分析しているのだ。

今は変身する権利が快にはないためこの状況でも大天使ルシフェルとの互換性を調べられる。


「やはり心か……」


するとそのタイミングでモニターに閃光が起こり少し眩しさに包まれる。

今まさにゴッド・オービスと大天使ルシフェルの光線がぶつかり合ったのだ。

時止主任もその光景に釘付けになってしまう。

そして閃光は晴れ大天使ルシフェルが勝ち誇った様子で先に進んだ。


「マズいな、もうこの先に防衛システムはないぞ……」


この先を案じて頭を抱える時止主任。

すると快のグレイスフィアの様子が映された機械が大きな反応を見せた。


「何だ……っ⁈」


突然グレイスフィアがカタカタと音を立てて動き始めた。

それはまるで黒澄んだオーラに抵抗しているかのような、それでいてどこか恐怖も覚えているような。


「これは快くんの意思?それとも……」


そう言いながら快の方を見る時止主任。

すると快は立ち上がり言った。


「行かなきゃ、愛里のヒーローに……っ」


そのままグレイスフィアの方に向かおうとしたため時止主任は思わず止めてしまう。


「ダメだ、君は止められているだろう?」


「でも愛里が!あの子が居ないと俺はっ……」


時止主任を無理やり退かしグレイスフィアに触れようとする快。


「あっ、待て!」


そのまま快の手はグレイスフィアが放つ黒いオーラに触れる。

するとそのエネルギーは快の体から心に伝わった。


「うっ⁈」


その瞬間とてつもない意思が快の心に流れ込んで来る。

これは記憶だろうか、この間夢の中で愛里と言い合った後に見た光景と酷似した映像が浮かび上がった。

ゼノメサイアらしき存在を中心に世界が崩壊していっているのである。


「はぁ、はぁっ……」


大量の冷や汗を流しながら固まってしまう快。

そして時止主任はその時に出た機械の反応を見て恐れた。


「この反応っ……マズいな、とても制御できるものではない……っ!」


コンピュータを弄りデータを露わにして快に伝えた。

そこには今のデータと大天使ルシフェルのデータが並べられていた。


「ホラ見てこれ。今の反応は大天使ルシフェルのものと酷似している、そんな状態で変身すればどんな状態になってしまうか……っ!」


顔をしかませながら歯を食いしばり続ける。


「強大過ぎる力、今だって苦しかったろ?もし振るうのならそんな苦しみじゃ済まないぞ……?」


しかし快はある事を考え口に出した。


「……でもヤツと同等の力なら勝てるかもしれませんよね?」


その言葉に時止主任は震えた。


「何を言い出すんだ……?」


すると快は光を失ったような目で言った。


「もう俺はどうでも良いんです、愛里の事を考えなきゃ」


「何だって……?死ぬより苦しむ可能性があるぞ……?」


「言われたんですよ、自分の事しか考えてないって。じゃあ自分が苦しんででも愛里のために戦わなきゃ、その誠実な姿を示すんだ……っ!」


自分の事は後回しにしている事を無理やりにでも示すにはこれしかないと考えたのだ。

しかしその瞳は焦りや不安から光を完全に失っている、とてもヒーローのものとは思えなかった。


「自暴自棄にはなるな!もっと冷静に考えろ!」


そう言い返す時止主任だが快はもう聞く耳を持たない。


「そんな時間ありませんよ!!」


そう言われた時止主任は考える。

すると思い出してしまった、過去にもこのように自暴自棄になり破滅した者を。



『こんな世界は間違ってるんだ!!』



この時の時止主任はまだ若かった。

その例の女性は今の快と全く同じ様子だ。

彼は知っている、このような者がどんな末路を辿るのか。


「やっぱりダメだ、君のためにも俺は止める……っ」


そう言ってグレイスフィアの前に立ちはだかる。

快のためにも心を鬼にするのだ。


「だから俺のためじゃダメなんですって……っ」


時止主任を睨む快。

そのタイミングで研究室のドアが開いた。

現れたのは。


「あれ、喧嘩中かな?」


なんと新生長官だった。

時止主任は彼の登場を喜ぶ。


「良いところに!継一からも言ってくれ、今行かせる訳には行かないんだ……!」


すると新生長官は二人の顔を交互に見た後、何か思い出すような素振りを見せて言った。

その言葉は快に向けられたものだった。


「快くん、君に頼みがある」


「何ですか……?」


もったいぶった新生長官はニヤリと笑みを浮かべながら告げた。



「ゼノメサイアとしてヒーローになってくれ」



なんと出撃命令とも捉えられる発言だった。

その場にいた快と時止主任の二人は各々驚愕の反応を見せた。






つづく

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