#3
Connect ONE本部の休憩室で快はジッとテレビ画面を睨んでいた。
その瞳には焦りが浮かび全く澄んではいない。
手にはスマホを持っている、その画面には咲希のSNSメッセージが開かれていた。
『世間はConnect ONEの発表を待っています、アレは一体何なのでしょうか……⁈』
大天使ルシフェルを下から眺めるリポーターの声には恐怖の色が乗っている。
快はその画面に映る大天使ルシフェルの胸のコアを見つめていた。
そこへ会議を終えた瀬川がやって来る。
「快、作戦が決まった」
その表情はどこか申し訳なさそうだった。
何か良くない知らせでもあるかのように。
「あっ、瀬川……」
咲希のトーク画面を慌てて消し振り返る快。
今彼女の事を伝えても更なる混乱を招くだけだ。
なので作戦の話に乗った。
「行こう、愛里のヒーローにならなきゃ」
頭の中は愛里の事が大半を占めていた。
彼女からの愛を求めて立ち上がった。
「俺が英美さんみたいになるのが不安ならもっと凄さを見せて心配かけないようにしないと……っ」
そう言って不安定さを逆に見せてしまう快を瀬川は憐れんだ。
歯を食いしばってある想いをぶつける。
「こんなに辛そうなお前見るの久しぶりだ……」
「え……?」
「与方さんと付き合ってから良くなったと思ったのにまた……」
瀬川は快の様子をずっとそばで見てくれていた。
だからこそ誰よりも変化に気付きそれを憐れむのだ。
「っ……」
そんな親友の様子を見て心配を掛けているのは愛里だけではないという事に気付く快。
少し反省の様子を見せて瀬川にも伝えた。
「うん、だから救うんだ。お前にも心配させないように……」
そこまで言い掛けた時、休憩室のテレビの映像が切り替わった。
『Connect ONE長官の新生継一です、緊急会見をさせて頂きます』
画面には新生長官の姿が映し出された。
大天使ルシフェルへの対抗作戦を語るつもりだろう。
快と瀬川も画面に視線を移した。
『ヤツは観測史上最大規模のエネルギーを有しています、正面から挑んで勝てる相手ではありません』
ならばどう対抗するのかという疑問。
そこに対しても新生長官は答えた。
『分析した結果、胸にある水晶のようなコアから全身にエネルギーが供給されていると判明しました。総力を上げてそこを叩き破壊し供給を断てば弱体化すると判断しました』
それこそが作戦。
しかし快はある事に気付く。
「え、ちょっと待って……」
快が何に気付いたかを察した瀬川は暗い顔をした。
「コアを破壊って、そこに愛里がいるんだよ……」
当然そこは疑問に思うだろう。
しかしそれ以降も画面の新生長官からは当然そこに纏わる説明は無かった。
『では、我々を今一度信じて下さい』
そのまま会見は終わってしまう。
快の表情は更なる絶望に包まれてしまった。
「瀬川、これって……」
必死に親友へ救いを求める。
しかし彼は快の望む事は言ってくれなかった。
「あぁ、これが作戦だ」
彼も苦しそうな表情を浮かべている。
「じゃ、じゃあ愛里は……?」
「ごめん……」
「~~っ」
こんな事があって良いのだろうか。
愛里は救えないだと瀬川は言う。
しかし当の瀬川もそれを伝えるのは辛かった。
「そんなっ、俺は愛里を殺すなんて嫌だ……っ!」
必死に意見をぶつける。
瀬川の肩を掴み想いをぶちまけた。
「愛里が居なきゃ俺はダメだ、愛里がっ!」
最早語彙力も失ってしまい具体的な事など何も言えなかった。
「あぁ、だから……」
そして瀬川は更に非情な事を告げる。
「お前は作戦には参加させない」
その言葉で快の表情は更に曇ってしまった。
絶望を超える絶望に襲われたのはいつ以来だろうか。
『大天使ルシフェル、本部に向かっていますっ!』
そこで職員の声が響く。
敵がこの本部に向かって進行し出したのだ。
___________________________________________
Connect ONE本部に向かい進行し出した大天使ルシフェル。
相変わらず静けさの中に秘めた恐ろしさが周囲を凍り付かせていた。
『フォオオオン』
本部に近づくと防衛システムが起動する。
固定砲台が次々と地面から姿を現し大天使ルシフェルに照準を合わせた。
「本部に近付かせるなっ!」
本部防衛部隊の部隊長の合図により一斉に固定砲台の火蓋が切られる。
銃口から弾丸が溢れ出た。
「撃て撃て撃てぇ!」
気休め程度にしかならないのは分かっている、それでも少しでもTWELVEが準備を整えて到着するまでの時間を稼ぐのだ。
『…………』
爆炎に包まれる大天使ルシフェル。
煙で一度姿が見えなくなり撃つのが止まる。
「どうだ……っ?」
冷や汗を垂れ流し様子を伺う。
煙が晴れるのを待っていると。
『ピィイイイイッ!!!』
煙の中からレーザー光線が飛び出てきた。
一直線に伸びて行き固定砲台の列を一列破壊した。
「なっ⁈」
一撃で大部分が壊滅してしまい驚愕する。
『フォアンッ、ピャァアアアッ!」
そのまま目から大量のレーザー光線を放ち固定砲台を次々と破壊していく。
大爆発を起こし全滅した。
幸い無人の遠隔操作によるものだったので死者は出なかった。
「くっ、ここまでとは……っ」
話には聞いていたが実際相手にするまで大天使ルシフェルの現実離れした力を信じられなかった。
しかしたった今目の当たりにし絶望した。
本当にTWELVEは勝てるのだろうか。
「固定砲台全滅、TWELVEの出動を要請しますっ!」
そのようなアナウンスが館内全域に流れる。
出撃ゲートに集まったTWELVE隊員たちは瀬川を待っていた。
「む、来たか」
名倉隊長が反応した、瀬川が暗い顔をしながらやって来たのだ。
「すみません、お待たせしました……」
名倉隊長は快の心配をしていた。
「創 快はどうだ……?」
「新生さんが見ててくれるそうです」
快の身柄は今、新生長官と時止主任が見守っている。
勝手な行動をしないようにだ。
「そうか……」
すると瀬川のポケットから音が鳴る。
スマホに通知が入っているのだ。
「やべ、ちょっと持っててもらえます?」
出撃ゲートの前にいる職員にスマホを預けようとポケットから取り出す。
そして一瞬通知を見て表情を更に暗くした。
そこにはクラスメイト達からのメッセージの数々。
ゼノメサイアや大天使ルシフェルに関する質問ばかりだった。
「あ……」
そのタイミングで電話が。
クラスの委員長からだ。
「出ていいぞ、整備がまだ終わっていない」
名倉隊長の言葉を受けて応答する瀬川。
すると委員長の焦る声が聞こえた。
『出たっ、もしもし?今どうなってるんだ⁈』
現状の説明を求める委員長に伝える。
「これから出撃だよ、もうすぐ整備が終わる」
『そっか、気をつけろよ……』
そして委員長は更に疑問を抱いた事を聞く。
『なぁ、ゼノメサイアも一緒に出撃すんのか……?』
「っ……」
『組織が管理してるって本当なのか?本当に上手くやれるか……?』
ゼノメサイアと共に戦い勝てるかどうか心配している委員長。
まるで世間の声を一身に受けているようだった。
「アイツ、ゼノメサイアには……」
そして瀬川は本心を語る。
「これ以上戦って欲しくない……」
その言葉を聞いた委員長は意味を全く理解できなかったようで。
『それってどういう意味……』
そこまで言った所で瀬川は電話を切った。
そのまま職員にスマホを預ける。
「そろそろ整備も終わりますね、行きましょう」
そのまま出撃ゲートの奥へ進み準備を整えた。
「瀬川……」
名倉隊長を始めとした一同は心配した様子で背中を見つめた。
そんな瀬川の内心はこう思っていた。
「(もうこれ以上快に辛い思いはしてほしくない、与方さんを殺すなんて事……)」
その意思は固くも揺らいでいた。
「(恨むなら俺を恨め、罪は俺が背負う……っ!)」
そのような心で決戦に挑むのだった。
つづく
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