#2

大天使となったルシフェルは異様な静けさで周囲を凍り付かせていた。

ゼノメサイアもムルムルも動けない。

操る者が固まってしまっているから。


『フォォォオン……』


ただジッとこちらを見つめる大天使ルシフェルにゼノメサイアとしての体にまで鳥肌が立ってしまいそうなほどだった。


『(どうする、ただ事じゃない雰囲気だ……)』


ひたすら頭をフル回転させ必死に考える。

この明らかに異様な状況を打開する方法を導き出そうとしていた。


「ルシフェル、アンタねぇ……」


咲希に操られたムルムルは起き上がる。

そして一気に突っ込んで行った。


「愛里を使って何してんのさっ!!」


しかし大天使ルシフェルにはこんな一端の罪獣など取るに足らない相手だった。


『ピィィイイイイッ』


なんと七つある目から大量のレーザーを放ちムルムルの体を一瞬にして爆散させた。

これにより咲希は戦闘不能になってしまった。


『なっ⁈』


ゼノメサイアの中で快も衝撃を受ける。

とてつもない勢いの爆風が全身に伝わったのだ。


『ファンッ』


そして大天使ルシフェルは次にゼノメサイアを目掛けて五本ある角を触手のように伸ばして攻撃して来た。


『グッ……⁈』


何とか避ける事に成功するが立て続けに繰り出される角の攻撃に防戦一方だ。


『ピィィ……』


そして更に目からレーザーを放とうとする大天使ルシフェル。

このままでは絶対に避けられない。

そこへ味方が到着する。


「攻撃開始っ!!」


攻撃部隊TWELVEが一斉に大天使ルシフェル目掛けて射撃をする。

各機体はそれぞれ最高火力の攻撃を放っている、彼らも敵がこれまでの存在とは圧倒的に違うものだと察したのだろう。


「おぉぉぉっ……!!」


瀬川は快と愛里との間に何があったのかは分からない。

ただこの状況から二人にとって宜しくない事態である事は察知し全力で攻撃した。

しかしその一斉攻撃の努力も虚しい結果に。


『…………』


大天使ルシフェルには何も効いていないようだった。

というか全く攻撃が命中していない、全てヤツの周囲で起動が逸れて暴発してしまうのだ。


「何故だっ、何故当たらない⁈」


焦る名倉隊長。

そこへ新生長官から無線が入る。


『君たち、聞こえるかい?』


「新生さんっ⁈」


『最悪の事態だ、ヤツは神の域に達してしまった』


「どういう意味ですっ?」


新生長官が何を言っているのか分からない。

それはいつもの事だが今はとにかくそこ意味を知りたかった。


『神の域にいる者に現世の者が触れる事は出来ない、物理的に住む世界が違うんだ』


その新生長官の解説通りに蘭子の分析結果も普通では無かった。


「質量ゼロ、本当にここには居ないみたい……!」


しかしある異変に蘭子は気付く。


「でも胸の所、ゼノメサイアと同じっぽい水晶みたいな所だけ反応があるっ!」


その声を聞いた新生長官は何か閃いたような表情を浮かべ一同に指示を出した。


『みんな聞くんだ、ここは撤退しよう』


なんと撤退指示だった。

一同は流石に驚くが納得せざるを得ない。


『今の我々には何も出来ない、だがこのまま終わらせないっ!一度退いて作戦を練ろう!』


歯軋りまで無線を通じて聞こえて来た。

彼の悔しさも伝わって来る。


「くっ、了解っ!」


そして新生長官は瀬川に向けて個人的な指示を出した。


『抗矢、君はゼノメサイアに一緒に来るように伝えるんだ!』


「は、はいっ」


親友である彼に任せるのは英断だろう。


『か……いや、ゼノメサイア!一緒に行くぞ!』


スピーカーをオンにして伝える。

しかしゼノメサイアは狼狽えていた。


『グゥッ……』


愛里がまだそこに居るのだ。

このまま退くなど納得できない、快は愛里のヒーローになりたいのだから。


『おい、ゼノメサイア……?』


中々動き出さない親友に何か心的な要因を察する瀬川。

きっと何かあったに違いない、そう瞬間的に察したのだ。


『行くぞ、今無理するより後から確実にヒーローになろうぜっ!!』


その言葉でゼノメサイアはハッとする。

そして歯を食いしばるような素振りを見せながらTWELVEの機体と共に本部へ撤退したのだった。


___________________________________________


Connect ONE本部へ撤退した頃、ニュースは大天使ルシフェルの話題で持ちきりだった。

休憩室のテレビはどのチャンネルに切り替えてもその事ばかり、更にはネットでも同様だった。


《遂に終末の時か》


そのような見出しにより世界中が大天使ルシフェルに対しこれまでと違う絶望を覚えているような事を表していた。


「初めて罪獣とゼノメサイアが出て来た時と同じですね、慣れたと思った矢先にまた新たな脅威がやって来る……」


作戦会議室のモニターでニュース番組を見ていたTWELVE隊員と参謀たちがいる、しかし瀬川だけはその場には居ない。

そこで自衛官の田崎参謀が呟いていた。


「焦りは誰も同じようです、抗議の電話が鳴り止みません……」


応対室では電話が鳴り止まなかった。

主に大天使ルシフェルは何なのか、どうするのか、何故撤退したのかなどの話題だ。

その中で一定数ゼノメサイアと共に撤退した事にまつわる話もあった。



『何故撤退したんですか⁈』


『ゼノメサイアとはどう言った関係で⁈』


『手はあるのでしょうか⁈』


『隠さず市民にも公表して下さい!』



応対室の職員たちは鳴り止まぬ電話に焦りながらも同じ答えを繰り返し市民に伝えた。


「ただ今上層部が作戦を立案中ですのでご安心くださいっ!」


その様子は当然組織内全域に伝わっている。

会議室で作戦を考案しているTWELVEと参謀たちに全ては委ねられた。


「チッ……」


分析データを見せるためにパソコンを操作していた蘭子は別のページでSNSを開いていた。

そこに書かれてある市民の声を見て舌打ちをした。



『なんかConnect ONEも怪しくなって来たな』


『あんな組織に任せて良いのかね?普通に自衛隊じゃダメなん?技術提供だけしてさ』


『ゼノメサイアの事も知ってそうだしね、流石にもう信頼は出来ないよ』



見ている内にイライラが募り貧乏揺すりが出てしまう蘭子。

それもどんどん大きくなって行き竜司の自分を呼ぶ声も聞こえなかった。


「蘭子ちゃん、蘭子ちゃん!」


「ハッ……な、何……?」


ようやく気が付いた蘭子に竜司は心配そうな様子を見せた。


「大丈夫?新生さんがデータ見せて欲しいって言うから呼んでたんだけど……」


「あぁごめん、じゃあデータ転送します」


そう言って蘭子は分析データを会議室の大きなモニターに転送した。


「えっと、全体の質量はゼロだけど胸のコアみたいな所だけは存在してました」


そして更に詳しくコアについての分析結果も導き出す。


「そこからエネルギーが何処かに送られてる、途切れてるから分からないけど恐らく別世界に居るっていうヤツの本体に……」


自信なさげに言葉を連ねる蘭子に新生長官は優しく声を掛ける。


「そうだね、じゃあそのエネルギー源は何かな?」


「えっと……」


彼の優しい問いに蘭子は少しずつ冷静さを取り戻し細かいデータを見せていく。


「詳しくは分からないけど何か"人間みたいな"反応がそこから感じられます、それを介してエネルギーが伝えられてる感じ……」


確かにそのデータには人間のものらしき陰が映されていた。

それが何なのかは分からない。

そのタイミングで会議室の扉が開く。


「む、抗矢か」


瀬川の父である参謀が反応した通りこの場に居なかった瀬川が遅れてやって来たのだ。

彼には他にやる事があった。


「それでどうだったかな、ゼノメサイアこと快くんの言葉は?」


新生長官が問う。

そう、瀬川は今ゼノメサイアとして共にやって来た快に状況を聞いていたのだ。

大天使ルシフェルの事や直前まで協力しているように見えた罪獣の事など。


「はい、ちょっとかなり複雑で……」


話を聞いた時の快の様子を思い出しては苦い表情を浮かべたのだった。


「あのコアに居るのは快の恋人です」


その発言により一同は静まり返る。

今後の作戦の立て方にまで影響してしまいそうだから。






つづく

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