第23界 カミナリサマ
#1
怯えた振りをする咲希の手を引いて快の所から離れた愛里。
咲希……いや、彼女に憑依したルシフェルは感じていた。
愛里が持つグレイスフィアが黒く染まり負のオーラを帯びている事に。
「ごめんねさっちゃん……」
震える手、そして震える声で愛里は振り向かずに前を見たまま言った。
「何でさっちゃんがここに居るのか分からない、でも多分私のためでしょ……?」
全身の震えは徐々に強くなっていく。
「言ってたもんね、私達が上手くやってくれないと困るって。多分そのため……?」
するとその言葉を聞いた咲希は立ち止まる。
愛里も違和感を覚えて一度そちらを見た。
「さっちゃん、大丈夫なの……?」
咲希の表情は読み取れなかった。
しかし次の言葉で本性を表す事となる。
「上手くやるねぇ、その必要は無くなった。ってか最初から俺はそんなの望んでねぇのよ」
突然口調が変わった咲希の様子に愛里は驚く。
「え、何なの……」
すると咲希は突然ニヤリと笑って愛里に告げた。
「俺はお前らの崩壊を待ってた、最後の一押しをしてやっただけよ」
そう言った途端、咲希はバタンと倒れる。
代わりにその体から謎のオーラが出てきたのだ。
「さっちゃん⁈」
急いで咲希の体に駆け寄る愛里。
咲希は苦しそうに目を覚まし愛里の顔を見た。
「あ、愛里……っ」
そして二人とも浮かぶオーラの方を見つめる。
その中には罪獣のような姿をしたルシフェルが見えた。
「こ、これって……!」
愛里はトラウマがフラッシュバックしてしまう。
かつて純希とデートした際に襲われた存在。
それが今また自分の目の前に現れたのだ。
『ようやく俺の夢が叶う、よくやってくれたなぁゼノメサイアとその愛する存在!!』
そう強く言ったルシフェルのオーラは勢いよく愛里の体に憑依する。
「ぅぐっ……⁈」
突然ルシフェルの意識が入って来た愛里は苦しみの中で悶える。
「愛里っ、うっ⁈」
隣で咲希も対処しようとするが凄まじいオーラに弾き飛ばされてしまう。
『ググッ、まだとんでもねぇ抵抗力だな……』
ルシフェルは愛里に憑依する事に手こずっていた。
グレイスフィアが拒んでいるのである。
『だが!お前は罪に染まった、そこに漬け込んじまえばっ!!』
そしてルシフェルのオーラは愛里の耳元に顔を近付け何かを囁いた。
『……償えなかったな?』
「っ!!!」
そこで愛里の感情に流れて来たのは兄の存在。
兄を傷付けてしまった分、快を救う事でその罪を償おうとしていた事を思い出した。
「あっ、あぁぁぁぁっ……!!」
すると罪が具現化しグレイスフィアすら包み込む。
『キタキタぁっ!!』
その罪にルシフェルは入り込み完全にグレイスフィアを支配したのであった。
「ヒヒヒヒ……」
そして愛里の体を手に入れたルシフェル。
同時に罪に染まり黒澄んだグレイスフィアの依代ともなった。
「この力ぁ、存分に振るわせてもらうぜぇ!」
そして愛里の体を使い巨大化。
ルシフェル・シナーとなり君臨したのであった。
『グギャアォォォッ!!!』
咆哮が轟く。
それは快も察知していた。
『俺は神に成るっ!!!』
夢を高々に宣言するルシフェルは絶望を象徴しているかのようであった。
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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
第23界 カミナリサマ
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愛里を追いかけたが拒絶され呆然としていた快は人型となったルシフェル・シナーを見つけて衝撃を受けた。
「アレは……っ⁈」
ルシフェルの胸にはゼノメサイアと同じようなグレイスフィアがついている。
しかし快や愛里の今の状態と同じように黒澄んでいる。
「そんな事、あるのか……⁈」
快の脳裏には最悪な予測が浮かんでしまう。
ルシフェルは愛里を取り込みこのようになったのではないかと。
「ッ……!!」
黒澄んでもなおグレイスフィアはオーラを放つ。
それを強く握り締め快はゼノメサイアに変身した。
『ゼェェアァッ!!!』
確かめるためにも戦うためにも変身する事はベストだろう。
とにかく今は溢れ出る複雑過ぎる気持ちを発散したかった。
『オォッ……』
勢いよく地面に着地しルシフェルに存在をアピールする。
何よりも早く疑念を晴らすために。
『来やがったな』
当然こちらに気付き振り返るルシフェル。
挑発するように自らの胸部に宿る愛里のグレイスフィアを見せつけた。
『見やがれ、お陰様で真っ黒だぁ!』
そして咲希の得た記憶を頼りに更に快を煽る。
『愛里ちゃん助けられなかったなぁ、ヒーローになれなかったなぁ⁈』
今の快が最も嫌がるであろう言葉を連発する。
当然快も激昂してしまった。
『ウガァァァァッ……!!!』
怒りを露わにし突っ込んでいくゼノメサイア。
今のルシフェルの発言により愛里がそこにいるのが分かった。
『返せっ!愛里をッ……!!』
胸部のグレイスフィアをもぎ取ろうと攻撃していくが避けられてしまう。
『おいおい良いのかまたそんなこと言って?俺のモノとか言うから愛里ちゃんに拒絶されたのによぉ!』
『何でその事……っ⁈』
理解できていない快を更に煽っていくルシフェル。
ゼノメサイアの首を掴み真実を明かそうとした。
そこへ新たな存在が。
「行ってムルムル!」
まるで鳥と人間が融合したかのような罪獣がルシフェルに向かって突っ込んで来た。
ゼノメサイアの首を掴んでいたルシフェルは思わず放してしまう。
『チッ、あの野郎!』
罪獣がルシフェルを攻撃した事に驚く快。
彼らはずっと仲間だと思っていたから。
「ギュオオオォォッ!!!」
その翼を広げ吠えるムルムル。
『咲希ぃ、邪魔すんじゃねぇ!』
ルシフェルの声がテレパシーで快にも伝わって来る。
その言葉に驚愕した。
『え、咲希だって……?』
その名は愛里の友人であり先程言い争いになった人物のものだ。
しかしよくある名前なのでまだ確信は持てない。
それでもこのタイミングでこの名が出れば疑うのは当然の事。
「ギュウルルル……」
ムルムルはゼノメサイアを見る。
そしてルシフェルと同じようにテレパシーを使った。
『早く立って、ヤツを止めるのっ』
その声を聞いて快の疑念は確信に変わる。
『え、本当に河島さん……?』
かなりショックだった、快と愛里を別れさせようとしたのも彼女の采配なのでは?
罪獣を使った目的のために利用されたと考えると途端に苦しみが増す。
『気持ちは分かる、でも言っとくけどさっきのあれアタシじゃないからね』
『は……?』
『アイツが憑依してたの、もうヤツとは相容れない……っ!』
そう言ってルシフェルに突っ込んでいくムルムル。
どうやら咲希によって操作されているらしい。
「ギュゴォォォ!」
取っ組み合いになりながら互いの想いをぶつける。
『こんな事に愛里を利用させないッ!』
『逆に言うがお前はコイツの価値を分かってねぇ!だから俺に負けるのさ!!』
そしてムルムルを突き飛ばすルシフェル。
その様子を快は感情をグチャグチャにしながら眺めていた。
『(コイツらみんな愛里を、俺を利用して……)』
絶望が快を襲う。
自分はただ愛里のヒーローになって愛されたかっただけなのに。
『ッ……!!!』
そしてルシフェルや咲希へ向けた怒りを露わにし突っ込んでいった。
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怒りの咆哮を上げるゼノメサイア。
胸のグレイスフィアは黒澄んだエネルギーを放出している。
『デアァァァ……ッ!!!』
睨み合うルシフェルとムルムルに対し両手でラリアットを決める。
そのまま勢いよく両者を吹き飛ばした。
『グッ……⁈』
『ちょ、何すんのアンタっ⁈』
両者は負のオーラを放つゼノメサイアを見て恐れを抱く。
その凄まじいエネルギーに圧倒されてしまった。
『これだゼノメサイアぁ、予想以上にやべぇな』
ルシフェルはまるでゼノメサイアがこうなる事を望んでいたかのような反応を見せる。
そして立ち上がり正面からぶつかり合った。
『ギャーーーハッハ!』
お互いに拳をぶつけ合い泥臭い戦闘を繰り広げる。
ゼノメサイアも周囲への被害など既に気にしている様子はなかった。
『ングァアアアッ……!!』
そして思い切りルシフェルの顔面を地面に叩きつける。
そのまま愛里が居ると思われる胸部のグレイスフィアへ手を伸ばした。
『ヒヒヒッ……』
それでも尚、笑みを見せるルシフェル。
ゼノメサイアは奇妙に思った。
『良いねぇその力、俺に寄越せや』
その言葉を聞いた快は負け惜しみだと解釈し告げた。
『逆だ、愛里を寄越せ』
そう言ってグレイスフィアに手を伸ばす。
するとルシフェルは小さく呟いた。
『バーカ、それが寄越すってんだよ』
そう言われた途端ゼノメサイアの体に凄まじいエネルギーが走る。
まるでルシフェルの持つエネルギーと同化したような感覚だった。
『グアァァァ……ッ!!!』
黒澄んだエネルギーがルシフェルに吸収されていく。
厳密には愛里のいるグレイスフィアにだ。
『ヒャハハッ!どうだ愛里ちゃんに拒絶された気分はぁ⁈』
『な、何……?』
『あの子がお前を拒絶した、だから入り込めねぇ!共鳴したエネルギーだけが化合しやがったんだ!!』
そしてルシフェルは更に凄まじいオーラを放ちゼノメサイアを吹き飛ばした。
勢いよく立ち上がり声高々に笑う。
『今この力の権限は俺にある!ようやくだ、神に成る時が来たぁ!』
そのままエネルギーを開放しルシフェルは真の姿を露わにした。
グレイスフィアの色も黒澄んだ色から変わりしっかりとした蒼に変わる。
彼に権限が移った証だ。
『そんな……っ』
咲希も絶望している。
彼女も絶対に避けたかった事態なのだろう。
そのままルシフェルは姿を変えてかつての力を取り戻した。
『オオオォォォォ……』
やせ細った男性のような体型に以上に大きな頭部が付いている。
角が五本、目は七つあり異様な空気を放っていた。
腕は四本あり背中には巨大な翼が。
そして極めつけは頭部の上に付いた天使のような輪だろう。
まさに彼が以前言っていた“天使”のような風貌だった。
『天使……⁈』
これまでの彼からは想像も出来ない程の静けさが恐怖を煽った。
『フォオオオン……』
大天使ルシフェル、降臨。
つづく
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