#2

絶望的な景色を見ながら快はある事を思い出した。

自分にとって何よりも大切な事である。


「あの、愛里は……?愛里はどうなったんですか⁈」


縋るように新生長官にしがみ付き問う。


「俺は愛里を救おうとしただけなんですっ、こんな事になるなんて全く……!」


快にとって愛里を救おうとした結果がコレだ。

ならばそれを達成できていないのなら何のためにこれが起きたのだろう。

とにかく愛里の無事を祈った。


「愛里さんはね……」


すると新生長官はまた着いて来るように促す。

真相を確かめるため快も着いて行く事を決意した。

連れて来られたのは快が居た所とは別の病室。

嫌な予感がした。

その扉を新生長官は開ける、そこに居たのは。


「ひっ、やめて来ないでっ!!」


扉の隙間から僅かに見える。

確かに愛里の姿だが激しく何かに怯えている。

周りでは医師や複数の看護師が必死に介抱していた。


「大丈夫、もう大丈夫ですからっ!」


酷く震えて怯える愛里に医師は無理やり鎮静剤のようなものを飲ませた。

すると彼女は倒れるように眠ってしまう。


「え、愛里……?」


そんな彼女の様子に快は絶句してしまう。

まるで鬱やパニック障害を患っているようだ、当事者である自分だからよく分かる。


「彼女は精神疾患を患ってしまった、覚醒した君との一体化が大きな負荷になったんだろう」


「そんな……」


「"ひとつに繋がる"……神の力に耐えるにはまだ弱過ぎるか……」


新生長官は何やら独り言を呟いているが快にとってはそれどころでは無かった。


「俺が愛里を……」


自分のせいで愛里が精神疾患を患ってしまったというのなら辛過ぎる。

かつて自分が苦しんだ辛さを他人に与えてしまったのだ。

同じ苦しみを与えてしまった。


「君は病室に戻りなさい、帰らせる事は出来ないけど人と会わせるのもね……」


「はい……」


「じゃあ私は長官としての仕事があるから失礼するよ」


そのまま新生長官と別れ快は自分の目覚めた病室に戻った。


___________________________________________


本部の研究室では瀬川を始めとしたTWELVE隊員と時止主任が話していた。

モニターには何らかのデータが映されている。

その表示からゼノメサイア覚醒のデータである事が分かった。


「あまりにも謎が多過ぎる。覚醒したゼノメサイアに共鳴するように現れた二本の剣、そして上空に浮かぶもう一つの地球のような存在……」


時止主任は更にデータの細かい所を見せて行く。


「これら全てに生命の流れ、ライフ・シュトロームが確認された」


ゼノメサイアの力が想像以上である事に少し恐れを抱き何も言えないTWELVE隊員たち。


「……ゴッド・オービスの性質、詳しく覚えてる?」


「えっと確か……俺たちのライフ・シュトロームを機体のと繋げて更に各機体のをまた一つに繋げる?」


「その通り、物質と生命の融合。これはライフ・シュトローム本来の性質を応用し簡易化したものなんだ」


その発言に一瞬理解が遅れるが蘭子が反応した。


「え、だとしたら生命は元々一つになる性質を持ってるって事……?」


その問いに時止主任も答える。


「なぜ君達は生まれたと思う?両親が交わりを持ち君達という存在が誕生した。つまり両親のライフ・シュトロームが一体化した存在が君達なんだよ」


「うげ、親のそんな話聞きたくない……」


すると名倉隊長がある事に気付いたのか更なる疑問を問い掛ける。


「む、だとしたら男女の違いにも何か関係があるのですか?子供は男女の交わりでしか生まれない……」


時止主任は手を叩いて名倉隊長の疑問を褒めた。


「大正解!ライフ・シュトロームにも二種類あってな、男女のものに分かれてるんだよ」


そしてゴッド・オービスの合体の真意も伝える。


「ホラ、ゴッド・オービスも男が乗る四機を紅一点の蘭子が乗るキャリー・マザーが包む形で合体するだろ?各四機との繋がりをキャリー・マザーが担ってるんだな」


その真実を聞いた蘭子は一気に顔面が青白くなってしまう。


「そんな複数の男と関係持ってるアバズレみたいな役割だったの⁈ホンッット最悪……」


肩を落とす蘭子に説明する時止主任。


「そんな事はないよ、戦士たちを包み込む聖母のような存在だと考えてくれ」


「それはそれで変な気分……」


彼らがそんなやり取りをしている間、瀬川はずっと黙り込んでいた。

何かを考えているようである。


「瀬川くん、大丈夫……?」


陽が心配して声を掛けるが態度は変わらなかった。


「ちょっと快が心配で……」


ずっと親友である快の事を考えているのだ。

その言葉に同じく親友を想っている陽も共感した。


「アイツ目覚めたら最悪な気分だろうな、ヒーローになろうとすればするほど辛い事になる……」


今回の事で職員たちの中にはゼノメサイアに否定的な意見を持つ者が増えた。

つまり快が目覚めたらバッシングの嵐だろう。


「頑張れば頑張るほど報われない、もう無理しないで欲しいんです……」


気分が落ち込み頭を抱える瀬川。

すると時止主任の言葉が耳に入る。


「え、快くんが目覚めた?」


その声を聞き瀬川は一瞬で顔を上げる。


「本当なんだな継一?……あっ、瀬川くん!」


確認が取れる前に瀬川はすぐさま立ち上がり目覚めた親友の所へ向かったのだ。


___________________________________________


快は病室のベッドの上で一人悩んでいた。

頭の中は様々な思考で溢れている。


「(愛里を傷付けてしまった……)」


先程の愛里の精神疾患の件。


「(世界すら壊しかけた……)」


崩壊しかけた世界に嘆き怒る職員たち。


「(そして河島さんも……)」


まだ誰にも話せていない、咲希が罪獣を操っていた件など。


「あぁっ……はぁ、はぁ」


頭がパンクしてしまい心臓の鼓動も速くなっている。

またパニック発作が起ころうとしていた。

すると病室の扉が開く。


「快っ、大丈夫か⁈」


入って来たのは瀬川だった。

息を切らし心配していたのが伝わる。


「ぁ、瀬川……」


正直快は顔を合わせづらかった。

瀬川は止めていたというのに無理に出撃した結果がコレだ。


「良かった、このままお前が戻って来れないと思っちまって……」


「……」


快は黙ったままだが表情は悲しそうだった。

怒ると思っていた瀬川がこんな結果になっても優しい対応をしてくれる事に胸が痛んだのである。


「体は何ともないんだろ?」


「うん……」


ようやく返事をした快。

意思疎通がしっかり出来る事を確認した瀬川は少し安心する。


「……何て言えば良いのか」


しかし快の身を案じ何か言おうとするも今の快には何の慰めにもならないと思い少し口籠る。


「お前は頑張ったよ、与方さん助けたかったんだろ……?」


そのような言葉を口にし快の心の救いになろうとするが快には届かなかった。


「でもダメだった、結果が伴ってない……」


そして快は瀬川の顔を見て問う。

その瞳には以前と近い焦りが浮かんでいた。


「なぁ、何とかして巻き返す方法ないかな?このピンチを救えば今度こそヒーローになってっ、愛里だけじゃない皆んなにも……!」


快はまだ諦められないようだ。

しかし瀬川は違う。

今の快がとても苦しそうに見えた。


「……お前、苦しそうだよ」


「え……」


「愛に満たされて幸せになるために頑張ってんだろ?でもこんな辛い結果じゃ……」


「瀬川……」


そして瀬川は歯軋りをする。

とうとう快に本心を打ち明けたのだ。


「もうやめてくれ……」


震えた声で決定的な一言を告げる。



「これ以上辛い思いするくらいならヒーローやめてくれ……っ!」



瀬川の本心を聞いた快は言葉を失ってしまう。

そしてしばらく黙った後、快は瀬川にかつての言葉の意味を聞いた。


「でもお前、俺がヒーローになるのを支えるって言ってたじゃん……っ」


「そうだよ、でもそれはお前が愛されるためで苦しむためじゃない……」


今の快は職員たちに憎まれ、恐らく世界からも恐れられているだろう。

そんな事を望んでいた訳ではない。


「頑張るほど嫌われて、これ以上悪化しないで欲しいんだ……っ!」


快と瀬川、お互いの表情は絶望に染まっている。


「何だよソレ……っ」


震えた声で快は反論する。


「今でも十分辛いんだ、良くするしかないだろっ!」


「違う、もうキツいんだよ……」


瀬川の精神には限界が来ていた。

もう快と顔を合わせる事すら辛い。


「ごめん、俺行くわ……」


そのまま瀬川は立ち上がり病室を重たい背中で去って行った。

取り残された快は一人悩む。


「……クソッ!」


枕を思い切り殴り、行き場のない不安を何とか散らそうとしたがそんな事は無駄だった。

苦しい思いだけが真っ白い部屋の中で加速していくのだ。






つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る