#3
愛里のスマホに着信が入った、相手は快。
彼女にとっては恋人でありこの世界にとっては救世主として力を得たヒーローになるべき存在である。
「もしもし……?」
愛里は少し憂鬱そうに応答する。
その理由は明白だった。
『あ、愛里……?ちょっと相談があって』
明らかに気分が落ちている愛里に対してどこか無理にも明るくしようとしている快に呆れてしまった。
「何か良いことあった……?」
『え……?』
「そっちだけ声が明るくなったね、私は辛いままなのに」
少し皮肉とも捉えられる言い方をした愛里に快は一瞬戸惑うがそれは彼女を傷つけてしまった自分のせいだと飲み込み話を聞いた。
『ごめん……』
「勝手に何か解決されてもこっちは着いていけないよ、また私の嫌がる事するの……?」
大切な存在だからこそ戦って傷ついて欲しくない。
しかし彼はそれを聞いてくれないためすれ違いが起こる。
『嫌がる事するつもりなんて無いよ、俺だって君のこと考えてるのに……』
「でも結局自分が優先でしょ?どうしても私たちって合わないのかな……?」
そのような発言をした愛里に対して快は少し焦ってしまう。
『そんな事言うなよっ、俺は今まで君を想って……っ!』
一度言葉を詰まらせてしまうが少し冷静になってからもう一度想いを伝えようとする。
『君じゃなきゃダメなんだ、君が応援してくれなきゃ俺……』
脳裏に浮かぶのは愛里が初めて快の夢を応援すると言った夕暮れのベンチでの会話。
その出来事があったからこそ快は今まで立ち上がり戦う事が出来た。
ここに来てそれを失うのはあまりに辛すぎる。
「でも私、これ以上大切なヒーローが傷付くのを見たくない……」
一方で愛里も意思を譲らなかった。
「このあいだ手を離されて本当に怖かった、また英美ちゃんみたいになるんじゃないかって……」
バシンとの闘いで快は行かせまいと止めた愛里の手を無理やり離した。
「生きてるって連絡来るまで気が気じゃなかった、もう心が持たない……っ」
こんな話をするつもりでは無かった。
元々は愛里にとある提案をするために電話をした。
「ねぇ、こんな話するために電話したの……?」
そう言ってさっさと切ろうとする愛里。
その様子を察したのか快は少し焦った。
『違っ、本当は話したい事があって……』
「なに……?」
明らかに不機嫌そうな愛里は一応聞いてみる。
快も深呼吸して伝えた。
『さっき知ったよ、俺たち誕生日同じだったんだね……』
何かと思えば突然誕生日の話をしてきた快。
「そうなんだ、だから何……?」
まだ真意の読めない愛里は聞き返す。
『あの、もし良かったら俺に祝わせて欲しいんだ。今年は自分じゃなくて君を祝う、そうやって少しでも歩み寄って行きたい……っ!』
「…………」
少し愛里は悩む。
そして快にこう問うのだ。
「それでもう戦わない……?」
そのように言われてしまい快は答える事が出来ない。
なのでこう答えた。
『……その日までに答えを出すよ』
何とも歯切れの悪い答えだった。
しかし愛里はこれ以上波風を立たせぬよう話を終わらせる事にした。
「じゃあ、誕生日に」
そう言って厳しい顔のまま電話を切った。
・
・
・
電話を切られた快は隣で聞いていた瀬川と目を合わせる。
「……難しいな」
しっかり話の内容まで理解していた瀬川もそのような事を言う。
そして当然だが快も悩んでいた。
「そう簡単にヒーロー辞めれんのか?ってか組織も許さねぇと思うぞ」
厳しい現実の言葉を投げかけられ頭を抱えてしまった。
「あぁ、余計に分からなくなっちゃった……」
それでも無理やりに顔を上げる。
「でもこれしか今できる歩み寄るチャンスは思いつかない、無理にでも頑張らないと……」
必死に失った愛を求め身を削る快の姿を見た瀬川。
その様子から愛里の気持ちが少し分かった気がした。
「(こりゃあ心配にもなるわな……)」
冷静さを失いいち早く解決を求めるため焦りなど精神的負担が半端じゃないのだ。
こんなのが恋人でヒーローだというのなら傍にいる者は誰だって心配するだろう。
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一方で愛里は電話を切った後、自室で拳を握り締め震えていた。
快との関係が上手く行かず苦しいのである。
すると自室の扉の向こうから声がする。
「何の話してたの?」
「っ⁈」
扉の向こうから聞こえたのは親友である咲希の声。
「さっちゃん、何でいるの……?」
「普通に玄関から入ったよ、ご両親が入れてくれた」
快との電話を聞かれてしまっただろうか、だとしたらゼノメサイアの正体など秘密がバレてしまうかも知れない。
「最近さ、創と上手く行ってないっぽいから心配で来た」
至って冷静に答える咲希に愛里は少し緊張しながら扉を開ける。
そして久々に自室に咲希を招いたのだ。
「入って……」
案内されると咲希はすぐに慣れたようにベッドの上に座る。
そして足を組みながら愛里にある質問をした。
「もしかしてアレ?創に無理してヒーローになって欲しくないんだ?」
「え、何で……」
図星を当てられ言葉を失ってしまう愛里。
しかし咲希は答えられて当然の人物だ。
「いやさ、アンタの様子が今までに無いくらい落ち込んでるからただ事じゃないと思ったんだよね」
咲希はでっち上げた理由を語り始める。
「なら創のヒーローに対する意気込み関連かなって思ってさ」
何でもお見通しなんだと愛里は見事に騙され咲希に真実がバレない程度に気持ちを伝える。
「……そうなの、快くん最近ヒーローになる事に焦ってる感じがして英美ちゃんみたいになっちゃうんじゃないかって思って……」
「なるほどね」
そして咲希は電話で話していた内容について尋ねる。
「それで本心を伝えた結果、喧嘩になったと」
「うん……」
愛里は快に言われた事を咲希にそのまま伝える。
「やっぱりヒーローになりたいって。しかも私にそれを応援して欲しいって言うんだよ……?心から応援できる状態じゃないって分かってるのに……」
その話を聞いた咲希は少し考えるような素振りを見せる。
そして一呼吸置いた後言った。
「お互い様な気もするけどね」
「え」
「だってそうでしょ?今のだって創の都合だしそれを嫌がる理由も愛里の都合。お互い自分の都合を押し付けてる感じがする」
「うぅ……」
図星を突かれた愛里は何も言い返せない。
「創とは一緒に居たいんでしょ?」
「もちろん……っ!」
「なら相手の事も考慮した上で話し合わないと。今のアンタらは都合いい相手として認識し合ってるようにしか見えないよ」
「っ……」
そして愛里は快に誘われた事を思い出す。
「私、快くんに誕生日祝うの誘われた……」
「ふーん」
「そこで歩み寄りたいって言ってた、じゃあ私もそうするべきかな……?」
少し重たい顔を上げて咲希の方を見た。
すると彼女も普通に答える。
「向こうがそう言ったならそうすべきなんじゃない?」
こうして愛里は快に誘われたように誕生日を祝う会に参加する事を決める。
「うん、私行くよ」
そしてもう一つ疑問に思った事がある。
「何でさっちゃん私たちのこと気にしてくれるの……?前まで快くんの事あんま良く思ってなかったのに」
何故以前まで快を煙たがっていた咲希が今になって二人の仲を気にするようになったのだろうか。
「……アンタらが上手くやってくれないとアタシに都合悪いからね」
愛里が首から下げた黒ずんだグレイスフィアを見つめながら呟く咲希。
その真意は愛里には分からなかった。
「……?」
しかし今は快との関係だ。
その疑問は頭の片隅に置いておき快のために色々考える事にした。
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ある路地裏では。
「ヒヒヒ、動き出したぜ……もうすぐだ」
ゼノメサイアに一度勝利し夢に近付いたルシフェルが何かを待っていた。
「ようやく出し抜けた、俺が圧倒的に有利だなぁ」
そう言いながら路地裏を抜ける。
するとそこには見覚えのある家があった。
そこから何者かが出て来る。
「じゃ、上手くやるんだよ」
その人物とは咲希だった。
家の表札には"与方"と書いてある。
今まさに愛里と話を終えて出て来た咲希をルシフェルは見つめているのだ。
「ん……?」
そして気が付いた頃には遅かった。
「がはっ……⁈」
咲希の精神を何かが蝕んだのである。
突如として心に何者かが入り込んで来た。
「まさかコレ……っ⁈」
咲希はすぐにその正体が分かった。
しかしもう精神と肉体は完全に乗っ取られてしまった。
「…………」
そのまま一度静かになり顔を上げる。
その表情は不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒヒヒ……」
なんとルシフェルは咲希に憑依してしまったのだ。
その目的は如何に。
つづく
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