#2
快は瀬川が運転するバイクの後ろの席に乗り風を感じながら自分の罪について考えていた。
先程の夢で愛里の幻影から言われた事である。
「なぁ、本当に体は大丈夫なのか?」
すると心配そうな声で瀬川が訪ねる。
あんなに派手にやられたと言うのに体の方にダメージは見られない快が不思議だった。
「うん、体はね……」
意味深に答える快。
その意味を瀬川はすぐに察した。
「心か……」
「うん……」
快は夢での事やそれ以前での愛里とのやり取りが心に引っかかっているのだと理解し瀬川にもそれを伝える。
「愛里にヒーロー辞めてほしいって言われたんだ、危険を冒して死んでほしくないって」
「あぁ……」
瀬川も愛里ならそう言いかねないと察する。
彼女が罪獣により親友を亡くしているのは有名な話だから。
その罪獣と戦う快を心配するのは当然だろう。
「それでもヒーローになるってずっと思って来たからさ、戦ったら負けて夢の中で愛里に言われたんだ。“自分の事しか考えてない”って……」
その言葉には瀬川は反応出来なかった。
「でもお互い様だって思ってさ、向こうも俺の気持ち考えずに辞めてなんて言うしっ……」
そのまま快は更に落ち込むような様子を見せた。
改めて思い返してみて辛くなったのだ。
「どうすれば良いんだこれから……」
そんな弱弱しい快の声を聞いて瀬川は考える。
「確かに与方さんの応援が力の源だったもんな、このまま弱られるのもこっちとしては都合が悪い」
そしてある提案をしてみた。
いちかばちかだったが今の瀬川に思いつく快を元気づける方法はこれしかなかった。
「もうすぐクリスマスだろ?若者支援センターでクリスマス会やるみたいなんだ、行かないか?」
以前釣り堀バーベキューを開催した施設だ。
快はイベント以外であまり利用しないため存在自体が思いつかなかった。
「でも俺そこで馴染めないし……」
以前も馴染めずにいたため快はそこへ行かなくなった。
それなのに行かなくてはならないと言うのだろうか。
「安心しろ、お前が主役だから」
「え……?」
そこで瀬川はある考えを快に提示した。
「クリスマスってお前の誕生日だろ?だからお前の早めの誕生日会も兼ねてやるからさ!」
そこまで言われたら断る事が出来ない。
自分の誕生日を祝ってくれる人を無下にするわけにはいかない。
「……うん、行くよ」
「よっしゃ、じゃあ日時だけどな」
こうして快はもうすぐやってくるクリスマスを早めに祝うための若者支援センターで行われるイベントへ行く事を決めた。
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そしてクリスマス会の当日。
快は一人でセンターへ行くのがまだ不安だったため最寄りの駅で瀬川と待ち合わせをして向かった。
到着し扉の前で一呼吸置く。
「よし……こんにちは」
扉を開け中へ入ると一生懸命飾りつけをしたであろう光景が広がった。
快の顔を見るなり驚くセンターのスタッフ。
「あら快くん!久しぶり~!」
しかしすぐに驚きから喜びに表情を変え快を歓迎する。
誰でも歓迎してくれるのがこのセンターのいい所だ。
「瀬川くんもいらっしゃい」
軽く挨拶を済ませると瀬川がスタッフに思惑を説明する。
「どうも、クリスマスと言ったら快の誕生日なんで連れてきました!」
それを聞き快は少し恥ずかしくなるがスタッフは喜んでくれた。
「あらそうだったわね、おめでとう~!」
それに対し快は少し顔を赤くしながら言った。
「いえっ、まだ当日じゃないので……っ」
しかしスタッフの姿勢は変わらない。
あくまで快を祝福するつもりだ。
「今日はクリスマスを祝う日よ?その日にある事は何でも祝わなきゃ!」
そう言ってもらえて少しだけ緊張が解ける快だった。
しかしまだ心配はある。
「(でも他の利用者と上手くやれるかな?)」
スタッフとは違い他の利用者たちは瀬川を強く慕っている。
彼ばかりが注目されて自分は蚊帳の外になってしまわないかがまだ不安だった。
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快の嫌な予感は的中してしまい二人が靴を脱ぎ中へ入った途端に殆どの利用者が人気者の瀬川を囲んだ。
「こーちゃん来た!」
「ねぇねぇこれ見て!!」
瀬川の腕を引っ張り一生懸命に作ったであろう飾りつけを見せる。
「みんなで頑張ったんだ!」
まだ年下の利用者が胸を張り自慢している。
「すげぇな、やるじゃん!」
瀬川もそう言って彼の頭を撫でた。
やはり殆どの人は瀬川に注目し快は蚊帳の外になってしまった。
「っ……やっぱり」
一人で悲しそうな顔をしているとスタッフに声をかけられる。
「最近の調子はどう?」
表情を見て気持ちを察したのか優しく喋ってくれた。
「……あんま良くないです」
「やっぱりね」
快と共に瀬川を囲む他の利用者たちを見るスタッフ。
そして快にこう告げた。
「あの子たち純粋だから嬉しいと素直に喜んじゃうのよねぇ」
「瀬川は凄いやつだから……」
「確かにそうかも知れないけど快くんの事もきっと喜んでくれるよ?」
「え……?」
何を言っているのか分からずにいると施設の奥から驚くような声が聞こえた。
「あぁーーーっ!!」
思わず快も驚いてしまいそちらを見るとそこには見覚えのある顔が。
「あ、良……?」
スケッチブックを片手に快を指さしている彼は以前の釣り堀バーベキューの際に快が助けた良だった。
あの時以来の再会である。
「あの人!ヒーロー!」
慌てながら良は快の事をヒーローと呼んだ。
その姿に瀬川に注目していた一同も快を見る。
「ヒーローだって……?」
驚く快にスタッフが伝える。
「快くんが拾ってくれたって伝えたの」
「え、何を……」
すると良が快に一枚の紙を差し出す。
「これ!」
それは良が描いたと思わしきクレヨンで描かれた絵だった。
しかしその紙は一度水に濡れたかのようにふやけている。
「あ、これは……!」
そこで快は気付いた。
この絵は川に捨てられた良のスケッチブックで快が下流で見つけ勇気づけられたものだった。
分かりやすいように拾ってスタッフに渡しておいたのだ。
「これ拾ってくれた!」
その絵は拾った当時は書きかけの快の姿があったが今見るとその快の姿は完成されておりオマケにヒーローのようなマントを身に着けている。
「良……っ!」
その様子を見ていた一同は快の偉業を思い出す。
「あの時すごかったなぁ」
「池に飛び込んだの覚えてるよ!」
瀬川から一転、注目は快に集まる。
「お前ら、クリスマスはこのヒーローの誕生日でもあるんだぜ!」
そして瀬川がタイミングを計って口を開いた。
「えーマジで⁈」
「おめでとう!」
こんなに多くの笑顔を向けられたのはいつ以来だろうか。
驚きのあまり上手く反応が出来ない。
「え、えっと……」
すると瀬川が近づき快に伝える。
「みんな歩み寄ってるぜ、お前はどうする?」
そう言われて自分が今どうすべきなのか分かった。
「うん……」
そして精一杯の気持ちで応える。
「ありがとう……っ!」
感謝の気持ちを伝えたのだった。
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その後少し経つと盛り上がりは落ち着き快は良と二人で居た。
彼が絵を描くのを横で見守っていたのである。
「これは?」
「ゼノメサイア!!」
クレヨンを使い一生懸命に快のヒーローとして変身した姿を描いている。
以前助けられて以来慕っているようだ。
「ねーどうなちゃったのー?」
「何が?」
「最近ゼノメサイア元気ない、大丈夫かなー?」
こんな純粋な少年に心配をかけてしまっている事に気づき少し罪悪感が募る。
「何でだろう、上手くいかないのかな……」
「それじゃわかんない!」
本人だからこそ上手く答えてやれずに良は前のめりになり快に更に問う。
「ねぇなんでー?」
するとそこに瀬川が現れ良に伝えた。
「ゼノメサイアはな、みんなの応援を力にするんだ」
「僕は応援してるよ?」
「あぁ、それにはきっと感謝してくれてると思うぜ?でも他の沢山の人はまだアイツがヒーローだって分かってないんだ」
良の肩を叩いて胸を張ってみせる瀬川。
「ゼノメサイアがヒーローだって伝えるのが俺の仕事なんだ!」
「すごーい!」
「お前はそのまま応援し続けてくれ、いつかみんなもそれに続いてくれる!」
「うん!」
やはり瀬川は凄い。
快に説明できない事を完璧にやってしまった。
「早く元気になるといいなー、ゼノメサイア!」
その声を聞いて快は決意を固める。
「瀬川、やっぱ俺に出来る事はこれだ」
自分がすべき事をしっかりと理解した。
「ヒーローとして戦う。力に選ばれたからにはやらなきゃいけないんだ」
その快の言葉に頷く瀬川。
良は何かを察したような表情を浮かべた。
「あ、内緒な」
そう言って口に人差し指を当てて良との秘密を作る快。
良は力強く頷いた。
「そんで与方さんとの関係はどうすんだ?やっぱ彼女にも応援して欲しいだろ?」
「うん、せっかく愛の兆しを見せてくれた人だ。彼女には分かってもらいたい」
そして決意に満ちた表情で告げる。
「やっぱ愛里には応援して欲しい……」
ヒーローにとっての僅かな癒しを求めて快は愛里と連絡を取ろうとスマホを取り出しSNSアプリを開いた。
「ん……?」
そこである表示を見つける。
普段は画面に表示される事はないものだ。
「これ、もうすぐ誕生日の欄に……」
瀬川に画面を見せる。
すると彼も驚いたような反応を見せる。
「お、与方さんも誕生日近いのか」
そこに表示されているのは愛里のアカウントだ。
開いて詳しい誕生日を確認する。
「マジか」
その日時を見た快は驚いた。
愛里の誕生日として記されていた日時は十二月二十五日、クリスマス当日だ。
つまり快と同じ日なのである。
つづく
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