第22界 ワガタメニ

#1

ルシフェル・バシンによりゼノメサイアが倒されてしまった。

声にもならぬ愛里の絶叫、そして衝撃を隠せず顔に表してしまうTWELVEの一同。


『よぉし!あと一歩の所まで来たぁ!』


高笑いをあげるルシフェルを見て怒りが沸く瀬川。

声までは聞こえないが笑っているのは伝わって来たのだ。


「笑ってんじゃねぇぇぇっ!!」


ゴッド・オービスはウィング・クロウの両翼を取り外し大斧のジェットアクスとして構えた。

そのまま勢いよく突っ込んでいく。


『ヒヒヒ、じゃあ俺は失礼するぜぇ』


そう言い残すとルシフェルの魂はバシンの体から離れて何処かへ消えた。

バシンの肉体だけがその場に残されゴッド・オービスはそこへ向かって進んでいく。


「あぁっ!」


そしてそのままルシフェルが抜けたバシンの体をジェットアクスで切り裂く。


「グッ、ゴガァァ……」


そのままバシンは大ダメージを負い絶命した。

一同はそこで初めてルシフェルに逃げられた事に気付く。


「なっ、どこ行きやがった⁈」


慌てて辺りを見回すがルシフェルは見当たらない。

その場に取り残されたゴッド・オービスとバシンの死骸が虚しく愛里の潤んだ瞳に映されていた。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第22界 ワガタメニ






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朧げな意識の中で快は確かに感じていた。

精神世界の中でのカナンの丘で愛里と対峙している。


「愛里、違うんだ……!俺はもっとやれるっ」


今の敗北を誤魔化すように愛里に必死に言い訳を述べていく。

しかし効果は全くと言っていいほど無かった。

愛里は蔑むような目で快を睨んでいる。


「やめてって言ったのに、私が大事じゃないの……?」


「……え」


「私の気持ちなんかどうでも良いんでしょ、結局は自分の夢の方が大事なんだ」


まるで快の心を見透かしているかのような。

いや、快の心そのものを前にしているような気分だった。


「歩み寄るっていうのも快くんは自分のためにしかしない、自分を肯定してくれる人ばっかりを選んでるでしょ」


「そんな事は……っ」


「だから私にやめてって言われたら手を離したんだ」


何も言い返す事が出来なかった。

思い返せば快はいつも歩み寄られてからそれに気付き歩み寄り返していた。

自分から歩み寄った事など無かったのである。


「結局自分に都合の良い事だけ見て、都合が悪くなればすぐに目を背けて手を放す」


「違う……」


「貴方の歩み寄りなんてそんなもの、学んでるつもりで何も学んでない」


「やめろ……」


そして愛里は決定的な一言を言い放った。



「自分の罪も認められない、そんな人がヒーローになれる訳ないよ」



その言葉を聞いた快は突然目の色を変えた。

愛里の姿をして自分の夢を否定した存在に想いをぶつけたのだ。


「君だってそうだろっ⁈俺の夢を応援するって言っときながら自分に都合悪くなったらやめろって言うんだ!!」


そう必死に訴える快の目は絶望に染まっていた。

愛里の姿をした存在は見下すような顔で快を見つめている。


「君が応援してくれるって言うからここまで来れた、何度でも立ち上がれた!今更否定するなんて!」


あの日ベンチで交わした会話はずっと鮮明に覚えている。


「君こそ俺を都合よく思ってるんだろ⁈同じじゃないか、どの口が言うんだよっ!!」


そこまで言って気が付くともうそこに愛里の姿をした存在はいなかった。

その代わりにカナンの丘から見える景色がまるっきり変わっていたのである。


「~~っ⁈」


そこから見える景色は世界が赤紫に染まり、大地が裂け崩壊していく様子だった。


「これは……っ⁈」


その中心にはゼノメサイアらしき存在が両手を広げて浮かんでいる。

苦しそうに叫ぶその姿を見た快は鳥肌が立ってしまった。

それほどに恐ろしい光景だったのである。


「何でっ、ゼノメサイアがこんな……っ!」


自分に与えられたヒーローの力はこのようなものなのか、訳の分からない疑問が脳内を駆け巡り快は絶望するのであった。


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「ーーーはっ」


目を覚ました快。

そこは謎の病室らしき部屋だった。

そこに置かれたベッドの上に寝かされている。


「ここは……?」


私服のまま眠っていた快。

首からは少し輝きを失ったように思えるグレイスフィアが下げられていた。


「愛里……っ」


たった今見ていた夢の内容を鮮明に覚えている快は嫌な予感に全身を襲われベッドから立ち上がり外へ出るのであった。


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その施設の廊下を歩いている内に気付いた。

ここはConnect ONE本部であると。

ハイテクなSFチックの景色やすれ違う人々の恰好からも分かったが自分を見下すような冷たい視線が何よりもそう実感させた。


「気持ち悪い……っ」


パニック発作が出てしまった快は以前案内された休憩室で水を飲もうと急いで向かうのであった。

一方でTWELVEの隊員である名倉隊長と陽は暗い面持ちで休憩室へ入った。

するとそこに快がいるのを見つける。


「あれ……」


彼らは顔を見合わせ少し考えた後に頷き快の隣に座った。


「こんにちは……」


明らかに陽は緊張しているが伝えたい事があるようだ。

すると快が返事の代わりに悩みを話した。

それほど追い込まれているのだろう。


「俺、ヒーローになれないんですかね……」


「え……?」


「誰にも歩み寄れない、そしたら愛されない。こんな俺を誰も愛してくれない……」


陽と名倉隊長は余計に実感する。

彼は本当に自分たちと同じ存在なのだと。


「みんな凄い、もう俺なんて要らないんじゃ……」


TWELVEの存在を上げて自分を下げる快の発言に陽は思った事を伝える。


「僕さ、君が羨ましかったよ……」


まだ出撃したばかりの頃。

アモンとの問題が解決していなかった頃だ。


「僕なんか全然ダメでさ、今の君みたいに冷たい視線ばっか向けられてた」


「……」


「自分の力であんなに戦える君が羨ましかったんだ。君は他人が羨むような人だよ」


すると快が口を開いた。


「俺も貴方たちが出てきた時、羨ましかった」


「そうなの……?」


「俺なんか得体の知れない存在みたいに言われてたし、ちゃんと評価されるのが羨ましかった……」


「そうなんだ……」


そこから暫く沈黙が訪れる。

名倉隊長も何か言いたげだったが勇気が出ない。


「……今も同じだ」


そして快は再び口を開く。


「今は貴方たちは認められてる、でも俺は……っ」


「言ったでしょ……?羨ましかったって」


「それはゼノメサイアがですよね?」


「あ……」


何も言い返せなくなってしまう陽。


「正体が俺だと分かってから見下したり憐れむような目を向けたり、誰もヒーローとしては見てくれてない……っ!」


その手は震えていた。


「誰も俺自身を認めて愛してくれないんだ……」


完全に心を閉ざしてしまい卑屈になる快。

そんな姿を見て陽はこれ以上何も言えなくなってしまう。


「俺はっ……」


何とか名倉隊長が口を開く。

彼には思う事が山ほどあった。


「(俺は君を我々と同じ存在だと思い仲間だと思っていた、本当の君を見た事でその想いはより強くなったんだ……っ!!)」


快をゼノメサイアとしてではなく既に快自身として見ていた名倉隊長。

しかし快の絶望したような瞳を自分の言葉では浄化できないと思い自信を無くしてしまった。

そのため言葉を詰まらせてしまう。


「……何ですか」


鋭い眼光で睨む快。

たじろいでしまう名倉隊長。


「いや、何でもない……」


自信のなさから来る恐れが勝ってしまった。

結局何も言ってやる事ができないまま快は立ち上がる。


「もう帰ります」


そして休憩室を去っていった。

その歩みを名倉隊長と陽、二人とも止める事は出来なかった。

酷く後悔の残る表情をした二人がその場に取り残されていた。






つづく

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