#4

ルシフェル・バシンの誕生。

咲希にとってもこれは予想外の事態だった。

ドローンから様子を見ており驚愕している。


「何やってんのアイツ……っ!!」


机を思い切り叩き苛立ちを露わにする。

もう彼女の心にルシフェルへの仲間意識はなかった。


「今ゼノメサイアを倒せば愛里とヤツの関係が……!!」


自分らの計画に亀裂が入ってしまう。

そうなっては軌道を修正するのは至難の技だろう、いち早く計画を完遂したい咲希にとってそれは避けたい事態だった。

現場では既に戦いの中で体力を使ってしまっているゼノメサイアとゴッド・オービスのパイロット達を相手にルシフェルが確実に勝利を得ようとしていた。


『もうすぐだ、焦るなよぉ……』


自分にそう言い聞かせるルシフェル。

いつになく慎重である事が分かる。


「マズい、快がっ!」


瀬川は真っ先に親友でありゼノメサイアである快の心配をする。

たった今まで攻撃の反射を一身に引き受けていたのだ、大技まで使って。


『グゥゥゥ……』


心配した通りゼノメサイアはルシフェルの衝撃波と自らのエネルギー消費でかなりダメージを負っており立ち上がる事がやっとだった。

足元はふらついている。


「快っ、無理するな!コイツは俺らに任せてお前は退け!」


無線でそう呼びかける瀬川。

しかしそこまで言って気付く、快は今ヒーローにならなければならないと必死だと言う事。


『セアァァァ……ッ』


何とか構えを取りルシフェルを見据える。

夢に対する意地がそうさせるのだ。


「快……っ!」


そんな瀬川の無線に快から言葉が届く。


「退いてられないんだ、ここで逃げたら愛里や皆んなのヒーローになんか……っ!!」


しかし瀬川にも思う事はある。


「死んじまったら終わりだ!そしたら与方さんとも永遠に亀裂が入ったままだぞ……⁈」


一瞬だけ考えるような反応を見せる快。


「今ならまだ間に合うっ、死ぬような心配さえ掛けなければまた与方さんともやり直せるから!!」


しかし快はすぐにその言葉を一蹴してしまう。


「ごめん瀬川、一度掴んだものは離したくないんだ……」


そしてゼノメサイアとして快はルシフェルに突っ込んで行く。


『ゼアァァァッ……!!!』


その走りは見ているこちらがヒヤヒヤするほど足元がおぼついていなかった。


___________________________________________


両腕を広げて待ち構えるルシフェル。

しっかりとゼノメサイアと戦う姿勢だ。


『来やがれぇっ!!』


『トァアアアッ!!』


そして突進するゼノメサイアは思い切りルシフェルにタックルを食らわせた。

取っ組み合いのような体勢となる。

しかし明らかにゼノメサイアの力は落ちていた。


『グゥゥゥ……ッ⁈』


『よぉし、ここまで弱ってたら余裕だ……!』


そのままゼノメサイアの腹部を蹴り上げるルシフェル。

思い切り吹き飛ぶゼノメサイアは叫び声を上げた。


『おらぁっ!!』


『ガハァァァッ⁈』


そして背中から思い切り倒れたゼノメサイアを踏み付けるルシフェル。


『よしっ、よしっ!』


黙って見ていられないTWELVEの一同はゴッド・オービスを走らせる。


「やめろぉぉっ!!」


思い切り拳で殴り付けようとするがそこで黒いオーラが邪魔をする。

思い切りこちらに衝撃が伝わり吹き飛ばされてしまった。


「くぁっ、やっぱそれも使うかっ」


吹き飛ばされてから起き上がるまでの間にもゼノメサイアはルシフェルの猛攻を受け続ける。


『グハァッ……』


その様子を愛里はカナンの丘から見つめていた。


「あぁ……っ」


両手で頭を抱えて絶望している。

こんな光景は見たくない、しかしどうしても目が離せないのだ。


「やめて、もうやめて……!」


そしてルシフェルはまるで愛里の反応を伺うように意味深にカナンの丘の方を時々確認しながら攻撃を続けて行く。


『おらっ、早くっ!もう少しだっ!!』


何度も何度も倒れたままのゼノメサイアの腹部を踏み付ける。

ゴッド・オービスも諦めずに突進して来るが黒いオーラで完封していた。


「やめてっ……」


そして愛里の精神にも限界が訪れる。

愛するヒーローが苦しむ姿、それは以前経験したヒーローの死を連想させる。

もう二度とあんな想いはしたくなかった。


『グァアアアアッ!!!』


ゼノメサイアの悲痛な叫びが響く。

それに共鳴するかのように愛里も叫んだ。



「やめてぇぇぇーーーっ!!!」



それは一体誰へ向けた言葉なのだろうか。

愛するヒーローを攻撃するルシフェルか、それとも立ち上がり続け死へ向かって進んで行くヒーローに対してか。


『……来た』


その愛里の叫び声に反応したルシフェル。

カナンの丘の方を再度確認した。


「〜〜っ」


すると愛里が首から下げている快とお揃いのグレイスフィア。

その色が澄んだ蒼からどんどん黒ずんで行く。

輝きが一気に失われて行くのだ。


『よし、よしよしよぉぉーーしっ!!!』


その色を確認したルシフェルは大いに喜んだ。

一方で咲希もルシフェルの反応から事情を察知する。


「まさか愛里のグレイスフィアが……?」


全身の力が抜けてしまう咲希。

計画が遠回りしてしまう事が確定した。


『ヒヒヒッ、これで俺の夢まであと一歩だ……!』


黒いオーラでゴッド・オービスを防ぎ続けながらルシフェルはゼノメサイアの首を掴みとてつもない腕力で持ち上げる。

その場にいた一同は嫌な予感しかしなかった。


『グゥゥゥ……』


もう何も出来ないゼノメサイア。

ルシフェルは皮肉にも彼に感謝を告げる。


『感謝するぜ、お前が選ばれたお陰でようやく俺の夢が叶うんだ』


そして思い切りゼノメサイアの体を空中へ投げた。

そのまま宙を舞うゼノメサイアに向かってエネルギーを溜める。


『最後の仕事、頼んだぜ』


そして思い切り熱線を放った。



『天翔熱波・紫電!!!』



更に強化されたルシフェルの熱線は一直線に宙を舞うゼノメサイアへ向かいそのまま命中。


『ッ…………!!!!』


そのまま大爆発を起こし巨大な体を消し去ったのであった。


「〜〜っ」


声にならない叫び声が愛里の喉をキリキリと鳴らした。






つづく

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