第16界 オヤゴコロ

#1

ここは発達障害を抱えた子供たちが多く通う精神科と直結したデイケアセンター。

快の姉である美宇はここで臨床心理士として働いている。

婚約者の昌高もここにいる同業者だ。


「ホラ、ちゃんと集中して!」


今は学校の宿題をする時間だが担当している子供は全く集中してくれず手がかかる。

手がかかると言えば弟の事を思い出してしまった。


「嫌だー!」


「もう、先生に怒られちゃうよ?」


「嫌だぁー!」


子供は更に駄々をこねる。

上手く障害を持った子供を躾けられずに不甲斐なさを感じてしまった。

そして子供たちが帰った後、美宇は婚約者であり先日ここのセンター長へと昇進した昌高に声をかけられた。


「今日もお疲れ」


「マサ、お疲れさま」


後片付けをしながら二人は会話をしていた。


「あの子、なかなか大変でしょ?」


「快が小さい時を思い出すな……」


「今は立派に大きくなったでしょ?」


「……正直立派には思えない、まだまだ子供だよ」


かなり疲れが伺える美宇に昌高は以前彼女の祖母や快と家で食事したことを話題に出した。


「でも俺は快くん成長してるとおもうよ?この間も自分から歩み寄るって言ってたし」


しかしそれを問われた美宇は余計に自分の不甲斐なさを自覚し苦しみが増した。

快と上手く心を通わせられない日々を思い出したのである。


「それ私が拗ねたから快が大人として振る舞うしかなかったやつでしょ?それじゃ辛いだけだよ、もっと私が両親の代わりとして導いてやらないといけないのに……」


美宇は快の親代わりになりたいようだ。

しかし上手くやれずに落ち込んでいるらしい。


「快は私じゃ成長させてあげられない、こんなに頑張ってるのになぁ……」


彼女こそ快と同じように自分の存在理由が分からなくなってしまっているらしい。

そんな美宇を昌高は抱きしめる。


「大丈夫、俺が支えるから……」


そしてある提案をした。


「そろそろ籍入れてもいいんじゃないかな?俺もセンター長になった訳だし自信もって支えられるよ……!」


「うん、そうだね……」


こうして彼らは結婚を本格的に視野に入れ共に寄り添っていく事を決めるのだった。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第16界 オヤゴコロ






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帰りの車の中で美宇は老人ホームへ電話をしそこで暮らしている祖母へ繋いでもらった。


「あ、もしもし婆ちゃん?」


『こんな時間にどうしたの』


少し機嫌の悪そうな祖母に昌高との事を報告する。


「あのさ、そろそろマサと結婚しようと思って。そしたら快とももっと向き合える……」


胸の内を祖母に明かす。

しかしその反応は恐れていたものだった。


『だからまだ早いって言ったでしょ?アンタはまだ子供なんだから人の親になるんじゃないよ』


グチグチと同じ文句を言ってくる認知症初期の祖母に心が抉られる。


『あの子らが生きてたらねぇ、私も安心だったのに……』


そしていつもの如く死んだ両親を悔やむ発言をした。

また美宇の頑張りを蔑ろにするような発言だ。


「……もういいっ」


そのまま電話を切る美宇。

イライラを募らせながら帰宅した。

家に着いた美宇。


「ただいまぁ……」


すると今日はバイトに行っているはずの快の靴が玄関にある事に気づいた。

不思議に思いながら居間に入るとやはり快がおりテレビを見ていた。


「快、バイトは?」


「え、あぁ……」


何とも歯切れの悪い返事をする快。


「まさかサボったとか言わないよね?」


「サボってはいないよ……!」


「じゃあ何でいるの?」


すると快は躊躇うように無理やり口を開いて言った。


「……辞めた」


「え?」


「辞めたんだよ、バイト……」


その発言で美宇は少し固まってしまう。

快のバイトは美宇の少ない給料で不自由なく暮らすには必要不可欠のものだった。


「何言ってんの、生活苦しくなっちゃうじゃん……!」


昌高と結婚はするもののその予定はまだ知らない快が行う行動にしては軽率すぎると思ったのだ。


「ねぇ、わかってんの……⁈」


思い切り快の肩をゆする。

しかし当人にもそれなりの理由があった。


「しんどいんだよ純希との関係がさ!これ以上一緒に働くとか辛くて……」


「でもそれで生活苦しくしていいの?」


「俺はあのまま働く方が辛い」


「そう……」


美宇は頭を抱えて考える。

快がバイトを辞めたという事がかなりショックだったようだ。


「何でみう姉が悩むんだよ……」


「だって私の苦労とか考えずに辞めたでしょ?私の事は何も考えてくれてないって事……?」


「いやそういう訳じゃなくて、本当にしんどいから……」


しかし快は美宇の真意を分かっていないようだった。


「快には安定して立派になってほしいの、こんな軽率な事……!」


お金は大した問題ではなかった。

姉の事を考えずに軽率な行動をとった事が立派だとは思えなかったのだ。


「俺だって少しずつ成長してるよっ、みう姉が知らないだけで!それも知らずに言わないで欲しい!」


「じゃあそーゆー所見せてよ!何も見せてくれないから分からないじゃない!」


「瀬川とか……与方さんに聞いて」


快はそこで親友と恋人の話を出す。


「その人たちがどうしたの」


「一緒に成長出来た人たちだよ、二人とも歩み寄る事を教えてくれたんだ。だからみう姉にも歩み寄ろうとしてたのに……っ!」


その発言を聞いた美宇は更に大きなショックを受ける。

快を成長させたのは自分ではない、それに自分は気づかなかった。


「私は出来なかった……」


「え……?」


「快を導けなかった、親になれなかった……」


大粒の涙が瞳から溢れていく。

その涙と共に想いもあふれ出した。


「父さん母さんが死んで快の親代わりになろうとした、こんなに頑張ったのに私は快を傷つけただけ……」


「それは違っ……」


「何が違うの⁈違うならもっと褒めてくれても良かったのに!」


「みう姉……」


褒められたい。

その言葉を聞いて快は思わず自分と重ねてしまった。


「私だって親が欲しかったよ……っ」


そう言って玄関へ向かっていく美宇。

靴を履いてまるで家出をするような勢いだ。


「どこ行くんだよ……?」


「マサの所。あの人も快の親になってくれようと歩み寄ってるのに」


そして玄関の扉を開けて曇り空を見つめながら呟いた。


「私マサと結婚する。でも安心して、快とは関わらないようにするから」


扉を閉める美宇。

快は追いかけようとドアノブに手を伸ばしたが。


『埼玉県に罪獣が出現しました、近隣の住民は避難してください』


点けっぱなしだったテレビから緊急ニュースが流れる。

埼玉なので遠いが快は行かなければならない。


「クソっ……!」


姉より遠くの市民を優先し快はゼノメサイアへと変身。

罪獣が出現した現場に飛んで向かっていった。


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現場に到着したゼノメサイア。

すぐに罪獣の姿を確認できた。


「キィィイイイン……」


第拾ノ罪獣ザガンである。

まるで未確認飛行物体のようなその姿は金属製らしい。


『……?』


しかしザガンは何もして来ない。

ただ宙に浮かび彷徨っているだけのように見える。


『何だコイツ……?』


いくら睨みつけても何もして来ないザガンに段々腹が立ってくる。

美宇を追いかけるのをやめて来たというのにこの仕打ちなのか。

そこへTWELVEも到着。

同じようにザガンを気味悪く思った。


「目標を補足。だが動かず」


キャリー・マザーから切り離された四機は待機している。

竜司は蘭子に頼みをした。


「蘭子ちゃーん、分析頼むよー?」


「うっさい今やってるっつーの!」


キャリー・マザーからザガンを読み取り分析する。

相手は動かないのですぐに完了した。


「よし!今データ送ったよ!」


それぞれの機体に送られたデータによるとザガンは全身が金属で出来ているらしい。

そのため表面も中身も非常に硬いのだ。


「じゃあどうする?」


「動かない事に感謝して脳筋で行こう!」


蘭子の立てた作戦はこうだ。

動かないザガンにゼノメサイアの光線とゴッド・オービスの波動を最大火力で同時にぶつけるというのだ。


『わかったかゼノメサイア⁈』


名倉隊長がスピーカーをオンにしてゼノメサイアにも作戦を伝える。

ゼノメサイアもそれを聞き了承した。


「よし、合体だ!」


そのまま各機体は変形を始めた後、合体を行った。


『ゴォォォッド!オォォビス!!』


巨大人型兵器であるゴッド・オービスが完成された。

エネルギーを溜めていく。


『(今回は俺も活躍してやる……!)』


前回、活躍を全てゴッド・オービスに奪われてしまい失意の気持ちだったが今回は上手く出来そうだ。

ゼノメサイアもエネルギーを溜めていく。

そして同時に放った。



『ライトニング・レイ!』


『ライフ・ブラスター!』



神の雷と生命の波動が同時に放たれ一直線にザガンへ向かっていく。

全く避ける素振りすら見せないザガン。

このまま一撃で倒せると思いきや。


「キュゥウィィィィィンッ!!!」


突如として身体の一部を切り離しシールドのように展開させ直撃を防いだのだ。


「なっ⁈」


そのままザガンは身体を自在に変型させていく。

その様子はまるで万華鏡のようだった。


「マズい、何か仕掛けて来るぞ!」


そのままザガンは全身を大量の矢のような形に変え雨のように降り注いだ。


「うぉぉぉおおおおおっ⁈」


一つひとつの威力こそ高くはないものの数の暴力で大ダメージを受けるのには十分だった。


「シャッター展開っ!」


アモンがウィング・クロウのシャッターを展開しゴッド・オービスは攻撃を防ぐ。


「陽っ!!」


「へっ、一本一本は大した事ねぇ!」


そのままアモンは防ぎ切った。

敵の残弾が尽きたのである。


「キィィヨォォォン……」


飛び散ったザガンは身体をゆっくりと再構築させていく。


『グゥッ……!』


ゼノメサイアは血を流しながら負けじと飛びかかる。

しかしその攻撃はまるで液体に触れたかのようにすり抜けてしまった。


『ッ⁈』


その様子に一同は驚愕する。


「ターミネーターかよ!」


某SF映画に例えた瀬川。

その通りでザガンは液体金属で出来ておりその硬度を自在に操れるようだ。


「撃つぞっ、撃て竜司!」


「あいよっ……!」


ライド・スネークが変型した腕の指先からビーム弾を放つ。

しかしザガンの身体は全てをすり抜ける。

ビーム弾もダメだと言うのか。


「キュリィィィン!」


そしてザガンは身体の大部分を巨大な鈍器へと変型させ突進してきた。

それを受け止めるゴッド・オービス。


「ぐぅっ、コアとか無いのか蘭子ちゃん⁈」


「見当たらないねぇっ!」


ならばどう撃破するというのだろうか。

しかし今は何とか押し出して来るザガンを押し返さなければならない。


「蘭子ちゃん連拳ダダダ行くよ!」


「それダサいからやめろ!」


腕にエネルギーを集中させるゴッド・オービス。

そのまま一気にザガンを殴り飛ばした。


「ダ ダ ダ ダ ダ ダ ッ!!!」


ダサい名前とは裏腹に高威力で硬いザガンを突き飛ばした。

そのまま脚部からミサイルを放つ。


「多連装ミサイル発射っ!!」


タンク・タイタンのミサイルが炸裂する。

ほぼ全弾が命中した。

するとザガンの様子が変わる。


「キュゥオッ……フォン、フォン……」


心なしか鳴き声も少し濁った音になった気がする。

一体何が起こったのだろうか。


「まさかミサイルが効いてる……?」

 

何故かミサイル攻撃だけは通用している。

そこで蘭子は試した。


「まさか……」


キャリー・マザーに搭載されている実弾を放ってみる。

鉛で出来たその弾丸は見事に命中しザガンにダメージを与えた。


「キュォォン……ポンッ」


そして暫くザガンは悶えた後、まるで口から吐き出すように鉛玉や先程のミサイルの破片を吐き出した。

それが済んだらまた調子を整えるように変型を始めた。


「やっぱりね……!」


蘭子、ザガンの性質に気付いたようだ。


「瀬川、あんたの言った通りだよ!」


「え?」


突然厳しい蘭子から褒められた瀬川は戸惑いを見せる。


「ターミネーターの敵と一緒だ!ヤツは純正の金属じゃないと変型出来ないんだよ!」


「あぁ、そっか!」


「どういう事だ……?」


すぐに蘭子の言いたい事を理解した瀬川。

しかし名倉隊長は分からなかったようだ。


「つまり鉛とか他の鉄が混じったら動きは制限される!」 


弱点を導き出した蘭子。

果たしてこのまま勝利する事は出来るのだろうか。






つづく

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