#2
罪獣ザガンの弱点を見抜いた蘭子は作戦を導き出し全員に伝えた。
もちろんゼノメサイアにもスピーカーで伝えている。
「残りのミサイルと鉛弾を一斉に撃つ、そしたら一気に叩くよ!」
作戦を聞いて構えるゼノメサイアとゴッド・オービス。
しかしまだ一つ問題があった。
「お互い既に大技を放ったからな、エネルギーは残り少ない。確実に仕留めるんだ……!」
名倉隊長の言う通りエネルギーが残り少ないのだ。
出来るだけ節約した攻撃を行う事が要求される。
「よし、それじゃあ行くよ!」
蘭子の合図と共に鉛弾とミサイルが一斉に放たれる。
ザガンは変型し辺りに散らばるが多連装ミサイルには追尾性能がある。
「狙いやすくしてくれて感謝する!」
そのまま散らばったザガンの破片一つ一つにミサイルが一発ずつ命中する。
ミサイルの鉄が異物としてザガンの身体を侵食し始めた。
「よし今だ!」
『ゼアァァァッ!』
ゼノメサイアとゴッド・オービスは一気に走り出しザガンの破片を踏み潰そうと試みる。
だがしかしザガンもこれでやられるような罪獣では無かった。
「キィィィイイイイイ!!!」
ミサイルに侵食された部位を切り捨てて残った部位だけで飛び上がる。
「なっ⁈」
そのまま急ぐようにその身体を圧縮させ小さいがより硬い球体へと姿を変えた。
「ギュリリリ!!!」
球体と化した身体を高速回転させまるでドッジボールのようにゼノメサイアとゴッド・オービスを攻撃した。
『グハッ……⁈』
「何だこの威力⁈」
そのままバウンドしながら素早く高威力な攻撃を繰り返していく。
『ドォアッ⁈』
ゼノメサイアは既に立っているのが限界だった。
ゴッド・オービスも機体が悲鳴を上げている。
『機体損傷率七十パーセント』
コンピューターの声に危機感を覚える一同。
「ギュィィイイイッ!!!」
そしてとうとうゼノメサイアは倒れてしまった。
消滅こそしていないもののビルの谷間に横になりその姿は見えなくなった。
「(快ッ!)」
友を心配している暇はない。
ターゲットは完全にゴッド・オービスへと移ってしまったのだ。
「マズいな……っ!」
「ならっ!」
ゴッド・オービスは一度煙幕を放ち視界を遮る。
その隙に大きなビルの背後に隠れてジェットアクスを身に着けた。
「エネルギーがマジで少ねぇ……」
大斧を握る手には機械なのにも関わらず手汗が滲むような感覚があった。
ビルの背後に隠れ煙幕が晴れるのを待つ。
「もうすぐだよ……」
少しずつ煙が晴れてきた。
ザガンの姿が確認出来るまでもうすぐだ。
「よし、見えてきたぞ……」
ようやく煙が晴れる。
見えたザガンの姿は。
「え……?」
何とザガンは初めに遭遇した時の未確認飛行物体のような姿に戻っており全くこちらへ攻撃はしてこなかった。
「何で攻撃して来ないんだ……?」
その理由を蘭子は考える。
浮かんだ可能性は。
「まさかこっちから攻撃しないと襲って来ない……?」
その発言を聞いた竜司も意味を理解する。
「やり返してるだけって事か……?」
「そう、だから今は何もして来ないんだよ」
蘭子の言う通りザガンはいくら待っても何もして来ない。
名倉隊長がある提案をした。
「……今の内に撤退するぞ」
「え⁈」
「エネルギーも少ない、確実に倒せる状態を作ってからリベンジするんだ……!」
確かにこちらから仕掛けない限り攻撃をして来ないのなら被害も出ないだろう。
「……了解っ」
少し歯がゆさが残ったままゴッド・オービスは分離した後キャリー・マザーに接続し撤退した。
その際にゼノメサイアに声を掛ける。
「撤退だ、作戦を練り直してからまたやろう」
そのまま飛んで撤退していった。
取り残されたゼノメサイアも変身を解き快の姿へ戻る。
「クッソ……」
歯を食いしばり壁を殴る快。
複雑な気持ちで溢れていた。
「キィィイイイン……」
そしてゆっくりと風に乗るように漂流するザガンがそこから離れていった。
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美宇は婚約者である昌高の家へ家出して来ていた。
そこでニュース番組を見ている。
元気がなく反応を見せない美宇に昌高は声を掛けた。
「新兵器でも勝てなかったんだ……」
今回の撤退したというニュースの話題を持ち掛ける。
それでもあまりリアクションを見せない美宇を心配して昌高はある疑問を問いかける。
「快くん心配じゃないの?」
「……」
「前は凄く心配してたじゃん、罪獣出る度に巻き込まれるって」
「埼玉でしょ?遠いから大丈夫だよ……」
ようやく返事はしてくれるが何処か素っ気ない。
弟の事はなるべく考えたくないように思える。
「美宇……」
心配が募る昌高を他所にニュースではConnect ONEを非難する市民の声が映し出されていた。
『何で罪獣放っといて逃げたんだ⁈』
『軽率な行動が被害を拡大させた!』
『ただの一般人に現場を任せるからだろ!』
瀬川がTWELVEに入隊した事で明らかとなった一般人から招集して戦わせているという事実。
今回の結果から組織への不満は更に高まった。
・
・
・
そのニュースはConnect ONE本部の休憩室でも流されていた。
TWELVE隊員たちは不服そうにテレビの画面を見ている。
「…………」
しかし誰も文句を口にする事はない。
言いたい事は勿論あるが言った所で無駄である事を学んだのだ。
「っ……」
名倉隊長はインタビューを受ける市民の声を聞いてある記憶を思い出していた。
『もう良いです、そんな人の言う事はやっぱり聞けません!』
それはかつて信頼を得られず死なせてしまった部下の事だった。
自分の不甲斐なさで死なせてしまい罵声を浴びせられた記憶と今の状況が重なったのだ。
「……少し成長したと思ってもまたすぐに大きな壁にぶつかる」
小さな声で呟く名倉隊長。
他の隊員たちもその声を聞き余計に静かになった。
「そうっすよね、隊長もこうして話してくれるようになったってのに」
竜司が口を開く。
やるせない現実を嘆いていた。
「キリないっすよこれじゃあ。いつ幸せになれるんすか……?」
このまま成長し続けてもまた壁にぶつかる事の繰り返しになる事は容易に予想できた。
だとすれば永遠に幸せを感じ満足できる瞬間など訪れないのではないのだろうかと思ってしまう。
一方で瀬川は電話をかけていた。
相手はもちろん親友でありゼノメサイアの快である。
「もしもし快?大丈夫か……?」
応答した快に心配そうに声をかけるが予想通り快は元気がなかった。
『何が……?』
しかしゼノメサイアである事を本人は隠しているつもりなので何の事か分からないというような反応を見せた。
「罪獣だよ、倒せなかったから……」
『埼玉だろ?別にこっちは大丈夫だよ、ってか心配なのはそっちだよ』
「俺……?」
『ニュース見たけどさ、めっちゃ言われてるじゃん……』
「それは前からだから……」
そして瀬川は話題を移す。
さりげなく罪獣の話にもどそうとしたのだ、そしてゼノメサイアとしての快の気持ちを聞き出そうとしている。
「罪獣、何かする訳じゃねぇけどフラフラしてるから気をつけろよ。そっちにも行くかもしれねぇ」
すると快は思い出したかのようにある発言をした。
『みう姉……!そうだ、みう姉が今いない……!』
姉である美宇の心配をし出したのだ。
『また喧嘩してそのまま出て行っちゃった、全然帰って来ないんだよ……』
「でも罪獣は埼玉だから大丈夫だと思うぞ……?」
『うん、それはそうだけど何かすっごいモヤモヤするんだ……!』
快は胸の内を語り始める。
『結婚するって出て行ったからそのままもう戻って来ないんじゃないかって、俺も思う事はあるけどこんな結末は望んでない……』
「何かそっちも大変みたいだな……」
瀬川は快がまたゼノメサイアとは関係ない日常で悩んでいると知り複雑な気持ちになった。
「じゃあ俺このあと会議なんだ、この辺で失礼するぜ」
『うん、頑張って……』
こうして電話を切る。
瀬川は大きく溜息を吐き気持ちを整理しようとした。
「(快も俺たちと同じだ、せっかく成長したのにまた壁が……)」
先ほどの名倉隊長の言葉と重ねる。
それにプラス快にはゼノメサイアの事がある。
「二重で辛いだろ、アイツこそどうやって幸せになりゃ良いんだ……?」
そのまま瀬川は自販機で買った快のいつも飲んでいた缶コーラを飲むのだった。
・
・
・
瀬川からの電話を終えた後、快はコンビニで買ったカップラーメンを食べながらニュースを見ていた。
そこにはConnect ONEでけでなくゼノメサイアへの批判も当然映されていた。
『いつまでもあんな得体の知れないヤツに頼ってるから組織もダメになるんだ!』
まだ味方だと思われてすらいない。
瀬川たちと違い明確な敵対意識が伺えたため快は余計に悶えるのであった。
「俺だって頑張ってるのに……」
姉の居なくなった寂しい部屋で一人、自分を認めてもらえない苦しさに悶えていた。
それはゼノメサイアとして市民に向けた思いであり、快として美宇に向けた思いでもあった。
つづく
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