#5

崩壊し燃え盛る新宿の街。

バビロンが暴れる新宿の街。

そこへ眩い恵みの光が降り注いだ。


『オォォォ……』


その光の中から現れたのは巨大な"白黒の巨人"。


「何だアレ…」


逃げ惑う人々は振り返り巨人の出現に圧倒されていた。


『セアッ』


その巨人の正体は。


『これが、俺の変身……』


白黒の巨人に変身した快はその変貌した姿、目線の高さに驚いていた。


「グゥルルル……」


そこに迫るバビロン。


『そっか、俺が戦うのか……』


自分の手を見つめる。

この手で自分がやりたい事、今チャンスがあるのならやってやる。


『見てろよ……!』


今まで自分の夢を否定した奴らの顔を思い浮かべて拳を強く握った。

そして。


『ハアッ!』


拳を構えて戦闘体勢に入った。


『フオッ!』


「ゲアァァッ!」


二体の巨大な存在はお互いを目掛けて走り出した。

そのまま勢いよくぶつかり取っ組み合いを始める。


『オォォォ……ッ』


悪魔のような顔がすぐ目の前にある。


「(良いんだよな……?怪獣だし……!)」


その体勢のまま巨人はバビロンの顔面を右拳で殴った。


『ハッ!』


「グギャッ……⁈」


拳がバビロンの左頬にめり込む。

体勢が崩れた隙を巨人は見逃さなかった。


『ホッ、デリャッ!』


左足で回し蹴りを繰り出しバビロンの腹部を攻撃する。


「(イケるぞこれ……!)」


これなら自分もヒーローになれる。

そう思うと嬉しくなってしまい攻撃にも勢いが増す。


「ゲアァァッ!!」


『オッ……⁈』


しかし蹴り上げて片足立ちになっている所を尻尾で払われ思い切り背中から地面に倒れてしまう。

思ったより大分痛かった。


「グゲェェェッ!!」


倒れている巨人に噛みつこうと顔を勢いよく下げる。


『グッ、ウゥゥ……ッ!』


何とか手で口を押さえて凌ぐ。

隙だらけの腹部を両足で蹴り上げバビロンを転ばせる事に成功した。


「ゴゲッ……⁈」


よろよろと巨人は立ち上がる。


『ハァ、ハァ、フンッ……!』


まだだ、まだやれる。

今のは少し油断しただけだ。

そう自分に言い聞かせて構えを取り直した。


『セィリャァァッ!!』


そのまま殴りかかる体勢で走り出す。


「ギャァァオッ」


しかしバビロンは振り返り尻尾攻撃をして来た。


『ウッ⁈』


反応出来ず隣のビルに叩き付けられてしまう。


「ガァッ!!」


その隙に噛み付いて来るバビロン。 


『ハッ、ウゥオッ……』


何とか反応し避ける。

バビロンはそのまま後ろのビルに突っ込んで倒れてしまう。


『オォォォッ!!』


そこを見逃さない巨人。

バビロンの背後から飛び付き抱き上げるようにして腹を締め付けた。


「グゲゲ……ッ」


『オォォアッ……!!』


「グググ、ゴアオォォォォッ!!!」


その時、バビロンが口から宙に向かって熱線を放った。その勢いで巨人は吹き飛ばされてしまう。


『ァァッ⁈』


先程まで調子に乗っていた快は中々上手くいかない戦いにだんだん不安を覚えていく。


『あれ……?何か全然上手く戦えない……!』


しかしそんな事考えたくなかった。

上手くいかないだなんて、そんな事信じたくない。


『ホアァァァッ!』


何の策も無しに突っ込む。


「ゴギャァァァッ!!」


両手で攻撃するバビロン。


『フンッ!』


しかし巨人は両腕でそれをガードした。しかしそれが失敗だった。


「コォォォ……」


口にエネルギーを溜めている。

まさか熱線を撃つ気では。

慌てて避けようとするが。


『ハッ……!』


両腕でバビロンの攻撃を防いでいるのを忘れていた、これでは動けない。

そしてとうとう。


「ゴオォォォッ……!!」


バビロンの口から渾身の熱線が放たれる。


『フゴゴゴッ……!!!』


顔面からモロに食らったためまともに叫ぶ事すら出来ない。

巨人は後方へ大きく吹き飛ばされた。


『ハッ、ハッ……ァァッ!』


何て威力だ、間違いなくこれまでの人生で一番の痛みを味わった。

あまりの苦痛にのたうち回る。


『はぁっ、はぁ……!』


ドクンドクンッ

心臓の鼓動が早くなり体が震える。

パニック障害が出てしまった。


「ゴォロロロ……」


唸り声をあげ迫るバビロン。

一方快は腰が抜けてしまい全く動けなかった。


「(恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い)」


狂ってしまいそうな感覚の中、容赦なくバビロンは迫る。


『やめろ、来るなっ来るなぁーー!!』


慌てて手を前に出すが、その手を噛まれてしまう。


『あぁっ、ああ!』


バビロンは首を振ってまるでおもちゃのように巨人の腕で遊ぶ。


『やめろっ、離せこの野郎っ……!!』


そしてバビロンは巨人の腹部を足で何度も踏みつけた。


『ガッ、あっ、ゲホッ……!』


痛い、熱い、苦しい、だがそれ以上にヒーローになりたかったのにこんなにボコボコにされる惨めさ。

身体よりも心が痛かった。


『はっ………………はっ……………………』


どれだけの時間踏みつけられていただろう。

もう快には気力が残っていなかった。


「グルルルッ……グルッ、グルッ」


バビロンは今度は巨人の左足を噛んで巨人を引きずっている。


『……………………』


完全に気力を失ってしまう。

その時、快には走馬灯のようなイメージの世界が見えていた。


______________________________________________


今見えているのは両親の姿。

何度も怒った両親に叩かれて来たため目の前のバビロンが彼らに見えたのだ。


「何でもっと普通に出来ないの⁈いい子にしてなきゃダメでしょ⁈」


「母さんの気持ちを考えろ!お前にも心はあるだろう⁈」


そして何度も叩かれる。

そのうち罵声を浴びせて来る者の姿が少しずつ変化していった。


「私だって辛いんだから」


姉である美宇の姿に変わりマウントを取ってくる。


「お前なんかもう友達じゃない」


次は瀬川の姿になって絶交を宣言。


「ヒーローはもっと選ばれた人がなるんだよ」


そして愛里の姿にもなる。

今の快にとってはキツい一言を浴びせた。


『やめろ、やめてくれ……』


どんどん追い詰められて行く快の精神。

そして遂にみんなが一斉に最悪の言葉を発した。



「「お前はヒーローになれない」」



その言葉を聞いた途端、快の精神は崩れた気がした。


『……そんな』


その時何を思ったのだろう。


『…………ウソだ』


無理やり言い聞かせるように否定をする。


『………………そんな事ある訳がない』


しかし言葉とは裏腹に声は段々と弱くなって行く。


記憶に映る景色、覚えているのは殆ど辛い記憶ばかりだ。

いい思い出なんて殆ど残っていない。

そんな事があって良いのだろうか。



『……ふざけるな、こんな事あっちゃいけない』



自分だけずっと辛い目に遭い続けるなんてそんなの。


『理不尽すぎる!!!』


______________________________________________


『アアァァァアアアァァ……ッ!!』


突如巨人が大きな雄叫びをあげて目覚めた。

噛まれている左足を軸に背中から飛び上がる。


『ゼリャァァァッ!!』


そして捻挫して痛いはずの右足で全力の蹴りをバビロンの顔面に決めた。


「グゴォッ……⁈」


捻挫の痛みなんて今はどうでもよかった。

アドレナリンが止め処なく放出されているから。


『ざっけんな!俺はヒーローにならなきゃいけないんだ!!』


過去への怒りに燃えながら全身に力を込める。


『散々辛い思いしてきたのにその分いい思いが出来ないなんて……』


魂を込めて叫ぶ。


『割に合わねぇんだよ、バカヤロウ!!!』


そしてバビロンへと突っ込む。

今度は無策ではない。


「ゴアァッ!!」


前足を振りかざしてくる攻撃を避けると。


『ドゥラァァァッ!!』


人差し指と中指でバビロンの"左目"を突き刺した。


「ギャアアアアアアアアアッ!!!!」


『フンッ、フンッ!』


グリグリと抉るようにほじくる。

バビロンは想像を絶する痛みに暴れ回る。


『フンッ!』


そして指を目から離した後、両手でバビロンの頭を押さえた。


『ディイイリャッ!!』


思い切り左膝でバビロンの顎を攻撃した。

骨が砕ける感覚がよく伝わって来る。


「ガゴハッ……」


『フゥゥゥ……!』


そして巨人はバビロンの尻尾を掴みグルグル振り回す。


『ゼリャァァァアアアアッーー!!!』


そのまま思い切り投げ飛ばした。


「グゴアァァァッ……」


歌舞伎町の辺りに思い切り衝突し倒れる。 

相当なダメージを食らってしまった。


『オォォォォ……』


バビロンが倒れている隙に巨人はエネルギーを溜める。

両腕を広げて全身で"十字架"のような形を作る。


『ハアアァァァァーーーッ!!!』


そのまま両手を突き出し放たれる十字の波動。

罪という概念を滅する"神の雷"。



『ライトニング・レイ!!!』



蒼白の十字の雷が一直線に進みバビロンに衝突。 


「グッ、ゲガガッ……」


そのまま大爆発を起こし消滅した。

しかし雷の威力が制御できずに強すぎたのか爆発はどんどん広がっている。


『ーーッ』


そしてそのまま巨人自体も大爆発に呑まれた。

新宿の街を爆炎が包む。

巨人は一体どうなったのだろうか。


「……っ!!」


近くで見ていた市民たちが絶句しながらその様子を見ていた。

そして爆炎が少し晴れる、様子が見えて来た。

そこには。


『オォォォ……』


爆炎の中でまるで悪魔の如く立ち上がる白黒の巨人の姿だった。

メラメラと辺りは燃え上がり地獄のように見える。

市民たちは余計に言葉を失った。


『ハァッ……』


そして光の粒子となって白黒の巨人は姿を消した。

こうしてこの事件は一度幕を閉じたのであった。

更なる物語の幕開けなどとは誰も知らずに。


______________________________________________


その日、ニュースやネットの記事は突如現れた怪獣と巨人のネタで溢れていた。


《怪獣出現!終末は近い⁈》


《謎の巨人、敵か味方か?》


夕方のニュースでもその話題が急遽取り入れられた。


『突如出現した巨大不明生物と巨人の戦闘により甚大な被害が……』


どこを見てもそればかり。

当然SNSでもトレンド入りだ。


『新宿に怪獣出たってホント⁈』


『怪獣さん巨人さん、どれだけ被害出たと思ってるんですか?』


『クソ職場潰してくれてありがとう』


誰も現場の恐ろしさを知らない、書き込まれているのは面白半分な意見がほとんどだった。

あとは真面目な被害状況など。



一方快はと言うと。


「よかったぁぁ……!」


「…………」


姉である美宇が泣きながら震えた手で抱きしめて来た。

その美宇の様子を見て快は母の最期の瞬間を思い出していた。


「(何なんだこの親子は…)」


いつも怒っていると思ったら危険な目にあった途端優しくなる、ならいつも優しくしてくれよ。

そう思いながらも抱きしめられる事は拒否しなかった。


「(俺はヒーローになった。この世界を怪獣から救ったんだ。)」


いつか全人類が自分を褒め称えてたくさんの愛をくれるだろう。

そう期待する快であった。


そしてそんな快の右手には、英美の持っていた宝石のようなネックレスが握られていた。


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一方ここはどこかの施設。

そこにある椅子に一人の男が座り横には初老の男、そして視線の先には四人の若い男女の姿があった。


「すまないね、大幅に予定が狂ってしまった」


椅子に座った男が優しそうに言う。


「ゼノメサイア、こんなに早く出現するとはな」


隣に立っている初老の男が言った。

それを聞いて椅子に座った男は四人の若者たちに言った。


「これから少し様子見に入る、君たちも準備はしておいてね」


一体彼らは何者なのだろうか、何か知っているかのように思えるが。


「神の子よ、今度はどうする?」


そう言って不敵に微笑んだ。

そしてまた別の真っ暗な空間。

そこには巨大な"聖杯"が聳えていた。


「何でアイツが……!!」


一人の細身の女性が拳を握ってイライラしていた。

その様子をソファに座りながら見ているガラの悪い男がいる。


「ヒヒヒ、俺にとっちゃあ有難い結果だがな。これで夢が叶うかも知れねぇ」


彼らも何か知っていそうな素振りを見せていた。


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翌朝、快は眠い目をこすりながらテレビを点けた。

するとそこでは昨日の怪獣と巨人に関するニュースがやっていた。


『昨日の巨大不明生物と巨人により崩壊した新宿の街。特に歌舞伎町の被害が大きいようです』


ヘリから撮ったであろう映像には崩壊した新宿の街が映っていた。


『歌舞伎町のクラブでは大規模なイベントが行われていた模様で逃げ遅れ犠牲になった方々が約二千人ほどいた模様です』


そのキャスターの言葉を聞いて快はハッキリと目が覚める。

歌舞伎町と言えば自分がバビロンを投げつけた場所だ。

あの時は無我夢中だったが今思い返してみるととんでもない事をしてしまっていた事に気付く。


「(彼らを殺したのは俺だ……!!)」


ヒーローも甘くはない。

ニュースによって突如伝えられた現実が快の心を抉るように深く突き刺さるのであった。


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XenoMessiaN-ゼノメサイアN-

第1界 ハジメカイ





つづく




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