資料6ー第9話
自分の腕を見て気づく。腕からは無数の触手が生えていた。触手はまるで骨のように固まり、その場に固定されている。
「フハハハ、いいぞ、いいぞ! コイツは傑作だ!」
振り向くとエリックとサヤカがいた。彼はサヤカをヘッドロックし、空いたもう片方の腕から出した触手を彼女のこめかみに向けていた。
「おっと。この娘がどうなってもいいのか? ……いや、君は《彼女を殺したくて仕方ないはずだ》」
心臓が大きく鼓動する。何かドロドロとしたものが胸の内側から這い出ようとしている。まるで糸のようなそれらは、衝動となって体を力ませ、触手をより長く伸ばした。
「《ほら、どうした。早く殺すんだ、キミの手で》」
まるで湧水のようにコンコンと溢れ出す
サヤカをめちゃくちゃにしたい。彼女の細い体を無数の触手で貫いて吊し上げて、溢れ出す血を、臓物を、この体に浴びたい。
——アァ、ナンテ鮮明ナいめーじナンダ!
「ハル……カ……」
サヤカと目が合う。彼女は目に涙を浮かべながらこちらを見ていた。
——アァ、ソノ目カラ大粒ノ涙ガ溢レルホド痛メツケタイ。ソノカ弱イ呼吸ヲ完全ニ止メタイ。
——早ク……早ク、コノ手デ!
「……サヤカは、大丈夫だよ。ハルカも、サヤカも、みーんな大丈夫だよ」
何かが、
何かが止まった気がした。
胸の奥底から這い出てくるドロドロとした〝何か〟が止まった気がした。
「うるさい小娘だなぁ。主人公気取りで兄を改心させようなんて無駄だ。コイツはなぁ、もう我らの仲間なんだ。貴様のような下等生物の声なんぞ、まったく届かないんだよ」
エリックがサヤカの首を強く締める。
「ウッ……」
そのとき、
オレの心の中は光で満たされた。恒星さえも目を細めてしまうほどの眩しい光で、オレの心は満たされた。
「さあ、新たな同胞、ハルカよ! その手で自身の妹を……………………!」
オレの触手は人外の頭部を貫いた。
「お……ぉ……ぅ」
触手を引き抜くとエリックは倒れ、頭部から大量の血を流した。
「ハルカ……」
「サヤ……カ……」
彼女に触れようとして逡巡した。それでもサヤカはオレの頬に優しく触れてくれる。
——あぁ、なんて温かい手なんだ。
「ありがとう。サヤカを助けてくれて」
全身の強張りが弛緩していく。触手はみるみる短くなり、やがて体の内側に収まった。
「サヤカ!」
オレは彼女のことを思いっきり抱きしめた。まるで子供のような抱擁を彼女は目を瞑って受け止めてくれた。
「ハルカ……なんだよな」
振り向くとレスターとティアーナ、そしてシャオユウがいた。シャオユウは怪我をしてるのか、ティアーナに肩を担がれている。
「はい。どうやらまだハルカでいられるようです」
「そうか……」
「レスターさん、一つお願いがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ」
「もしオレが再び人外化してサヤカを手にかけようとしたとき、そのときは迷うことなくオレの頭を撃ち抜いてください」
とても恐ろしいことを言ってるはずなのに、自分でも驚くほどまっすぐな視線を彼に向けていた。
「わかった、約束しよう」
レスターは力強く頷いた。
***
やがて夜が明け、朝日が窓に差し込んできた。
まだ全てが解決したわけじゃない。
海の向こうでは惨劇が続いているし、本星から救助艦が来るまであと五日もある。
なにが起きるかわからない。
でも不思議と、乗り越えられる気がした。オレだけの力では無理でも、オレたちの力でなら……。
朝日を眺めるサヤカの手を強く握りしめる。
「フフッ」と彼女は嬉しそうに笑った。
——あぁ、朝日に照らされた彼女はとても美しい。
——————
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