資料6ー第7話
首を落とされたイレーネの死体はトマス・ハウスの庭に埋葬された。しかし、数時間後に跡形もなく消え失せていた。
掘り返した? エリックが?
「まさか! 少ない脳みそを振り絞って考えてみろよ、下等生物共。我はこの部屋にずっといたのだぞ。どうやって掘り返すというのかね。それに、掘り返したところで何をする。『おぉ、愛しのイレーネ』とでも嘆くのか。ハッ、馬鹿馬鹿しい」
八号室で足を組みながら彼は答えた。初日の恭しさはどこへやら。ざらざらの舌で舐めまわされるほど不快な口調だった。
では、エリックではないとすると誰が?
オレの脳に〝耳鳴り〟がこだまする。
——ヨミガエッタカ。
ヨミガエッタ=蘇った。イレーネが自力で蘇生したのであれば話は早い。だが彼女の首は完全に切断されていた。なのに復活するなんて、まさにファンタジーの世界じゃないか。
でも、もしイレーネが蘇っていたとしたら。
そして、今晩誰かを襲撃するとしたら。
その誰かがサヤカだとしたら。
***
就寝時刻、オレはサヤカの部屋にいた。ポケットにはサバイバルナイフを格納した〝カプセル〟がある。
「どうしたの、ハルカ?」
サヤカはきょとんとした表情でオレのことを見た。昼間の蒼白さが嘘のように、血色のいい顔をしていた。
「いや、その……。よかったら一緒に寝ない?」
彼女の顔が明るくなる。……まったく、本当にわかりやすいやつだ。
そして、
その笑顔に胸を締め付けられているオレも、ホントわかりやすい。
明かりを消して布団に入る。これからエッチなイベントが起きそうな気がするが、それはきっと心が汚れているからだ。彼女も、もちろんオレも
体を寄せ合うとほんのりシャンプーの香りがした。目と鼻の先にはサヤカの顔がある。艶のある肌に薄紅色の可愛い唇。こうやってまじまじ見ると、彼女は——
————カシャン
音がした。何かが割れる音だ。反射的に窓をみる。
窓から一つの黒い影。
「おまえ! どうし……ッ」
猛烈な重力が体にかかった。視界が反転し、浮遊感とともに外界へ引き摺り出される。
全身に強烈な痛みが走ると同時にタンスに衝突した。アイツに投げ飛ばされたんだ。
「よぉ——」
「〜〜〜〜!」
黒い影はいま、サヤカに覆い被さっていた。アイツの奥から彼女の声にならない悲鳴が聞こえる。
どこかからパンパンと発砲音が聞こえる。だが音の発生源は別部屋のようだ。レスターと誰かが戦闘してる? 誰と? 考える時間すら惜しい。
「グッ…………」
全身傷だらけだ。見なくてもわかる。タンスと接触した部分はヒリヒリしていた。
このまま体力の回復を待ちたい。
でも、助けなきゃ。
——助けなきゃ!
近くに落ちていた〝カプセル〟のボタンを押してサバイバルナイフを取り出す。
相変わらず黒い影はサヤカに覆い被さり何かを囁いていた。こちらに注意は向けられていない。
——やるんだ、ここで!
オレは音もなく黒い影に忍び寄ると、ナイフを背中に突き立てた。
「グアッ」
黒い影がうめき声をあげる。
まだだ。まだ、終わらない。
すかさず二撃目を————
「クソガァ!」
黒い影が背中から無数の棘を繰り出した。棘はオレの体を数箇所貫く。
反動で床に転がされる。刺された箇所からは血がドクドクと溢れ出した。
「貴様ァ、我はいま大事な仕事をしているのだぞ。あまりにおイタがすぎるようなら、貴様から殺してやろうか!」
いつの間にか別室に響いていた銃声は止んでいた。戦闘が終わったか。どっちが勝ったんだ? 関係ない。オレは信じてる。レスターは必ず来るって。
だから、サヤカを守り続けるんだ。
オレは近くに落ちていたナイフを手に取った。もはや立てる力もないくせに、精一杯腹から声を出す。
「へっ、やれるもんならやってみろ。この落ちこぼれヤロッ————」
無数の触手がオレの体を貫いた。痛みを感じる暇もないほどの連続攻撃だ。ナイフを投げようとするが、ナイフは砕け、腕の骨も砕け…………
腕が宙を舞う間も触手は次々と命中する。もはや体に空いた穴は数え切れない。
——眼前に触手が伸びてきて、視界は真っ暗になった。
最後に感じたのは、
腕が地面に叩きつけられる感触だった。
——————
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