資料6ー第5話
サヤカを自室で寝かせ、リビングに戻るとみんな沈鬱な表情をしていた。
オレが入ると、全員こちらを見る。
「みんな、どうしたの……」
「どうしたもこうしたもないだろう」
レスターが口を開いた。
「サヤカの様子は明らかにおかしかった。あれは突発性のPTSDではなく、本能的に恐れる何かを見た時の悲鳴だ。教えてくれ。彼女は一体何者だ」
オレはシャオユウの方を見た。
「言ってないの?」
「だって、これはキミの口から言わなくちゃ。きっと
オレは黙り、あたりは沈黙が流れた。まるでオレが話し出すのを待っているみたいに。
「サヤカは……人外の〝味〟がわかるんだ……」
そこからオレはサヤカの能力について話した。自分たちの出生も含めて全部話してしまおうかと思ったが、やっぱりやめた。だって……
ソファに並んで座るエリックとイレーネを恐る恐る見る。
「申し訳ないが……」
全てを話し終えたと同時にエリックが手を挙げた。
「当方こそ、この双子が怪しいと思わざるを得ません。あまりにも突拍子すぎるし非科学的です。ましてや、イ・ソヒ様が襲われたとき当方たちは外出していました。殺すことなんてできるわけがない」
「二人はあたしと一緒にいました。アリバイはあります」
「なら、シャオユウ様も共犯ということになります。どうでしょう。これで全て説明がつくのではないでしょうか? アレックス様を殺したのは双子で、アリバイを作るために味方のシャオユウ様がいるキッチンへ向かった。そして昨晩はイアン様を殺し、誰かが来ないかハルカ様が見張りを行っていた。結果、当方が出てきたたためイアン様一人を襲撃するに止めた。そしていま、イ・ソヒ様を……」
「よろしいですか、エリック殿」
ティアーナが前に出た。
「もし、その理屈が通じるようでしたら其方らにも殺害のチャンスがあるのではないでしょうか?」
「しかし当方らはイ・ソヒ様が殺害された時、外出していました」
「その外出だが、あまりにも近辺を散策してたんじゃないか?」
レスターも前に出る。
「どういうことです?」
「あなた方は俺たちがイ・ソヒを発見してから数分後に現れた。シャオユウの悲鳴を聞きつけて。彼女の悲鳴が聞こえる範囲は半径百メートル未満。イ・ソヒを殺したあと
エリックは引き攣った笑みを浮かべながら眉をピクピクさせている。オレは何も言うことができず、ただ立っていた。何かが起きそうな予感だけを抱えて。
「何ですか、あなた方は? まるで彼を擁護するような弁論を展開されて。よっぽど当方たちを犯人にしたてあげたいようですね。ねえ!」
シンとなる。
「考えてみてくださいよ!
まるで街頭演説をするカリスマ政治家のように迫真に満ちていた。そういえばこの人、有名企業の社長だっけ。
声の残響はリビングを満たした。エリックは息を弾ませながら胸ポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭った。レスターはただ彼のことを見ていた。
そして言った。
「確証は持てない。けど彼女の叫び声と彼の口から出た言葉は、とても嘘をついているようには見えなかった。だから俺は彼らの視点からも事件を考察していきたい」
胸のつっかえが取れた気がした。
エリックの笑いはいよいよ笑いとは呼べないほど歪んでいた。目に光はなく、奥歯を噛み締めているのが口を閉じていてもわかった。
「ティアーナ様、あなたはどうなのですか。あなたもレスター様同様、この双子の話を信じるのですか?」
「此方は常に公平に物事を判断します。たとえそれが気狂いの言うことであろうと、時価総額数億の社長の言うことであろうと」
彼女は間髪入れずに続けた。
「ここまで彼の話と其方の話を比較してきましたが、其方は迫力で訴えかけていて説得力に欠けます。そう考えると……、どうや其方の方が劣勢のようですね、
エリックの額から汗が一筋流れた。
「ククク、クハハハハ…………」
それから数十秒間、彼は笑い続けた。部屋には彼の声しか聞こえず、他の人たちは彼の次なる行動を注視していた。
ややあって、彼は笑いを止めた。
「白状しよう。当方らが犯人だ」
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