資料6ー第2話
イアンとシャオユウの二人の部屋から髪の毛を採取することに成功した。予定では今日中に全員分の髪の毛を集めるつもりだったが仕方ない。手に入っただけでも僥倖だと考えよう。
人々が自室に戻ってきた頃、オレたちはサヤカの部屋で〝占い〟を行った。
「じゃあ、始めるね」
サヤカはティッシュの上に並べられた髪の毛のうち、シャオユウの髪の毛を一束掴んだ。
ふと、彼女の手が震えていることに気づく。彼女はその震えに気づいているのだろうか。
——やめても、いいんだぞ。
そう言おうとしたとき、彼女と目が合った。彼女の目には怯えがあった。逃れられない〝悪〟と対峙しなければならない怯えがあった。
同時に決意があった。一度決めたら最後まで突き進む決意と覚悟があった。その目を見てしまうと、オレは何も言えない。
シャオユウは髪の毛を口に入れた。
——何も起きない。
彼女は続けてイアンの髪の毛を口に入れる。
————何も起きない。
二人は人外じゃなかった。
オレたちは大きくため息を吐いた。まるで大きなプロジェクトを成し遂げたようだが、まだ半分も達成されていない。
「あと、五人か……」
「ねえ、ハルカ。明日、二人にこのことを伝えようと思うんだけど、どうかな?」
オレは眉を顰めた。二人が人間であることは間違いない。しかし、彼らがオレたちの話を信じるかはまた別の問題だ。下手したらオレたちのことを人外だと思うかもしれない。そうなれば元の木阿弥だ。
でも……。
「いや、問題ないか」
サヤカの顔が明るくなる。
「ただし、カミングアウトするのはシャオユウだけだ」
「どうして?」
「お前の能力は非科学的すぎる。特にイアンは理系だから、下手すればオレたちが人外じゃないかと疑う可能性がある。一方でシャオユウは感情で動くタイプみたいだから、もしかすると協力してくれるかもしれない」
「えっと……非科学的で理系で感情的で……」
「要はイアンは信じてくれなさそうで、シャオユウは信じてくれそう、ということだ」
「なるほどぉ! じゃあ、明日は料理人さんに伝えて、信じてくれたらエンジニアさんに言えばいいんだね」
そういうわけでもないんだが、これ以上言っても無駄だなと思って閉口する。
もうすぐ〇時になろうとしていた。
「よし、今日はもう遅くなったし寝るか、じゃあ……」
部屋を出て行こうとしたとき、サヤカがオレの袖を引っ張った。見ると、唇を凹ませてオレのことを見つめている。
「どうした?」
「う、う〜ん。えっと……えっと……」
返事が曖昧だ。それに体をモジモジとさせている。もしかして……
「一緒に寝たいのか?」
サヤカは一回だけ頷いた。
…………。
「しょうがないな……」
ため息を吐くと、サヤカはワクワクした様子でベッドに向かった。
明かりを消し、ベッドに入る。薄暗闇の中からサヤカの顔が見えた。彼女はとても優しい笑みを浮かべてオレのことを見ていた。
オレも笑みを浮かべる。
やがて二人は目を閉じて、眠りの世界に落ちていった————
***
ね、寝れねえ〜。
寝れるわけねえ〜。
目の前に年頃の女の子がいるんだぞ! ゼンッゼン緊張するわ。
オレだって十五の男子だ。人並みに性欲はあるし、異性に見つめられたらドキッとしてしまう。それなのに…………。
あぁ、くそぅ。〝ファミリー〟の連中がニヤニヤしている様子が目に浮かぶって……。
そうか。彼らはもういないのか。
…………。
目を開けてサヤカの寝顔を見つめる。彼女が起きる様子はなく、静かな寝息を立てていた。しばらくして、オレはベッドから這い出てドアを開けた。廊下は暗くて寒く、思わず身震いする。
このまま自室に戻ろうかと思ったが、暗い廊下が昼間のサヤカを彷彿とさる。
——サヤカを、守らなきゃ。
オレは彼女の部屋の前に座り込むと、そのまま目を閉じた。脳はだいぶ前から睡眠を要求していたらしく、目を閉じて間もなく睡魔が襲ってきた。
***
廊下の寒さは蝕むように体の表層に染み込み、体温を下げていく。
ふと、肩から背中にかけて柔らかい感触がした。感触はオレと外界の間に一枚の壁を作り、寒さの侵攻を防いでくれる。
「そんなところで寝てると風邪をひくぞ、少年」
目を開けると、人影が見えた。暗くてはっきりとはわからないが、立ち振る舞いがエリックのような気がした。
「あり……がとう……」
虚ろな意識でオレは礼を言う。人影は何も言わずに離れていった。
オレは再び眠りについた。
おまけ
————
???「アレックス、泣くな。オレもいるよ」
アレックス「あ……あなたは、イアン殿!」
イアン「オレも、5分の4で序盤に死んでいる……」
アレックス「では、ワシらは仲間ですな」
イアン「仲間……」
がんばれ、二人とも!
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