資料5ー第6話
「そこの娘が言い当てた通り、イレーネは君たちの言葉でいえば〝人外〟だ。そしてご推察の通り我も〝人外〟だ。アレックスを殺し、イアンを殺し、イ・ソヒを殺したのは紛れもなく我らだ」
「どうしてそんなこと……」
「どうして? 他の命を使い調理する君からそんな疑問が出るとはね、シャオユウ。これは生存競争だ。我らと貴様ら、勝った方が生き残り、負けた方は絶滅する。至極単純な解だよ」
社長さんは足を組み直しました。
「その娘のせいで我らの正体はバレてしまったが、勘違いしないでほしい。その娘が暴いたのは〝我々〟の一部でしかない」
「どういうことだ?」
「言葉通りだよ、レスター。我々の仲間はまだ君たちの中にいる。それだけのことさ」
動揺が走りました。誰も喋っていないはずなのにザワッと聞こえたような気がしました。
「一つ質問を、エリック殿」
手を挙げる手品師さんに社長さんは会釈します。
「いま生き残っている中でサヤカ殿が分析していない人物は其方しかいません。となると、今の発言はブラフと捉えてもよろしいでしょうか?」
「こいつは他人の生体情報を経口摂取することで我らの仲間かそうでないかを判定することができるというが、その生体情報はどこから手に入れた?」
「み、みんなの部屋からだよ」
ハルカの答えに社長さんは笑いました。
「それが別人のものとは考えなかったのか? 例えばウエサワのものとか」
誰も何も言いませんでした。確かに、サヤカが食べた髪の毛が軍人さんのものでなければ彼が人外の可能性もあります。同様のことが他の人たちにも……。
そのとき、軍人さんが自分の髪の毛を引っこ抜きました。
「証拠が不十分なら、もう一度確かめればいい。生体情報の提供を拒否する人物がいたら、そいつが第三の人外だ」
社長さんは引き攣った笑みを浮かべました。
「はぁ、ウエサワのコンピュータについて何か知っていると思ったんだがな……。たとえ俺たちの中に人外がいようと、お前たちが人外であることに変わりない。本星の救助隊が来るまで監禁させてもらっ————」
一瞬の出来事でした。
お金持ちさんが立ち上がって、軍人さんの首元に迫りました。彼女の背中からは数本の触手が生え始めていて、あと一歩で届こうとしたとき、
手品師さんが素早く手で円を描きました。
お金持ちさんの首に一本の赤い線が現れます。赤い線はどんどん太くなり、やがて首と胴を分ける切断面になりました。
「あぶない!」
以降はハルカによって目隠しされてしまったのでわかりません。ブシャッと何かが溢れ出す音と、バタンと何かが倒れる音と、ゴロゴロと何かが転がる音だけが聞こえました。
何が起きたか想像することはできます。けれども、サヤカはハルカに感謝していました。
彼の指の隙間からは黒い〝何か〟が蠢いているのが見えたのです。
***
料理人さんに誘われ、シャワーを浴びにきました。バスルームは本来一人用なので二人で入ると狭くて体が触れ合ってしまいます。
サヤカの目の前には料理人さんの大きなお胸が! サヤカは思わず見入ってしまいました。
「どうしたの、サヤカちゃん。そんなにあたしの胸おおきい?」
目のやり場に困ったサヤカは自分の胸に視線を落とします。ここ一年でサヤカの胸も徐々に膨らんできたような気がしますが……。
「サヤカも大きくなるかな」
「え〜、どうだろう〜」
料理人さんははにかみながらシャンプーを泡立てると、サヤカの髪の毛を洗い始めました。彼女の指はサヤカの気持ちいところを的確に刺激し、石のように固かった頭がはにゃ〜んとなりそうでした。
「でも、胸が大きくても小さくてもサヤカちゃんは立派な大人になるよ。大人になって、誰かのために精一杯生きていくの」
「誰かのためって、誰のため?」
「それはサヤカちゃんが決めることだよ。みんながそれぞれ別の人のために生きていく。そうすれば、世界はもうちょっと良くなるはずなんだけどね……」
「じゃあサヤカはハルカのために生きよっかな」
「ハルカくんのため?」
「うん。だってハルカはサヤカのことを救ってくれたんだもん。ハルカがいなかったら、サヤカはここにはいないから」
「そっか……」
料理人さんは髪の毛についた泡を流し始めました。水が跳ねる音に混じって彼女の声が聞こえます。
「サヤカちゃん……あなた…………こから来……?」
何を聞きたいのかなんとなくわかりました。けどサヤカは聞こえないふりをして目を閉じます。
「別に答……くても……けどさ。でも、疑心…………らないでね。少な…………あたしはあなたたち……とを信じ…………だから。何か辛……とがあっ……いつで……談して……」
シャワーが流れたまま、彼女はサヤカのことを抱きしめました。ハルカにもされたことがない抱擁にサヤカの心は溶けてしまいそうでした。
ありがとう、
サヤカは心の中でそっとお礼を言いました。
***
部屋に戻ると、ハルカが椅子に座っていました。
「その……、今日も一緒に寝るか?」
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