資料5ー第2話
えーっとぉ……。
結論から言うと、ハルカの作戦は失敗しました。
キッチンに軍人さん含む三人が料理をしていたので、手伝うフリをして生体情報を取ろうとしたのです。
でも……
料理が入った鍋をひっくり返してしまったり、お皿を割ってしまったり。とても大きな失敗を重ねてしまいました。結果、サヤカたちは今後キッチンへ立ち入れなくなってしまったのです。
「すまん……。料理がこんな難しいものだとは知らなくって……」
食堂の椅子に座ると、隣に座ったハルカが言いました。
「ハルカのせいじゃないよ。サヤカ、お鍋をひっくり返しちゃったし……」
「オレだって皿を割ってしまったんだから、お互い様だ」
ハルカは俯くサヤカの顔を覗き込みました。ブラウンとブルーの瞳がブレずにサヤカのことを見つめて、サヤカは唇を歪めました。
「それより大切なのは〝これから何をするか〟だろ? いつだって同じだ。
「うん。そうだね」
夕食の時間を迎え、食堂には続々と人が入ってきました。サヤカたちは彼らに聞こえないよう小声で二度目の作戦会議を始めたのです。
***
完璧な作戦が出来上がりました。
食事が終わればみんなシャワーを浴びに行きます。その隙にみんなの部屋に忍び込んで生体情報を採取すれば一晩で全員の生体情報が集まります。明日の朝には誰が人外かはっきりするはずです。
するはずでした。
夕食の途中でトラブルが発生しました。お医者さんの死体が発見されたのです。お医者さんは自分の部屋で首を切られた状態で見つかりました。切断面には昼間見た時と同じ、〝黒い繊維〟が蠢いていました。
まるでジャンピングする茶葉のように上下に飛び跳ねる〝黒い繊維〟にサヤカの意識は徐々に吸い込まれていきました。
〝黒い繊維〟はたくさんの黒い糸が絡み合って形成され、その黒い糸もたくさんの細い糸によって形成されています。複雑に絡み合う糸の隙間を進むと、やがて光る結晶が見えてきました。結晶は、まるで頭の中に散りばめられた記憶の一片のようでした。
結晶はサヤカが近づくと光を強くし、サヤカの意識を包み込みます。
光が収まると、鉛筆で顔を塗りつぶされたおばあさんがいました。おばあさんはとても険しい表情をしていました。
『どうしてkoreを食べないんだい? さあ、お食べ』
サヤカは首を横に振りました。おばあさんの表情がさらに険しくなります。
『オマエは救世の子だよ、■■■■■■。あたしを失望させないでくれ。さあ、お食べ』
おばあさんは大きな葉っぱを差し出しました。葉っぱの上には〝赤黒い何か〟が、蠕動する〝黒い繊維〟と一緒に乗っかっています。
サヤカは再び首を横に振りました。口を手で覆い、抵抗の意を示します。
すると、おばあさんの顔が一瞬にして虚無に変わりました。まるで目や鼻や口が消えてしまったかのように無になってしまったのです。
おばあさんは言いました。
『そんな子に育てた覚えはないんだけどね。——仕方ない。言うことを聞かない子にはお仕置きだよ』
おばあさんはシワだらけの手を伸ばしてきました。黒い感情がインクを垂らしたときのように広がります。サヤカは直感しました。この先、見てはならないものが待っている。見ればサヤカの心は侵食されて、食い殺されてしまう。
逃げなきゃ……
逃げなきゃいけないのに、逃げ方を知らない。助けを呼ぶべきなのに、声が出ない。
どうしよう。どうすればいいんだろう。
誰か……誰か…………
「サヤカ……サヤカ!」
ハルカがサヤカの肩を叩きました。サヤカは〝おばあさん〟のいるところからお医者さんの死体がある部屋に移動していました。部屋にはすでに他の人はいませんでした。
「大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしていただけだから」
眉をひそめるハルカと一緒に、サヤカはみんなが待っている部屋に向かいました。
***
話し合いが終わったところでハルカが耳打ちをしました。
「このあと
サヤカは黙って頷きました。
みんながシャワーを浴びている間、部屋に忍び込み生体情報を集める……はずだったのですが、予想外の事態が判明しました。
この屋敷の部屋には鍵がかけられるのでした。少し考えてみればわかることです。ですが、サヤカたちはすっかりそのことを忘れていました。幸い、料理人さんとエンジニアさんの部屋は鍵がかかっていなかったので、二人の部屋を捜索しました。
「まあ、そんなもんだよ。何も手に入らないよりはマシだって。いつも言ってるだろ、『大切なのは
二人の部屋を捜索し終わったハルカは言いました。
サヤカの部屋に入ると、ハルカは床に座りました。サヤカもハルカの前に座ります。サヤカとハルカの間にはティッシュペーパーの上に乗った二束の髪の毛がありました。
「じゃあ、はじめようか」
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