資料5「双子:Ⅰ」
資料5ー第1話
〝黒い繊維〟が真っ赤な〝何か〟にこびりついていました。
ウゴウゴと蠢きながら。
サヤカ以外、誰も見ることはできません。
膨れ上がり、部屋を埋め尽くそうと、誰も見ることはできません。
〝黒い繊維〟はやがて〝黒い繭〟となりました。〝黒い繭〟はサヤカの意識を鷲掴みにして、繭の中に監禁します。
繭の中はヤスリで削られたような怨嗟と、初めて絶頂を知ったような叫喚が渦巻いていました。
〝狂気〟
そう表現しても差し支えない感情に、サヤカは舐められました。
——このときサヤカは思い知ったのです。住んでいた世界が狭かったことを。
——このときサヤカは思い出したのです。隠された〝思い出〟があることを。
〝思い出〟は次から次へとフラッシュバックして、
思い出して、思い出して……
脳が限界を迎えたとき、
身体の力がストンと抜けたのです。
***
『オマエは特別な子だよ、■■■■■■』
散りばめられた記憶の一片が語りかけてきました。
『オマエはワタシらを導く救世の子なんだよ』
サヤカは聞こえないふりをしようと耳を塞ぎました。けれども声は変わらず聞こえてきます。
『なにも心配する必要はない。オマエはワタシらの指示にしたがっていればいい。ただ、それだけでいい』
記憶の一片はサヤカのことなどお構いなしに話しかけてきます。無視すればいいのにちょっとだけ興味が湧いてしまうサヤカは悪い子でしょうか。
手を伸ばしたとき、
記憶の一片が光り出し、サヤカを包み込みます。
光が収まると、顔を鉛筆で塗りつぶされたおばあさんが笑みを浮かべながら大きな葉っぱを差し出してきました。葉っぱの上には〝赤黒い何か〟と〝黒い繊維〟が乗っかっていました。
『さあ、koreヲO食be〜』
サヤカは〝赤黒い何か〟を手に取ると口に運びました。
途端に舌が痺れます。吐き出そうとすると鉛筆で顔を塗りつぶされたおばあさんがサヤカの口を手で押さえつけました。
口の中に広がる激痛と息苦しさがサヤカの脳内で弾け飛びました。まるで頭が爆発して脳みそを撒き散らしてしまいそうで————
「…………っ」
「大丈夫か、サヤカ?」
ハルカが体を支えてくれました。
「ありがとう、ハルカ」
「あんまし無理すんなよ。さっき倒れたばっかなんだから」
「うん。でもいいの。なんかここにいなきゃいけない気がして……。いまは何の話をしてるの?」
ハルカはわずかに微笑みました。
「この中に人外がいるかもしれないんだって」
「人外が、なるほど……。あれ? サヤカたちはどうしてここにいるんだっけ?」
「出発する前に説明しただろう。ボスからの任務だよ。サヤカの〝占い〟で人外を見つけるんだ。まあ、依頼主は死んじゃったし、おそらくボスも死んでるだろうけどな」
「えっ! ボスさん死んじゃったの?」
「わからねえけど、ほぼ確実な。だってピセムの主要機関が壊滅させられたんだ。テレビ局だって奴らに襲撃された。このトマス・プランテーション以外に生存してる人類なんてもういないだろうって」
「そっか……」
炎上する都市がリビングのモニターに映し出される中、サヤカの脳裏に〝ファミリー〟のみんなが思い浮かびました。
***
テラスでハルカと作戦会議を行いました。
「年齢による身体能力の誤差はほとんどないから、敵を見つけるというよりも味方を増やす方がいいな。みんなの職業は料理人、社長、医者、手品師、エンジニア、お金持ち、学生、そして軍人。この中で一番味方でいて欲しいのは——」
テラスでハルカが作戦を立ててくれている間、サヤカは海を眺めながら先ほどの〝黒い繭〟について考えていました。これまでいくつもの〝黒い繭〟を見てきたけど、あんなに大きな〝繭〟は初めて見ました。
「おい、聞いてるか?」
「うん?」
「聞いてないよな」
「うん」
「うんって……。素直すぎるぞ」
「えへへへ〜」
「褒めてない。まあいいや。もう一度、作戦を言うからよく聞くんだぞ。今回の任務は一つの失敗が命取りになりかねないからな」
ハルカは作戦を説明してくれました。
「まずは軍人のレスターからだ。彼が一番人外であって欲しくないからまず最初に〝白〟を出す。次に医者のアレックス。理由は同じだ。あとは若い順から〝占い〟をして、適宜怪しい人が出てきたらその人を優先する。これでどうだ?」
「うん。いいと思うよ。それじゃあ」
「ああ。まずはレスターの元へ行こう」
おまけ
—————
ネット動画で料理を学ぶサヤカ。
「なるほどぉ。お湯を入れて3分待てばラーメンができるんだね」
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