資料4ー第4話
軍人のレスターさん。彼はここまで怪しい動きを見せていない。だが、もし彼が犯人であるなら状況は厳しくなる。双子は早めに〝白〟を出したかった。
しかし、彼は現在
そこであたしの出番だ。あたしはキッチンへ向かい、今日の調理で余った鶏肉のガラを生姜とニンニクと一緒に鍋へ入れて煮込む。二十分ほど煮込んでアクを取り、そこにキャベツやニンジンなど野菜を入れ、最後に刻み青ネギを振りかければ、
極上の逸品の完成だ。
一人前を椀に盛り付けてお盆に乗せると、レスターさんの部屋を訪ねる。
彼は昼間に比べて明らかに元気がなかった。明示できるわけではないが、全体的に暗い雰囲気が漂っていた。
「差し入れを持ってきました。その、元気出してくださいね」
「ハハ、元気ないように見えるか」
「ええ、まあ……」
「慣れないことをするもんじゃないな。覗き見なんて学生時代でさえやったことないのに……。いや、別に故意でやったわけじゃないんだが」
「わ、わかってますよ。わざとじゃないんですよね。レスターさん責任感強いから、余計に落ち込んでないか心配で……。食べてください。スープは体も心も温かくしてくれる魔法の飲み物ですから」
「あぁ、ありがとう」
レスターさんはお椀を受け取ると、鶏がらスープに口をつけた。その隙にあたしは部屋の中を探索する。部屋は薄暗いが目を凝らしながら怪しまれないように、絨毯の網目を見ていく。
あっ、見つけた!
ブラウンの短髪。レスターさんのもので間違いない。あたしはおもちゃを買ってもらった子供のように走り出そうとしたが、
「ごちそうさま……」
レスターさんがお椀を差し出してきたので慌てて受け取る。
そのとき、何かを落としたフリをして彼の髪の毛を回収する。咄嗟に思いついたにしてはグッド・アイデアだ。あとはこれを持って部屋を出るだけ。
「待ってくれ」
呼び止められた。心臓はレフェルサンスから内定をもらったとき以上に脈打っていた。
「いや、その……ありがとう。とても楽になったよ」
仄暗い灯に照らされた彼の顔は笑っていた。その笑みは、あたしの料理を食べた十日後に老衰で亡くなったお客さんにそっくりだった。
どうしてあのお客さんが……。
もしかすると、彼の隣に〝死神〟がいたからかもしれない。
気づいたときには、食器は洗い終わっていた。
***
レスターさんの髪の毛をサヤカに渡すと、彼女はそれを一口で食べた。顎を動かしていたから「美味しいの?」と尋ねる。
「味はしないですけど〜、人じゃなかったときはビビッと来るよ〜、ビビビッて」
彼女は笑みを浮かべて答えた。
結果、レスターさんは〝白〟だった。
この調子で一人ずつ炙り出していけば、いずれ犯人に辿り着けるだろう。双子は調査を続けると意気込んでいたが、もうすぐ十二時だ。今日はここまでにしようと提案した。反対されるかと思ったが、二人は意外にも素直に応じてくれた。
***
二人が帰った後。
灯を消し、布団に入り、目を瞑る。
弟妹や同僚たちは今頃どうしているだろう。インフラ施設も攻撃され、テレビ局の司会者も放送中に殺された。望みは薄い。
でも、どこかで生きていてほしい。
胸の中から滲み出るように涙が溢れ、頬を伝った。
夜は嫌いだ。昼なら抑えることができる黒い感情が、夜になるとヴァンパイアのようにあたしのことを飲み込もうとするから。
頭まで掛け布団を引っ張って体を丸くする。
目を閉じて、ゆっくり呼吸すれば——
ほら、簡単に眠ることができる。
***
バリバリバリバリ。
耳をドリルで貫かれたような音がして目を覚ました。
飛び起きて周囲を確認する。異常はなく、耳もドリルで貫通されていない。
空耳かな、と思ったところで今度は複数の足音が聞こえた。一人ではない。二人……、いや三人はいる。ドタドタと、慌てているように聞こえた。
「開けろ! 開けるんだ!」
誰かが別の部屋の扉を叩きながら叫ぶ。外で何が起こっているんだろう。あたしは静かに扉へ近づいた。
扉を開けたと同時にベキッと何かが砕ける音がした。急いで音のある方へ向かう。
そこにはイレーネさんに銃を向けるレスターさんがいた。
「俺を襲った人外がお前の部屋に入っていくのを見た。正直に答えろ。お前は、人外か?」
「違う……違うわ……」
銃口を向けられたイレーネさんは怯えているように見えた。
「そこまでです、
ティアーナさんは彼の銃口を下ろした。
「すまない……」
部屋にはレスターさんの声だけが響いた。
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