資料4ー第5話

 その夜、レスターさんとティアーナさんが何者かから襲撃を受け、


 イアンさんが死んだ。


 彼は自室で頭から血を流して倒れていた。殺されたのはレスターさんとティアーナさんが襲われる前だという。皆が寝静まった夜、彼は誰にも知られずに殺されたんだ。


 一同が集まったダイニングでは襲撃を受けた二人が犯人について説明していた。


「銃弾を十数発当てたが、俊敏に動き回っていた」

「相当なタフネス。さらに知略も長けている。一般市民が対抗できる相手ではありません」


 その後、犯人について話し合いが行われたが、ほとんどの人は寝ていたためアリバイを証明することはできなかった。


 そんな中、一人だけ怪しい人物が浮上した。


 エリックさんだ。


 彼はレスターさんとティアーナさんが襲われた直後、一階から現れた。本人はお手洗いに行っていたというが、二人のうちどちらかを襲って一階へ逃げることは可能だ。


 もし、エリックさんが犯人だとすると、イレーネさんも犯人ということになる。しかし彼女は寝ていたと主張し、物的証拠がないため追及することはできなかった。


 何より、先ほど「犯人を見た」と主張していたレスターさんが消極的だった。


「いや、もしかしたら見間違えたのかもしれない……」


 とか言い出して……。


 なんだろう。とても彼らしくない!


 よぉし。ここは一つ、シェフの力を見せてやりますか。




     ***




 キッチンに入って最初に目に入ったのはサツマイモだった。


 これを電子レンジで加熱して、すりこぎ棒でつぶす。それと砂糖、バターを鍋に入れ、加熱しながら生クリーム、卵黄、塩を加えて生地を作る。


 出来上がった生地を成形したパイシートの上に乗せ、オーブンで焼けば……


 スイートポテトの完成だ!




     ***




 みんなの反応は上々だった。暗い雰囲気も明るくなり、議論も「現状で犯人を特定することはできない」として終止符が打たれた。


 時刻は午前五時。会議が終わると、みんなは自室に戻っていった。あたしは朝食と昼食の仕込みを行うため一階に残る。


「あ、シャオユウ……」


 キッチンに向かおうとするとレスターさんに呼び止められた。彼は頭をかきながら


「スイートポテト、ありがとう。その、とてもおいしかったよ」


 と言った。彼の言葉に目は大きく見開き、口角は上がる。


「た、大したことじゃないですよ〜これくらい」


 思いついた単語を片っ端から並べる。取り繕ってる、なんて思われるとイヤだから「それじゃあ」と急いでキッチンの中に入った。


 調理台の前で思い起こす。


 ——最後に見た彼の顔。


「フフフ」


 これだから、料理はやめられない!




     ***




 スクランブルエッグとソーセージ、サラダ、そして自家製のバターロールとフランスパンを作った。


 フランスパンは作ったことがあったが、バターロールは初めてだったから不安だった。でも、二時間後にはふわふわの薄い皮がついたバターロールが完成した。フランスパンは文句なしのカリカリだ。


 朝食はバターロールを出した。昼食はフランスパンを使ったホットドッグにする予定だ。


 今からヨダレが垂れてくる。




     ***




 朝食後、エリックさんから親睦を深めるために海に行かないか、と誘われた。ほとんどの人が賛同したが、双子のサヤカとハルカは拒否しようとした。


「どうして? せっかくの海なのに」

「いや、別に……」と渋るハルカ。


「サヤカは行ってみたいです〜」

「なっ、ちょっと!」


 ハルカの動揺する姿にあたしは笑みを浮かべる。


「じゃあ、決まりだね。ほら、早く準備してきて!」


 三十分後、二人ともTシャツに半ズボンの姿で砂浜に現れた。こう見ると二人ともまだ幼いんだな。


「サヤカちゃんはどんな水着を着てきたの?」


 あたしは嬉しくなって尋ねてみた。

 すると、驚きの返事が返ってきた。




「ミズギ? ミズギってなんですか?」




 ……おやぁ?


「えっ、知らない? 泳ぐときに着るこうゆうの」


 あたしは着ていたTシャツをたくし上げた。日光に照らされた白肌とともに赤いビキニが姿を現す。


 あたしのビキニ姿を見たハルカは顔を真っ赤にした。まだ子供なんだなぁ。


 一方のサヤカは首を傾げた。


「う〜ん、サヤカはそういうの持ってきてないです〜」

「えっ、じゃあどうやって泳ぐつもりだったの?」

「このまま泳ぐつもりでした〜」


 両手を腰に当て、胸を張るサヤカにあたしは「まじか〜」と眉間を押さえた。なんとなく世間知らずの子だなと思っていたけど、まさかここまでとは……。もしかして二人とも水遊びをしたことがないんじゃないか?


 ひとまずハルカは許容できるとして、問題はサヤカだ。短パンにTシャツ。泳げば間違いなく


「よし、サヤカちゃん。あたしの水着を貸してあげるよ!」

「ホントですか〜。やった〜」


 サヤカは両手を上げて飛び跳ねた。


「あたしの部屋に行こう。——あっ、男子禁制だからね! いくらお兄ちゃんだからって、ついてきちゃダメだぞ!」

「バッ……誰が……」


 顔を真っ赤にするハルカを笑いながらあたし達はトマス・ハウスに戻った。




おまけ

————

   『自室でのシャオユウ』


「どれがいいかな〜」

 そう言いながら、着せ替え人形のように水着をサヤカに合わせる。

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