資料4ー第2話
振り向くと、ティアーナさんとレスターさんがいた。
「よろしければ、此方らもお手伝いいたしましょうか?」
「本当ですか。ありがとうございます!」
料理は人数が多ければ多いほど楽しくなる。あたしは大勢で料理するのが大好きだ。
食糧庫を開ける。
目に飛び込んできたのは真空冷凍パックに保存された鶏肉だった。最近届いたようで、鮮度がいい。
「鶏胸肉にオリーブオイル、ニンニク、塩、チーズとバジル。そして……」
野菜室を漁ると松の実を見つける。
「うん、これでできる!」
ティアーナさんにはニンニクと松の実をすりおろしてもらい、レスターさんには野菜を洗ってもらう。
その間にあたしは鶏肉を調理する。真空冷凍パックを開けると、霜が降りた胸肉が姿を現した。
「よ〜し、君はどんな子かな〜」
肉の筋に沿って刃物を入れる。刃物はスーッと滑らかに鶏肉を両断した。白くて綺麗な断面。いいね。一流店で扱うお肉のように解体されてから一分以内に冷凍されている。
「これなら厚みはそのままで、臭みをとりながらオーブンで一時間、温度は六十五度にしよう。芯まで火が通ったら皮に焼き目をつけて……。よしよしよし。そしたら下味は……」
一斉に思考が頭を駆け巡る。脳の全神経を解放しているようで頭が熱いがこの感覚が堪らない。サウナではないけれど、苦痛の中に快感がある。しかも、その先に待っているのが美味しいご飯なんだから整った所の騒ぎではない。
「ティアーナさん、すりおろしたらチーズと塩を入れて攪拌機で二十秒攪拌させてください。一秒でもずれるとダメなのでタイマーを使いましょう。レスターさんは野菜のカットをお願いします。葉物はちぎるように、根菜類はピーラーでささがきにして……そうです。そんな感じで完璧です! あっ、ティアーナさん。できたらバジルとオリーブオイルを加えてさらに一分攪拌させてください」
指示を出しながら自分の料理に下味をつけていく。塩、胡椒、オールスパイスを振りかけ、付け合わせにマッシュドポテトの準備をする。その間も二人の作業に目を配り、適宜指示と修正を行う。
『百面指しのニューカマー、ここに現る!』
どこかの雑誌でそんな見出しをつけられた。新人だろうが関係ない。調理台の前に立てば誰もが料理人だ。頭をフル回転させて汗を垂らして最高の料理を作り上げるだけ。
この過程が、あたしは大好きなんだ!
***
下ごしらえが終わり、鶏肉たちはオーブンの中に。ここから一時間、じっくり内側まで火を通していく。
「ん〜〜! みなさん、お疲れ様でした〜」
大きく伸びをしたとき、二人とも汗ばんでいることに気づいた。いつもと同じペースでしんどかったかな? でも、ついてきてくれたのはありがたい。
「
「ううん。あとはメインができるのを待つだけだから、一時間くらいは休憩してもらって大丈夫ですよ」
「そうですか……。では——」
そこからティアーナさんは
銃? 魔術?
ごめん、あたしは包丁とグリルしか知らない。
でも、彼女は包丁とグリルを使って〝戦え〟と言う。
戦う? あたしが?
えぇ——。いやだな……。
あたしは〝戦う〟よりも料理がしたい。
***
「し〜つれ〜しま〜す」
入り口を見ると、サヤカが大股で入ってきた。彼女のあとに続いてハルカが入ってくる。
「うわぁ! これが今日の夕飯ですか!」
彼女はオーブンのところまで駆け寄り、中を覗き込んだ。
「そうだよ。今日はチキンのグリル。美味しそうでしょう?」
「う〜、いい匂いです〜」
そう言いながらサヤカはオーブンの取っ手に手を伸ばした。
まずい。いま開けると閉じ込めた旨みが逃げ出してしまう。何より、中の熱風が彼女を直撃して、大火傷を負ってしまう。
「だ〜め!」
あたしは強い口調で彼女の腕をつねった。
「イタタタ、いたいですぅ」
彼女は取っ手から手を離した。
これは——
あたしは嫌な予感がしてハルカを見た。彼は調理台の上に乗った瓶を見つめていた。
「ダメだよ〜、ハルカく〜ん」
彼が近づく前に瓶を取り上げる。彼らは実家にいる
「もう〜ダメだよ。勝手に触っちゃ」
「ごめんなさいです〜」
「ご、ごめんなさい……」
「二人ともお腹空いてるの?」
並んだ二人は頷く。あたしはとびっきりの笑みを浮かべた。
「よ〜し、まっかせて! いま簡単なおやつを作ってあげるから!」
食糧庫からホットケーキミックス、卵、牛乳を取り出して混ぜ合わせ、綿棒で伸ばし、電子レンジで一分。
あっという間にクッキーが完成した。
「はい、どうぞ」
「うわぁ、とても美味しそうです〜」
サヤカはほっぺたを膨らませてクッキーを食べた。
ハルカも恐る恐るクッキーをつまむ。
「うっま……」
呟きは本音を表す。あたしは笑みを浮かべた。
「へへ〜ん、そうでしょ! 夕飯まであと少しだから待っててね!」
「はぁ〜い」
サヤカの満足げな声とともに双子はキッチンをあとにした。
おまけ
——————
『キッチンを出た後の双子』
サヤカとハルカは恍惚とした表情でキッチンから出てきた。
「はぁ〜、おいしかったぁ」
隣であくびをするサヤカをハルカはぼーっと眺めていた。視線は大きく開ける彼女の唇に向かうが、クッキーがもたらす満腹感によって「それ以上先」へは行かない。
それ以上、先へは…………
「あっ!」
ハルカの声にサヤカはあくびを噛み締める。
「どうしたの、ハルカ?」
「
「あぁ〜」
双子は揃って振り返り、キッチンを見た。ちょうどオーブンが開かれ、重厚なチキンの香りが二人の鼻腔をくすぐった。そのオーブンの前には汗を額に垂らした料理人がいる。
「また次の機会にしよっか」
サヤカは笑みを浮かべた。その笑みを、ハルカは断ることはできない。
二人は浮き足で食卓に向かった。
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