資料4「料理人」

資料4ー第1話

 美味しい料理はすべてを解決してくれる。


 喧嘩や紛争が絶えないのは皆んなお腹が空いてるから。


 安心して。あたしがとびっきりの料理を作ってあげるよ。それを食べてほっぺた落として、満腹になったら握手しよう。


 ——なんて、ね。




     ***




 倉庫を開けると、あたしの心に漂っていたモヤは一気に晴れた。隙間なく並んだ棚には隙間なく食料が敷き詰められている。


「おぉ!」


 叫ばずにはいられない。食料が足りなければ海に出ようと考えていたが、その必要はなさそうだ。これだけの食料があれば二日、いや二週間は暮らすことができる!


「す、すごい量、ですね」


 同伴のイアンさんが言う。


「これなら食料に困ることはないね。ヒューッ、さっすが〜」

「でも、なぜこんなに食料が……」


「心配性だったのかな? ほら、ここ結構離れてるし」

「ま、まあ……」


 食料問題が解決したあたしたちはリビングへ向かった。


 リビングは至って普通の内装だった。応接用のソファとローテーブル、複雑に編み込まれた絨毯と暖炉以外めぼしいものはない。


「う〜ん、ここには何もないかな」

「い、いや……たぶん、ここに……」


 引き返そうとしたとき、イアンさんがソファに向かった。彼が二人がけソファの肘掛けに触れると、ブンと音がしてホログラム・ディスプレイが現れた。


「すごいよ、イアンさん! よくわかったね!」

「い、いや……たまたまこのソファを通販で見たことがあっただけで……」


「それを知ってるだけでもすごいって!」

「と、ともかく、これでネットに接続できるかもしれません」


「あれ? ここってネット通じなかったっけ?」

「いえ、電波は良好のはずなんですけど、さっきから通じづらくって……」


 端末でSNSを開いてみても全く更新されない。いつもなら放置していても勝手に更新されるのに、更新のスクロールをしても新しい投稿が出てこない。


「えぇ、本当だ。なんでだろう?」

「つ、通信会社の基地局が不調だと、通じにくくなります。そのときは、他の通信会社の回線を繋ぐと解決することが、多いです」


「できるの、そんなこと?」

「ま、まあ……。端末では難しいですけど、コンピュータなら……」


「でも、コンピュータにはロックが——」


 言いかけて口を閉じだ。ホログラム・ディスプレイにはデスクトップ画面が表示されている。


「って、え⁉︎ 解除してる。すごっ、ハッカーじゃん!」

「いや、ロックがされていなかっただけで……」


「そんなことってある?」

「普通はかけるはずなんですが、開きました。と、とりあえず使えるネットワークがないか、調べてみます」


 コンピュータを操作する彼を、あたしは一歩離れたところから見ていた。

 すごいなぁ。最初は頼りない雰囲気だったけど、機械にこんなに詳しいなんて。


 ミルフィーユのように一枚ずつ、感嘆の思いを重ねていく。完成したらきっと甘くてとろけるような美味しさになるはずだ。


 でも——、


 ミルフィーユは完成することなく〝誰か〟によって蹴飛ばされてしまう。


 その〝誰か〟とは慟哭だったかもしれない、燃え上がる炎だったかもしれない、冷静を装いつつも青ざめた顔で原稿を読み上げるニュースキャスターだったかもしれない。


 目の前に映し出された惨劇の数々は、あたしに「それどころではない」と知らせていた。




     ***




「よし、やりますか!」


 調理台の前に立ち、顔を叩く。こういう時だからこそあたしの出番だ。とびっきりの料理を作って、みんなを笑顔にしなきゃ。


「もし、シャオユウ殿スー・シェフ


 振り向くと、ティアーナさんとレスターさんがいた。




おまけ

 ————

 シャオユウ

「お待たせ! ようやく、あたしの出番だね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る