駅と女と僕

色音

短編

「間も無く四番線に特急上野行きの列車が通過いたします。なお、この列_____」

ひたひた

駅のホームにアナウンスが流れる。

数分後ここは、飛び降り自殺の現場となる。

ひたひた

"僕が"飛び降りることによって何人に迷惑をかけるだろうか。

何人が僕に注目してくれる?

ひたひた

僕が死ぬことを何人が騒ぐ?

ひたひた

ネットで何人が呟く

ひたひた

あぁ僕を見てくれる?

あはは

ひたひた

「まもなく列車が通過いたしますので皆様黄色い線の内側に下がっ__」

僕を地より下へと招待する列車が見えてきた。

僕は黄色い線の内側より一歩踏み出し…

視線が僕へと向くのがわかる

「おィ_ーァー__ー_ッヤ___」

何人かが僕に駆け寄るが……遅い。

神様今行きますよ?笑

ひたひた

ひたひたひたひた

「あはは」

車掌さんと目が合う。片足が宙を蹴りもう片方の足も……

パチン

指を鳴らしたような音と共に両親の顔、大切な友達?ァ走馬灯?

ひたひた

ふと僕の体は重力と慣性を取り戻し片方の手が掴まれホームに戻される。

「?!」

ひたひた……

「駅でそれはダメだよ?みんなに迷惑がかかるだろ?」

丸メガネを傾け暖かい視線を僕に送る。

「何様のつもりだ?」

「自殺志願者の青年に言われたくはないけどねぇ〜?」

余計なお世話だ。これから僕が注目されるところだったのに…

「大丈夫ですか?!」

駅員が歩み寄り2人の間を割って様子を伺う。まさに顔面蒼白だ。

「ごめんなさい。私が見ていなきゃなのに、弟貧血気味で……。」

「?!」

彼女はこちらにウィンクを送りながら、さも本当かのように駅員に騙りかける。

「なるほど!ともかく大事にならなくてよかったです!お気をつけ下さいね!」

急停止した列車が再び動き出すと同時に周囲から偉そうにさも、心配げに他人事を話し合う声が聞こえてくる。

"姉"はこちらを向き気まずそうに笑みを作ると口を開いた。

「ここじゃあ、なんか、あれだし。移動しよっか?」

「1人でいいです。サヨナラ」

「そうわけには行かないよ。青年。こう見えて私は青少年更生員関連の人だからさ?カフェでも行こうよ?周囲の目もあるしさ?」

微笑むと僕の手を取り歩き出す。

彼女の手は冷たくされど女性とは思えないほど力強く感じた。

「君…何歳?」

「……伝える意味あります?もう会わないかもしれないのに」

「いいから…!」

「17」

そういうと彼女は目を見開き砂糖を床に落とした。

「ぇぇ?!17?!」

周囲の視線がこちらに向き何もないことを悟るとまた元の位置に目を戻す。

「17歳なんて、楽しいこと多そうだけどなぁ……」

簡単に語ってほしくはない。

17という数字は低くみえ、

まだ可愛い幼さを持っているように見えるが個を集団で跳ね除けその場所にいないような雰囲気を作り上げついていけない者や理解しない者の交流を閉ざすそんなあいつらの何がよく楽しいんだろうか。

「楽しくないですよ。褒められもせず心から笑うこともできない。好きなことでさえも勉強や友達(笑)なんかのつるみですることさえできやしない」

怒りを堪えて淡々と喋る。

「まだ、社畜の方がマシだ」

「あはは……気難しいんだね。君は」

そう微笑すると彼女は言葉を続ける。

「思春期真っ只中な君に一つ教えてあげよう。これから楽しいことがあるよ?」

「はっ!あるといいですね」

「でも、つらいことの方が多い。そのために頑張らなきゃいけないと思うんだ。」

「頑張りたくないから早期リタイアするんですよ」

「なら、家でやるべきだ。駅を利用したのは寂しさや承認欲求とかなんらかの動機があるはずでしょ?」

「……楽だからです。ほっといてくださいよ」

「誰かに相談とかしたかった?誰かに本気で向き合って欲しかった?」

この女の声が煩わしく感じ何より突き刺さる。

「君は、誰かにちゃんと見てもらいたかったんだね?」

「誰が、そんな、しょーもないこと」

そんなことを言ってもらうことを夢見ていた?違う。誰かとただ気まま。気軽に話して笑い合って。好きなことをして?違う。

「私でよければ付き合うよ?」

「駅のホームで助けて、捨てられた子犬を見た気分にでもなりましたか?ふざけないでください。今日初めましての人とこんな会話してること自体おかしいでしょ。もういいですか?」

僕は、声を震わせながら席を立つ。

「いつも、青年。君を私は見ていたよ?気持ち悪いかもしれないけど、学校に憂鬱そうに向かう君もスマホを傾けてすこし笑ってしまい焦って周囲を見る君も。」

「……ッ?!」

「ごめんね?結局は一目惚れなんだけどさ私…弟を駅で……それで、重ねちゃったのかな。青年と……。」

そんなことを悲しげに語る彼女はどこか儚げで懐かしく夢を彷彿させる美しさを持っていた。

「キモチワルイ……バカですね……。」

そういい僕はスマホの連絡先を彼女に見せ、連絡を取り合う仲になった。





月日が経ち彼女は"僕の彼女"になった。

自殺志願での飛び降りることをきっかけに彼女と出会えた。そして、前のように誰かに見てほしいなんてことはない。それは、彼女がいなくても変わらない。

なぜなら、それは、自分自身が1番わかってる。

誰かを労うのも喜びを得るのも悲しみも全て自分がしたことを常に最初に見て感じるのは"僕"自身だからだ。誰かに見てもらうために、頑張る。誰かに褒めてもらう。

そんな自己肯定感に苛まれ欲求に囚われ毎日を満喫できていないのは僕だった。

「ごめん、待った?」

「いや、全然?」

彼女は少し頬を高揚させて息を吸う。

「何笑ってるの?」

「誰かに見てもらわなくてもいいんだなって。最近思うようになってさ?」

「ふふ……あの時のこと?よかったね?」

そう彼女は笑うと

「一つだけ嘘ついてて……。」

「うん?」

彼女は口角を少しだけ下げて言葉を続ける、、

「弟は…まだ亡くなってないの。」

「そうなの…?良かったね?」

ひたひた

「でも、もうこっちにきちゃうの。」

「……?こっち…?」

ひたひた

「来ないで欲しかった。私がいれば……弟は……。」

ひたひた

ひたひたひた

「落ち着いて…?大丈夫だから。」

「あぁ…こういう世界も……レバ」

彼女はそういうと消えた…?

ひたひたひたひたひたひた

パチン…!

何かの音と共に世界が反転したかのように…

ひたひた

黒が白に戻り世界が元の色を取り戻すと…

ひたひた

パッァーーーーー!!!

列車の大きな汽笛が僕の鼓膜を破りホーム?に目をやると彼女が涙をこぼす。

車掌と目が合い……あぁこれは……今のは…

走馬と……

ドン…!

ひたひたひたひた

ひたひた

ひたひたひたひたひたひた

「ああいう世界もあったかもしれないのに……。」

ひた……ひた……

ざわ……ひたひたひたひた…

サマザマナ喧騒の中その言葉と涙がこぼれ落チル音だけガ破れたはずの耳を…鼓膜を通して僕の頭に入っていタ。


                                   ・完・

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駅と女と僕 色音 @sikine_0

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