1-③


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 夜雨ちゃんと淡雪ちゃんが作戦を立ててくれた日から、あたしはいつもよりノートを丁寧ていねいに書くようにした。

 要点や、先生が重要だと話していたところには、カラーペンでラインを引いて、『ここ、大事だよ!』とウサギさんのイラストを描く。

「うん、よしっ!」

(だけど、ノート貸してほしいなんて、たのまれることないよ……)

 授業が終わった後、あたしは自分のノートを見返しながらため息を吐く。

 その日も、白秋君は友達に声をかけられてすぐに席を立ち、バッグをつかんで教室を出ていってしまった。


 翌週の月曜日、めずらしく白秋君が学校をお休みしていた。夜雨ちゃんがほかの男子から聞いた話では、体調をくずしたみたいだ。大丈夫だいじょうぶかなと、心配になってあたしはとなりの席を見る。

 気がかりだけど、こういう時こそ隣の席のあたしが役に立たないと。

 あたしは真剣しんけんに授業を聞きながらしっかりと板書を書き写す。


 翌日にはすっかりよくなったらしく、白秋君は少し遅刻しながらも学校に来ていた。いつもと変わらない明るい声で男子たちと話をしている白秋君を見て、あたしもホッとする。

 数学の授業が始まる前、あたしはノートを準備しながらチラッと白秋君を見た。

(ノートを見せるなら、今だよね……!)

 昨日の授業の内容がわからないと、白秋君も困るはず。

 だけど、思い切って声をかける勇気が出てこない。

 白秋君は人気者だから、ノートを貸してくれる人もたくさんいそうだ。今すぐでなくても、後でだれかが声をかけるかもしれない。

 なやむあたしの頭の中で、かべの時計のかすような秒針の音がグルグルと回る。

 こうしている間にも時間が過ぎて、先生がやってくるかもしれないのに。

(どうすれば……っ!)

「青春、あのさ……」

 不意に声をかけられて、あたしはドキッとした。

 白秋君はキョロキョロしてから、「ノート見せて!」とあたしに向かって両手を合わせる。

 あたしは大きくうなずいて、「どうぞ!」と緊張きんちょうした手でノートをわたした。

 白秋君はあたしのノートをめくると、「すげー、完璧じゃん!」とおどろいている。褒めてもらえたと、心がパッと明るくなる気がした。

「えっと……ありがとう……」

 うれしくて飛び上がりたいくらいなのに、モジモジしてしまって小さな声しか出ない。

 白秋君はすぐさま、昨日の授業の内容を自分のノートに写し始める。

 チャイムが鳴り終わって先生が教室に現れるのとほとんど同時に、写し終えたあたしのノートを返してくれた。

 ページを開くと、「ありがと! めちゃくちゃわかりやすかった!」とメモがはさんであった。

 急いで描いたようなウサギさんのイラストも描かれている。思わず隣を見ると、白秋君はニコッと笑いかけてきた。

 日直の号令でみんな挨拶あいさつをすると、先生が出欠を確認かくにんする。

 夜雨ちゃんがほんの少し振り返り、『やったね』と言うように目配せしてくる。あたしも笑顔えがおになり、小さく頷いた。


(作戦は大成功だね……っ!)


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#コンパス ヒーロー観察記録 著/香坂茉里、原案・監修/#コンパス 戦闘摂理解析システム/角川ビーンズ文庫 @beans

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