第6話 五傑会議
「えー、この度は一部の視聴者の方にご不快な思いをさせてしまったということで…誠に遺憾ながらここにお詫び申し上げます…」
ここはゲットー領、執務室。
スタンの謝罪配信が行われていた。
画角から外れたところにいるアルスが、小声でスタンを嗜める。
(スタン様、そこで遺憾はまずいです。きちんと誠意をこめてください。)
(んなこと言われてもよ、あれ魔物だろ?なんで俺が謝罪しなきゃいけねーんだよ…)
(ここは耐えてください。あとは我々が処理しますので。)
(くそっ…なんで俺が…)
スタンが渋々謝罪配信を行なっているのには理由があった。
ゲットー領に隣接するメラニー領では、動物神を信仰するズーリア教の信徒が多数を占めている。
スタンが先日行ったドヤ顔大猿退治の配信に対し、抗議の意を示すためにゲットー領へ領兵を差し向けたというのが、今回の騒動の経緯。
ボンドからそれを聞いたアルスが帰着後すぐにセッティングを済ませ、でっち上げた企画に釣られてスタンがノコノコと現れた結果、今に至る。
(はあ…)
魔物を倒して良いことをしたと思っていたスタンだったが、冷や水をかけられたような気分だ。
しかしイチ配信者として、けじめをつけるべき時なのだと無理やり自分を納得させ、カメラに向き直る。
「改めまして、私スタン・G・ゲットーの名において、宣言いたします。この配信において、意図して特定の人や集団を貶める行為は致しません。今後もご覧頂いている皆様に楽しんでいただけるよう精一杯努力して参りますので、応援のほど、よろしくお願い致します。」
(やば、スタン様の真顔超かわ…)
寡黙な秘書の方からなにか聞こえた気がするが、気にしたら負けだ。
スタンはつむじが見えるほど頭を下げるのであった。
————————————
「集まりましたね。それでは五傑会議を始めます。」
そこはゲットー領主館の一室。
長テーブルと椅子しかないシンプルな室内に、男女5名の姿があった。
「皆さんお分かりかと思いますが、今日の議題はメラニー領との小競り合いの件です。エリスさん、現在の領境の状況はいかがでしょうか?」
「なにも変わらない。スタン様の詫び損。」
「フフッ。スタン様に頭を下げさせておいて収穫なしなの〜?潰しちゃおうかしら〜?」
淡々と報告するエリス、にこやかに青筋を立てるシーラ。
二人の強い視線は謝罪配信を指示したアルスへ集中する。
「それは好都合。ボンドさん、相手の勢力はどの程度でしょうか?」
「好都合ってあなた「ざっと二千といったところでしょうな!未だに膠着状態ですぞ!」
アルスの発言にヒートアップしかけたシーラであったが、批判の声はボンドの声のボリュームにかき消された。
「その程度なら、ボンドさん、お願いできますね?」
「もちろんですとも!血がたぎりますなあ!ガッハッハ!!」
「ふむ。ドッチョさん、流通網は…」
「とっくに止めとるわい。元々あの領地は旨味が少なかったからの。」
ボンド、ドッチョから快い返事を得たアルスは、さらに話を進める。
「上々ですね。とはいえ損失が出ないわけではないでしょう。シーラさん、今後は謝罪を行った上でメラニー領から“侵略行為”を受けるわけですが、損失は補えそうでしょうか?」
「なるほどね〜?そういうことなら、お姉さん本気出しちゃうわよ〜?」
得心した、とばかりに口端を上げたシーラ。
その表情はとても扇情的で、スタンに媚びているのと同じ人間とは思えなかった。
「問題ない。既に周辺領ではメラニー領の株はダダ下がり。スタン様の頭を下げさせた報い。」
「流石はエリスさん。では、皆さんよろしくお願いしますね。行動開始です。」
アルスはそう締めくくると、席を立つ。
その言葉を聞き届け、各々席を立って部屋を後にした。
転生領主はカン違い野郎 おかゆ @Okayu1120
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生領主はカン違い野郎の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます